肺塞栓症(読み)はいそくせんしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺塞栓症」の意味・わかりやすい解説

肺塞栓症
はいそくせんしょう

多くは静脈血栓、とくに下肢の深在静脈血栓が剥離(はくり)して肺動脈流入し、肺動脈閉塞されて生ずる疾患で、外傷とくに高齢者の骨盤や大腿(だいたい)骨の骨折火傷やけど)、手術、産褥(さんじょく)、心疾患、悪性腫瘍(しゅよう)、血液疾患などのときに発生しやすい。日本での頻度は欧米の約10分の1程度であるが、逐年増加の傾向にある。症状は、塞栓のおこった部位と血流遮断の範囲によって異なり、まったく無症状のものから、肺動脈主幹の閉塞による突然死まで多様である。中等度の塞栓の場合には、呼吸困難、胸痛チアノーゼ血痰(けったん)などがみられる。診断には胸部X線写真、心電図、血液ガス測定などを行うが、確定診断は肺血流スキャン、肺動脈造影によらない限り困難である。

[山口智道]

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知恵蔵 「肺塞栓症」の解説

肺塞栓症

母体の肺動脈あるいはその分枝が閉塞して、肺での酸素摂取がうまく行われなくなり、さらに血流が遮断されて急性右心不全を起こした状態。羊水塞栓症と肺血栓塞栓症があり、その比は1対9といわれ、出産前後の母体死亡の主要原因として注目されている。羊水塞栓症は、主として分娩進行中に羊水が母体の静脈に流入、羊水中の上皮細胞胎脂が肺の分岐した動脈を閉塞し、血流を遮る状態である。肺血栓塞栓症の主な原因は下肢の深部静脈血栓。その誘因としては、妊娠悪阻などによる脱水、妊娠中の血液凝固能の亢進、肥満、切迫早産や妊娠高血圧症候群(旧妊娠中毒症)などの長期安静臥床等による下肢や骨盤内の静脈のうっ血、帝王切開などの手術操作による血管障害や安静臥床なども考えられる。2004年の人口動態統計(厚生労働省)によると、妊産婦死亡49例中8例(16.3%)が、羊水及び血栓による肺塞栓症である。

(安達知子 愛育病院産婦人科部長 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肺塞栓症」の意味・わかりやすい解説

肺塞栓症
はいそくせんしょう
pulmonary embolism

肺動脈塞栓症ともいう。凝血などの塞栓によって肺動脈が部分的または完全に閉塞されるために起る病変をいう。肺塞栓の結果,肺組織に出血性壊死が生じるものは肺梗塞である。肺組織は,肺動脈以外にも気管支動脈や気道からも酸素の補給を受けられるので,肺塞栓によって肺梗塞が生じる頻度は 10%以下といわれる。肺塞栓症のおもな症状は呼吸困難で,これが長期に持続する場合は予後はよくない。万一,肺梗塞が起れば,この症状に胸痛と血痰が加わる。肺動脈塞栓の大部分は発症の数日後から溶解しはじめるが,ヘパリン,プラスミン,ウロキナーゼは塞栓溶解に効果がある。外科的に塞栓を除去することもある。また,長期臥床患者には,塞栓の形成を予防する処置をとる。肺塞栓症は,欧米では頻度が高く,死亡率も高い疾患で,近年,日本でも増加しつつある。

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家庭医学館 「肺塞栓症」の解説

はいそくせんしょう【肺塞栓症】

 肺塞栓症とは、肺動脈がつまることをいう一般的な用語で、血栓(けっせん)がつまったものを肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)といいます。
 そのほか、肺動脈につまるものとしては、骨折した場合の脂肪組織、がん細胞、真菌(しんきん)(かび)、空気などがあります。
 肺梗塞(はいこうそく)とは、肺塞栓で血流が止まり、その先の組織が壊死(えし)におちいったものをいいます。これはふつう、病理標本で確認されるものであり、診察や治療で使われる用語ではありません。

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