手相学(読み)テソウガク(英語表記)palmistry

翻訳|palmistry

デジタル大辞泉 「手相学」の意味・読み・例文・類語

てそう‐がく〔てサウ‐〕【手相学】

手相を研究する学問。

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改訂新版 世界大百科事典 「手相学」の意味・わかりやすい解説

手相学 (てそうがく)
palmistry

人の運勢は創造主である神または天によってあらかじめ定められており,それは手指と手掌の形と線条に示されていると考えてこれを〈手相〉と称し,この手相を読みとるための技術ないし理論を手相術あるいは手相学という。前3000年ころにインダス川の上流から中流にかけて移住し,モヘンジョ・ダロハラッパーの古代都市文化を築いた民族が手相術を創始したとされる。イギリス貴族出身の手相家ケイロCheiro(本名Louis Hamon,1866-1936。日本ではもっぱらキロの名で紹介されている)によれば,この地方に太古から住むジョーシと呼ばれる階級の人々が手相術を継承してきたという(《手相の言葉》)。その端緒は人の全身に刻まれたしわと運勢との関係を調べるサムドリカという術で,手掌のしわが運勢に深いかかわりをもつと考えられてハストリカという術に発展した。この手相術はメソポタミアを経てヘブライエジプトにも伝えられた。旧約聖書には〈わたしの手になんの悪いことがあるのですか〉(《サムエル記》上)とか〈その右の手には長寿があり,左の手には富と誉れがある〉(《箴言》)などとあり,当時のヘブライ人が手で運命を占っていたことがうかがえる。また《出エジプト記》にはモーセが人々にエジプト脱出記念の戒律と犠牲のことを述べて〈これを手につけて,しるしとし〉覚えるよう訴えるくだりがあり,運命は手に刻まれるという考え方が明瞭に語られている。このため,《ヨブ記》37章7節の〈彼はすべての人の手を封じられる。これはすべての人にみわざを知らせるためである〉と訳された句が問題になった。ヘブライ語原典では,〈封ずる〉のḥāṯamが〈印をつける〉とも訳せるので,ケイロが指摘するように,この句は〈彼はすべての人の手に印をつけられる。これはすべての人にその職分を知らせるためである〉とも読めるからで,ラテン語訳聖書《ウルガタ》でもそう翻訳している。教会が手相術を否定するためにわざと誤って英訳したとケイロは主張し,現在も手相術を肯定する人々は彼の説を援用する。

 古代ギリシアではピタゴラスが手相に関心を示したとされ,アナクサゴラスは手相術を教授している。アリストテレスも長命の人の手掌には直交する2本の線条か1本の線があるが,短命の人のは直交していないと述べる(《動物誌》第1巻)。彼の著作とされる手相の研究もあるが,信をおけない。占星術的な叙述が多いからである。ヒスパヌスHispanusがギリシアの手相術をラテン語に翻訳し,〈高潔で好学の士の注目に値する学問〉として紹介して以後,ローマでも広く受け入れられた。その後キリスト教が勢力を得るにつれて,手相術は占星術などとともに放逐されたが,13世紀初頭には十字軍遠征に参加したテンプル騎士団によって再びヨーロッパに持ちこまれて根づき,聖職者たちも研究するようになった。ハルトリープJ.Hartliebの《手相術》(1475),《図版アリストテレス手相術》(1490)などがとくに有名で,パラケルススも手相の研究に手を染めている。

 近代以後の著名な手相家は,フランスのダルパンティニS.D'Arpentigny,デバロールA.Desbarolles,ルノルマンM.Lenormand,イギリスのケイロ,アメリカのベンハムW.G.Benhamなどである。ダルパンティニはナポレオン軍の士官で,《手の科学》(1857)を著し,キログノミーchirognomie(手型学)という用語を唱えた。デバロールは《新手相術》《手の神秘》などの中で人の指紋がみな異なることを説き,手掌の線条とともにこれを運勢と関連づけた。ルノルマンはナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの運命を占ったことで有名である。ケイロは手相学(パーミストリーpalmistry)を手型学(カイログノミーchirognomy)と掌線学(カイロマンシーchiromancy)に分けて,両者相まって手相は判断できると説く。彼の顧客には当時のグラッドストン首相,サラ・ベルナール,マーク・トウェーンらがいた。

 中国では春秋時代に叔服が手相術を創始し,姑布子卿(こふしけい)が広めたといわれる。袁忠徹の《神相全編》は手相の最古の包括的文献で,日本にも伝えられた。日本では平安時代に貴族階級に広まり,江戸末期まで中国易学に基づく手相術が栄えた。水野南北著の《南北相法》などがある。大正初頭以後はヨーロッパの手相学が紹介され,在来の流儀と混交して現在に至っている。

 人の手掌にはギリシア人が感情線,頭脳線,生命線と命名した3本の基本線条があるが,その成立ちはそれぞれちがっている。母指を曲げたり小指の方向に引きよせる短母指屈筋,母指内転筋,母指対立筋が母指球と呼ばれる膨らみをつくり,母指を包んで手を握る際に母指球の辺縁部に生命線を深く刻む。この線条は筋肉が造ったものである。次に示指から小指まで四指を屈曲する際に手掌の小指側に深く,中央に向かって浅くなる横行線条が感情線で,指の関節運動が造るしわである。示指側から横行する頭脳線も関節運動によるが,母指球がつくる生命線に影響されて斜行するので感情線とつながらない。先天的に母指を欠いて5本の指が一様に並ぶ五指症five fingersには生命線がなく,横行する頭脳線が感情線と一致していわゆる猿線となる。これは母指の発達が十分でない猿に見られることに由来する呼称で,ダウン症候群など母指に異常のある場合のほか,正常でも見ることがあり,日本では枡掛筋(ますかけすじ)といわれ,長寿の相とされた。中国手相術では,感情線は天に応じて君主と父を象徴し貴賤を決める線,頭脳線は人に応じて賢愚を表し貧富を示す線,生命線は地に応じて臣を表し寿命を定める線に該当しており,3本の線条のうち2本が東西ほぼ同一の意義を有している。

 手掌にはこのほかに運命線,太陽線,結婚線,健康線,金星線その他があって運勢を決めているとされる。また西欧手相学では占星術の7星に対応して手掌を金星丘,第1火星丘,木星丘,土星丘,太陽丘,水星丘,第2火星丘,月丘とこれらに囲まれた火星平原に分け,中国流では八卦に分けて震兌坎離の四位と乾艮巽坤の四門とする。いずれも各部の発達程度から運勢を占おうとするが,このほかに手全体の型,指(特に母指)や爪の形状,指紋などからも総合的に運勢を判読する。このように手相学を信じるには,その土台となる占星術や五行・八卦の思想を理解しなければならない。これに対して,近年,手相と知能や性格との相関を科学的に見直す試みがなされている。C.G.カールスの《手のさまざまな形の土台とその意味》(1848),《人間の体型の象徴》(1853)以来,バスキッドN.Vaschide,ウォルフC.Wolffら,またクレッチマーら精神医学者らの研究が知られている。
 →人相学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手相学」の意味・わかりやすい解説

手相学
てそうがく
palmistry

人の手のひらに刻まれた線(→掌の襞)や肉づきから性格を読み解いたり,未来を占ったりする方法。手相占い chiromancy; chirosophyともいう。起源は不詳だが,一説には古代インドで始まり,世界各地に広まったとされる。ロマ(ジプシー。→ロム)の伝統的な占いも,彼らの起源であるインドに由来するとみられる。手相占いは中国やチベット,ペルシア,メソポタミア,エジプトで行なわれ,古代ギリシアで大きく発展した。中世には,色素斑は悪魔との契約のしるしと解釈され,魔女狩りに用いられた。その後,一時期衰退したが,ルネサンス期には再び盛んになり,17世紀には,経験と理論に基づく手相学の基本原理が模索された。18世紀末までの啓蒙主義の時代(→啓蒙政治思想)には 2度目の衰退期を迎えたが,19世紀にカジミール・ダルペンチーニやルイ・ハモン(別名キロ),ウィリアム・ベンハムらの活動により復活した。さらに 20世紀になると,カール・グスタフ・ユングの一派をはじめとする人々によって新たな注目を浴び,新しい解釈が加えられた。手に現れる身体的な特徴に超自然的で予言的な意味があるという手相学の主張に科学的な裏づけはないが,人間の手からはその人の健康状態や清潔さ,職業上の習慣や神経症的な癖(たこや爪をかんだ跡などはその一例)などがみてとれる。医者が診察の際に手を診ることはごく一般的であり,手相占い師が手から読み取った手がかりが,人を驚かせることもしばしばある。(→占い運勢占い

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世界大百科事典(旧版)内の手相学の言及

【占い】より

… そして,ルネサンスを迎えて,占星術をはじめとするさまざまな占いが再び盛行しはじめる。ドイツの皇帝ルドルフ2世も,ケプラーの師であるブラーエに自分のホロスコープを作成させているが,当時は,人体の各部分(ミクロコスモス)と天体の配置(マクロコスモス)との間に著しい照応が見られるとして,特に占星術と結びついた手相学人相学などが流行したのである。そうした傾向は近世に入ってさらに促進され,多くの予言者,占星術師,神秘家が登場するが,なかでも16世紀にシャルル9世の侍医をつとめたノストラダムスは有名である。…

※「手相学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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