通信に際して,送り手の意図が正しく伝わる場合が正解で,まちがって伝わる場合が誤解である。しかし,そう簡単に誤解ときめられぬ場合もあり,したがって誤解をただす方法もひとすじなわにいかない。送り手と受け手の関係でいえば,送り手だけでなく受け手の受取り方に誤解の原因がある場合も多い。
言葉を音声で人から人へ伝えるときには,まちがえる可能性が高い。むしろ機械と機械とに代わって送信と受信をしてもらうほうがまちがいが少ない。機械のように正確にということが,誤解をさけるうえで人間の手本になる。しかし,いったん人が通信に加われば誤解はつきものである。精密な機械を発信機・受信機として間におくとしても,おたがいに相手を信頼しない国の代表の間では,通信の解読に誤解の生じる確率は高い。誤解が戦争の危険を大きくする場合も考えなければならない。
信号の形が複雑になるにつれて,その通信内容からあいまいさを排除しにくくなる。発信者が通信の意図について十分に正しい判断をもっているとはかぎらない。誤解であるかどうかの判定は,発信者・受信者を含めてその通信を研究するものにひろく開放され疑問の対象として残される。機械と機械との間の,正解を保証された通信という型からはみだして,人間どうしの通信は,単純な記号から複雑な記号へ,さらに多面性をもつ象徴の体系へという形をとって,人間の歴史の中におかれており,何が正解で何が誤解かは証拠固めと分析を必要とする。誤解が当事者に不都合な結果をうむこともある反面,それが生きがいをうみだすこともある。誤解されたことについて発信者が誤解をただちに解きえないように抑圧の力がはたらく場合もある。誤解の考察は,論理学や機械工学だけでなく,世界大に開かれた今後の政治学,社会学,宗教学,文化人類学,歴史学の課題である。
執筆者:鶴見 俊輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…しかし実生活では,コミュニケーションがうまくいかないことが多い。送り手の言い違いや受け手の聞き違い,移動の過程で発生する雑音noise,情報の多義性(たとえば〈カネオクレタノム〉)や難解さ,情報の不足や過剰(とくに受け手の情報処理能力との関連で)など,誤解やコミュニケーション途絶breakdownをひき起こす要因はたくさんある。しかしなかでも,送り手と受け手の間に教養,体験,関心などの違いでコードにずれがあったり(世代間ギャップや異文化接触など),憎悪や不信があったり(信頼度credibilityギャップ)すると,それが障壁barrierとなり,コミュニケーションの成立を阻害する。…
※「誤解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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