( 1 )元来、バラモン教で火神アグニを供養するために、供物を焚焼する儀礼があり、これが密教にとり入れられたもの。
( 2 )密教の護摩は人間の煩悩を智慧の火で焼尽する修法である。祈願を書いた板や紙を護摩札といい、護符として用いられた。また護摩木の燃え残りや灰を服用したり、お守りとすることがあり、高野山奥院の護摩の灰は有名であった。
供物(くもつ)を火中に投じ、諸尊に供養する修法(しゅほう)。サンスクリット語のホーマhoma(焼く、焚(た)くの意)の音写。インドでバラモン教において古くから行われた祭祀(さいし)法であり、今日でも広く行われている。それは、供物を祭壇の炉中に投げると、火天アグニの手により火炎となって天に昇り、天の諸神の口に達し、諸神はそれにこたえて人間の願望をかなえてくれるとの信仰に基づく。この儀式を密教が摂取し、災いを除き福を招くという世間的願望に加えて、その奥にあるより高度な精神の解脱(げだつ)を成就しうるように組織したものが、現在、密教寺院で修されている護摩である。すなわち、不動明王や愛染(あいぜん)明王などの本尊の前に、火炉のある護摩壇を置き、規定の護摩木を焚き、火中に穀物などの供物を投じて本尊を供養する修法をいう。『大日経』「世出世護摩法品」には、世間の願望のみを目的とする外道(げどう)の44種の火法を批判し、火の真性を明らかにしている。このように精神面が重視されるに及んで護摩に2種の法が説かれるに至った。すなわち、壇を構え炉に供物を捧(ささ)げる形式を外護摩(げごま)(事護摩(じごま))、自身の無明煩悩(むみょうぼんのう)を転じて如来(にょらい)の智火(ちか)とし、妄分別(みだりにとらわれること)を焼除して浄菩提心(じょうぼだいしん)を成(じょう)ずるのが内護摩(ないごま)(理護摩)であると説き、外護摩にはかならず内護摩が具(そな)わり、内護摩にはかならず外護摩が伴うものとする。
また護摩法にはその目的から分類して、息災法、増益(そうやく)法、調伏(ちょうぶく)法、敬愛法の4種およびこれに鉤召(こうちょう)法を加えた5種がある。このうち息災法は、世俗的には天変・地異や病難・火難などを消滅する法であるが、内面的には自身の煩悩を除き去る法である。増益法とは、地位・福徳などを増進させることであるが、本義は菩提(ぼだい)心の福と智の二徳が増進することである。調伏法は、外敵を降伏させることで、内面的には自身の心の煩悩を断つことである。敬愛法は、人々の尊敬・親愛を得る法であるが、内面的には仏の慈悲を受け成仏(じょうぶつ)を実現することである。また鉤召法は、自身の求める理想の世界(悟りの世界)を招く法であるが、内面的には三悪趣(さんなくしゅ)(地獄、餓鬼(がき)、畜生(ちくしょう)の世界)に堕している人々を悟りの世界に招き入れる法である。このように目的によって法が異なるが、修法によって炉形、方向、行う時、用いられる色なども異にする。なお、修法の祈願の趣旨を板や紙に書いたものを護摩札(ごまふだ)といい、護符にされる。護摩法をもっとも体系的に示すものに『金剛頂瑜伽(ゆが)護摩儀軌(ぎき)』がある。
護摩法を修する壇を護摩壇という。中央に火炉(護摩炉)を置き、火炉の給仕のため行者の前に鳥居を立てる。壇上には炉の左側に嗽口(そこう)器と洒浄(しょうじょう)器を並べ、上にそれぞれ散杖(さんじょう)2本を置く。右側に五穀器と飲食(おんじき)器を並べ、その手前の杓休(しゃくやすめ)に大小の杓を置く。左脇机(わきづくえ)に散香(さんこう)、丸香(がんこう)、薬種その他の器を置き、右脇机には盛花、打鳴らし、檀木(だんもく)、乳木(にゅうもく)、箸(はし)、扇などを並べて置く。
[小野塚幾澄]
密教の代表的な修法の一つ。また護摩法,護摩供ともいう。サンスクリットのホーマhomaの音写で,焚焼,祀火の意味。本来はバラモン,ヒンドゥー教の儀礼で,供物を火中に投じ,煙にして天上の神に捧げて,祈願する祭式で,紀元前から行われる。密教ではホーマを信仰する他宗教の人々に親近感を持たせ,より高い悟りへ導く手段として護摩に意義を認め,火は如来の真実の智恵の標示であるとして,火中に投ずる供物を人間のさまざまな煩悩になぞらえ,これを焼き浄めて悟りを得ることを目的とした。実際に火を燃やして行う護摩を事護摩,外護摩(げごま)といい,瞑想の中で行う観想的護摩を理護摩,内護摩(ないごま)という。護摩は仏,菩薩,明王などの密教の諸尊を本尊として修されるが,一般に不動明王を本尊とすることが多い。修法の目的は,災厄を消除する〈息災〉,福徳・利益を増進する〈増益〉,他からの障害を除去する〈調伏〉,和合・親睦を祈る〈敬愛〉の4種に分類され,それによって,護摩炉の色・形,始める時刻,向かう方位などが規定される。護摩のときに護摩木(ごまぎ)に添えて,施主や参列者の祈願を記した木を焼くが,これを添護摩(そえごま)という。修法の目的・趣旨を板片や紙に記したものを護摩札(ごまふだ)といい,護符に用いられる。また,護摩木の燃え残りや灰を服用したりお守りとする信仰も広く行われ,かつて高野山奥の院の護摩の灰は最も有名であったが,悪用されたことから悪人の代名詞となった。護摩は修験道や神道でも行われ,とくに修験道では野外で盛大な火を焚く柴(採)灯(さいとう)護摩を生んだ。これは密教の護摩と民間信仰の火祭が習合したものである。
執筆者:和多 秀乗
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…修験道独自の護摩儀礼。野外に護摩木や藁(わら)などを積み上げ,そこへ仏菩薩を招き点火する。…
…付木は先ににおいの強い硫黄がついているので縁起物や魔よけとされ,マッチが普及してからも贈答に使われた。また,修験者がたく護摩(ごま)木は,この火によってすべての罪障を焼きはらい,不動明王と一体化するなどといった象徴的な意味があり,これには土地ごとにカツギ(勝木)と称されている木が選ばれている。宮中での御竈木(みかまぎ)(御薪)の風習をはじめ,正月の神祭用の薪である年木(鬼木(おにぎ)や幸木(さいわいぎ)などともよばれる),竜宮の水神に薪を与えるモティーフをもつ〈竜宮童子〉の昔話などからも,薪が単なる燃料ではなかったことがわかる。…
…祭式の場に勧請する神はさまざまであるが,なかでも火神アグニが重視された。祭壇に火をおこしてその中にバターや祭餅などを投げ込むことをホーマ(護摩)というが,これはアグニを通じて天界の神々に供物をささげることを意味する。 祭式を執行するのは司祭階級バラモン(婆羅門。…
…密教法具は当初,最澄,空海,常暁,円行,円仁,恵運,円珍,宗叡の入唐八家によって請来されたが,おのおのに若干の異同があって整合性を欠く。この時代のものを大別すると金剛杵(こんごうしよ)と金剛鈴(こんごうれい)が主流をなし,異種に独鈷(どつこ)杵の端に宝珠をつけた金錍(こんべい)があり,そのほか輪宝(りんぼう),羯磨(かつま),四橛(しけつ),盤子(ばんし)(金剛盤),閼伽盞(あかさん),護摩(ごま)炉,護摩杓などがあるが,供養具まで完備するには至っていない。やがて,壇上に火舎(かしや)(香炉)を中心に六器(ろつき),花瓶(けびよう),飯食器(おんじきき)などをそろえた一面器,さらに四面器を配するなど,密法法具の整備拡充が進む。…
※「護摩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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