愛染明王(読み)あいぜんみょうおう

精選版 日本国語大辞典 「愛染明王」の意味・読み・例文・類語

あいぜん‐みょうおう ‥ミャウワウ【愛染明王】

〘名〙 (Rāga-rāja の訳語。愛着染色の意)
仏語真言密教の神。愛欲を本体とする愛の神。全身赤色で、三目、六臂(ろっぴ)、頭に獅子の冠をいただき、顔には常に怒りの相を表わす。愛染王
※車屋本謡曲・放下僧(1464頃)「さればあいぜん明王も、神通の弓に智恵の箭をもって、しまのいくさをやぶり給ふ」
② (「愛染明王法」の略) =あいぜんほう(愛染法)
太平記(14C後)三三「愛染(アイゼン)明王、一字文殊、不動慈救(ふとうじく)延命の法、種々の懇祈(こんき)を致せども」

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デジタル大辞泉 「愛染明王」の意味・読み・例文・類語

あいぜん‐みょうおう〔‐ミヤウワウ〕【愛染明王】

《〈梵〉Rāga-rājaの訳》密教の神。愛欲などの迷いがそのまま悟りにつながることを示し、外見は忿怒ふんぬ暴悪の形をとるが、内面は愛をもって衆生しゅじょう解脱させる。三目六臂ろっぴで、種々の武器を手にした姿に表す。愛染王。

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改訂新版 世界大百科事典 「愛染明王」の意味・わかりやすい解説

愛染明王 (あいぜんみょうおう)

サンスクリットRāga-rājaの訳。真言密教で信仰する明王の一つ。愛欲と貪染(とんぜん)をそのまま浄菩提心とする三昧(さんまい)に住する尊で,金剛薩埵または金剛王,金剛愛菩薩の化身とされる。平安初期に日本に伝えられ,平安後期以降の作例が現存する。通形は三目六臂,赤色の忿怒(ふんぬ)の像で,蓮華座上に結跏趺坐(けつかふざ)する。六臂の中の中央左右に弓と矢を持ち,蓮華座の下方に宝瓶がある。白描図像には種々の形式の像が見られるが,現存作品を見ると図像の上の形式的展開は顕著ではなく,一般的な形のほかには円珍請来と伝える像が知られる程度である。その形像は矢を頭上に向けて射る姿勢を表しているので〈天弓愛染〉の通称がある。
執筆者: 愛染明王は諸仏の中でも霊験いちじるしいとして息災延命,増長福寿の信仰があった。平安時代には白河天皇が25歳の重厄に際して延寿命法として愛染王法を修したが,玉体安穏,宝寿長遠を祈ることが多かった。中世以降になると男女間の縁結びの信仰から,さらにこの明王を信仰すると美貌になるといわれ,容貌が醜いことを〈愛染様に見限られる〉と称した。近世になると恋愛の本尊へと発展し,とくに遊女守護神ともなった。庶民の愛染参りが盛んとなり愛染明王のお札は傷によく効くと考えられた。愛染参りはとくに四天王寺勝鬘院の愛染堂が有名で,愛染が藍染に通ずることから大坂の藍商仲間で愛染講が結成され,正月元日,旧6月1日に参詣した。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「愛染明王」の意味・わかりやすい解説

愛染明王
あいぜんみょうおう

密教の忿怒(ふんぬ)部あるいは明王部に属する尊像。愛染王とも略称される。サンスクリット名はラーガラージャRāga-rājaで、ラーガ(羅我と音訳する)とは赤色、情欲、愛染の意、ラージャ(羅闍)は王の意。金剛薩埵(こんごうさった)(金剛王菩薩(ぼさつ)と同体)の所変で17尊を眷属(けんぞく)とするが、まれには愛染曼荼羅(まんだら)にみられるように37尊を眷属とする。愛染明王の意味は、人間がもっている愛欲をむさぼる心(愛欲貪染(とんぜん))を金剛薩埵の浄菩提心(じょうぼだいしん)の境地(三昧(さんまい))にまで高めた状態をいう。すなわち煩悩(ぼんのう)即菩提のことで、人の煩悩も仏の悟りの智慧(ちえ)に等しいことを意味する。通常は日輪を光背にした四臂(よんぴ)像あるいは六臂像が多いが、両界(りょうかい)曼荼羅中にはない。『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経(こんごうほうろうかくいっさいゆがゆぎきょう)』によると、六臂像は身色が赤く、三目で、頭上に獅子冠(ししかん)、天帯(横帯)をつける。持物(じもつ)は左第一手は拳(こぶし)(儀軌には「彼」と記す)、第二手は五鈷杵(ごこしょ)、第三手は金剛弓(箭(や))、右第一手は蓮華(れんげ)、第二手は五鈷杵、第三手は金剛箭。像は宝瓶(ほうびょう)上にある赤色の蓮台(れんだい)に結跏趺坐(けっかふざ)する。異形像としては、円珍本の系統に、火焔(かえん)光背で天に向かって弓を引く「天弓愛染明王像」があり、さらに中世には不動明王と合体した「両頭愛染明王」があり、独自の信仰をもつ。

[真鍋俊照]


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百科事典マイペディア 「愛染明王」の意味・わかりやすい解説

愛染明王【あいぜんみょうおう】

仏と人との間にあり,愛によって両者を結ぶと考えられる明王。大日如来または金剛愛菩薩を本地とし,その仮現(けげん)と考えられる。その愛はすべての悪を降伏(ごうぶく)するもので,三面六臂(ろっぴ)の忿怒(ふんぬ)の形をし武具を持つ。人に息災・敬愛・福徳を与えると信ぜられ,愛染法が行われた。日本には平安初期に伝えられ,また大坂の藍商仲間による愛染講が知られる。
→関連項目善円明王

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「愛染明王」の意味・わかりやすい解説

愛染明王
あいぜんみょうおう
Rāgarāja

大愛欲大貪染の三昧に住む明王。大日如来または金剛薩 埵の変化身といわれる。円形の光背をつけ,三目六臂の忿怒相をとり,獅子冠をかぶり,金剛鈴,金剛弓,拳,五鈷杵,金剛箭,蓮華を手にし,蓮華座上に結跏趺坐して,身色は赤で表現される。相形は忿怒であるが内心は大愛至情の本性をもっていて,息災,敬愛,得福のための修法の本尊となる。平安時代から画題に取上げられ,西大寺,神護寺,称名寺などに彫像がある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「愛染明王」の解説

愛染明王 あいぜんみょうおう

密教の明王。
人間の愛欲をそのままに悟りにみちびく。一面三目六臂(ろっぴ)の赤色忿怒(ふんぬ)像であらわされ,平安時代初期に日本につたわる。のちに恋愛成就,美貌をねがう庶民の信仰の対象となる。奈良西大寺の木像,根津美術館の画像が有名。

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世界大百科事典(旧版)内の愛染明王の言及

【愛染王法】より

愛染明王を本尊にして修する密教の修法。主として敬愛(和合親睦すなわち人の相愛・信服,夫婦の和合,仏法への帰依),降伏(ごうぶく)(人や仏法を害する悪を止め,兵乱の難をしずめること)などに功験があるとされる。…

【煩悩】より

…しかし,ここには危険な落し穴もあるわけだから,信仰の確立と衆生済度の菩薩行(ぼさつぎよう)実践という大乗仏教の存立条件が充足されていなければならない。また密教は煩悩を肯定するといわれ,愛染(あいぜん)明王は煩悩即菩提を表示するとされるが,これは即身成仏して,この身このまま仏となった立場からの煩悩肯定であって,厳しい修行と禁欲の実践なしの煩悩肯定は,左道(さどう)密教として排除されてきた。【五来 重】。…

※「愛染明王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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