ホログラフィー(読み)ほろぐらふぃー(英語表記)holography

翻訳|holography

デジタル大辞泉 「ホログラフィー」の意味・読み・例文・類語

ホログラフィー(holography)

物体に光を当てたその反射光に、同じ光源の光を別の角度から干渉させてできる干渉縞感光材料に記録し、これにさらに別の光を当てて物体の立体像を再生する光学技術。干渉縞を記録したものはホログラムと呼ばれる。主にレーザー光が用いられるが、光のほかにも干渉に向くコヒーレントな波動であれば、電子線音波なども利用できる。→デジタルホログラフィー

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精選版 日本国語大辞典 「ホログラフィー」の意味・読み・例文・類語

ホログラフィー

〘名〙 (holography) 物体に当たった光を特殊な方法で記録した感光剤(ホログラム)に別の光を当てることにより、物体の立体像を再現する光学技術。一九四八年にイギリスの物理学者ガボールによって開発された。レーザー光線が用いられることが多い。〔入門・コンピュータ(1968)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホログラフィー」の意味・わかりやすい解説

ホログラフィー
ほろぐらふぃー
holography

波動の干渉性を使って元の像を再生する新しい写真法。

歴史

1948年イギリスのD・ガボールは、収差の大きかった当時の電子顕微鏡の像改良を目的として、イギリスのW・L・ブラッグのX線回折顕微鏡の研究をヒントに、2段階で良質の像を再生する方法を考案した。すなわち、第1段階で得た電子線による収差の大きい像を、第2段階で当時すでに収差補正の方法がよく知られていた光を使って補償しようとしたのである。第1段階で得られる像は、いわば物体の回折像で元のものとはかけ離れているが、この回折像には元の物体についての情報がすべて含まれている。そこでガボールは、語源がギリシア語の「すべて」を意味するholoと、「記録されたもの」を意味するgramをいっしょにして、これをホログラムhologramと名づけた。また第2段階で元の像を再生することを波面再生とよんだ。ガボールは実際には第1、第2段階とも光を用い、物体にスライドを使って、ある程度の像再生に成功した。この研究は独創的な原理で注目されたものの、(1)大部分透明な物体にしか適用できない、(2)ホログラム作成時の現像処理条件がやっかいである、(3)直接像、共役像という二つの像が再生し完全には分離できない、(4)当時は明るいコヒーレント(干渉性のよい)光源が得られなかった、などの理由で、その後の研究の発展はそれほど急激ではなかった。1962~1964年アメリカのリースEmmet N. LeithとウパトニークスJuris Upatnieksは、二光線束法という新しい方式を考案し、また、ちょうど使用可能になったレーザーを使って、前述の問題点すべてを解決して画期的に良質な像再生に成功した。それ以後ホログラフィーの研究は急速に発展した。

[田中俊一]

原理

第1段階では、図Aの(1)に示すようにレーザーで物体を照明する。物体で反射、散乱(回折)した光は物体波とよばれ、感光材料に入射する。このとき物体波とある角度をなす参照波を同時に感光材料に入射する。これが二光線束法とよばれる理由である。物体波、参照波は互いにコヒーレントであるので、感光材料には一種の干渉縞(じま)が記録される。まず簡単な場合として、参照波、物体波の二つがある角度をなすいずれも平行光である場合を考えると、二つの光の道筋の長さの違い、したがって二つの光の位相の違いによって、感光材料面上のある位置では互いに強め合い、また別の位置では弱め合い、結果として感光材料には、参照波、物体波のなす角度によって決まる等間隔で紙面に垂直方向に伸びる干渉縞が記録される。また、この干渉縞のコントラストは、参照波、物体波の振幅が等しいときもっとも大きく、相違があるほど小さくなる。図Aの(1)の場合は、物体波は平行光でないので干渉縞は乱れたものになる。しかしその乱れは、参照波に対する物体波の位相の変化が干渉縞の横ずれとして、また、振幅の変化がコントラストの変化として生じ、感光材料には物体波の位相、振幅の情報がすべて記録される。露光された感光材料を現像処理したものがホログラムである。このホログラムには、普通のカメラで写した写真のようには、物体の像が写っておらず、ただ一様に黒化しているように見えるが、光の波長に近い細かさで物体情報が完全に記録されている。

 第2段階では図Aの(2)に示すように、ホログラムをたとえば第1段階の参照波と同じ再生用照明波で照明する。この段階では、明暗の形で記録された一種の干渉縞が、光の進行方向を変える回折格子として作用する。回折格子に光が入射すると、そのまま透過する直接透過波(ゼロ次回折波)のほかに、格子の間隔、いまの場合は干渉縞の間隔によって決まる方向にプラス、マイナス1次の二つの回折波を生じる。第1段階で参照波、物体波がある角度をなす平行光の場合は、プラスとマイナス1次の回折光はともに平行光で、前者はちょうど元の物体波が感光材料を透過する方向に進む。実際の干渉縞は物体波の位相、振幅で乱されているので、ちょうどそれに対応するようにプラス1次の回折波は乱され、元の物体波をそのまま再生することになる。図Aの(2)にの図中に示された位置に目を置いてホログラムを通して見ると、ゼロ次、マイナス1次の回折波にじゃまされず、元の位置に物体が立体的に再生する。この像は直接像とよばれ、あたかも物体から出たように発散した光で見えるので虚像になる。これに対して、もう一つのマイナス1次の回折光によって、ホログラムの右側に、元の物体と前後が逆になった像が再生する。これは共役像とよばれ、実際に光が集束するので実像になる。2枚の写真は1枚のホログラムから再生された直接像を、見る位置を変えて撮ったものである。ピントは中央の物体にあわせてある。前後の物体の相対位置が変化し、立体的に再生しているのがわかる。

[田中俊一]

ホログラムの種類

ホログラムは、物体と感光材料の距離の相違によってフレネル、フラウンホーファーホログラムなど、濃度で記録するか位相(屈折率または厚さ変化)で記録するかによって振幅または位相ホログラム、記録材料の厚さによって平面または体積ホログラム(三次元ホログラムともいう)、透過光で再生するか反射光で再生するかによって透過型または反射型ホログラム、使用する波動の種類によって光波、電波、音波ホログラムなどに分けられる。さらにコンピュータを使って直接ホログラムを描かせることもある。図Aの(1)で得られるのは、光波を用いる振幅、透過型の平面フレネルホログラムである。

[田中俊一]

応用

ホログラフィーは画期的な技術で、非常に多くの研究者の興味をひくテーマであるが、実用化という点では、そのテンポはかならずしも速くない。現在考えられている応用には、ホログラフィック光学素子、ホログラフィー干渉、情報処理、ディスプレーなどがある。

[田中俊一]

ホログラフィック光学素子

ホログラムは、これを再生段階で照明すると元の物体波を再生するので、一種の光学素子と考えられる。図Bの(1)で二つの平行光でつくられたホログラムは、一方の平行光を物体波、他方の平行光を参照波とみなせば、原理で説明したように、等間隔な干渉縞が記録されるので、高精度の回折格子として作用する。また図Bの(2)のように、平行光と感光材料から距離fのところにある点光源からの発散光でつくったホログラムは、平行光で照明すると、ホログラム面の前後のfの距離に点像(直接像と共役像)を再生し、一種のレンズとして作用する。さらにこのホログラムは、図の矢印の方向に移動すると点像も同様に上方に動き、光が線上を走ることになる。この原理は、スーパーマーケットなどでよくみかける商品についたバーコード読み取り装置に使用されている。

[田中俊一]

ホログラフィー干渉

工業的にもっとも広く用いられているのはホログラフィー干渉法で、変位変形の測定、高速度現象や振動の解析などに利用される。微小な変位変形の測定について説明すると、図Cの配置で露光して物体のホログラムを感光材料に記録する。普通はそのまますぐ現像するが、いまの場合は、物体をたとえば図の矢印の方向に押し、物体が微小な変位変形(図の点線)をしたのちにもう一度露光し、物体の変位変形前後の状態を二重露光したホログラムをつくる。物体を取り除き、参照波でホログラムを再生すると、変位変形前後の物体が同時に再生し、この二つの再生像からくる光はコヒーレントなので、物体面上のたとえばA、A′点からくる光は強め合い、またB、B′点からくる光は弱め合い、物体面上に変位変形に応じた干渉縞が観察される。干渉縞の解析から物体の変位変形量を知ることができる。この方法を二重露光法とよぶ。さらに次のようなこともできる。図Cの配置で物体の変位変形前に一度露光する。現像処理したホログラムをもと感光材料が置かれていた位置に正確に戻し、今度は物体を取り除かないでレーザー光で再生する。このとき、再生物体とレーザーで照明された実物体の両方が見え、これらからくる光はやはりコヒーレントなので、物体の変位変形につれて干渉縞が刻々に変化するのが観測される。この方法を実時間法とよぶ。

[田中俊一]

情報処理

ホログラフィーの情報処理への応用として最初に考えられたのは、多数情報の記憶、読み出し素子としてのホログラムである。精力的な研究が各国で進められたが、実用には至らなかった。物体波としてある情報A、参照波としてある情報Bを用い、A、Bでホログラムをつくり、できたホログラムをAで照明してBを再生し、逆にBで照明してAを再生する情報変換作用の利用も考えられている。

[田中俊一]

ディスプレー

ホログラフィーの大きな特徴は、三次元的な像が場合によってはカラーでも再現することができることである。ディスプレー用には、原理で述べた振幅、透過型の平面フレネルホログラム、厚い記録材料に3色のレーザーで記録を行い、白色光でカラー再生するリップマンホログラム(反射型の体積ホログラム)や、観察方向が異なり、視差(立体感)情報を含んだ写真画像を細い短冊状ホログラムにつくって多数並べたもので、心理的効果を利用し再生像に立体感をもたせるマルチプレックスホログラムなどがある。図Dは、2段階に分けてつくるレインボー(虹(にじ))ホログラムとよばれるものである。第2のホログラムを白色点光源で再生すると、元の物体像だけでなく、第2段階に用いたスリット像がスペクトルに分かれて、赤、緑、青のように上下に並んでできるので、目をその位置で上下すると、再生像の色が虹のように変化する。このタイプで、プラスチックに型押ししてつくった位相、反射型ホログラムがクレジットカードなどに使われている。

[田中俊一]

『ヴィエノー、スミジエルスキー、ロワイヤー著、辻内順平・中村琢磨訳『ホログラフィー入門』(1975・共立出版)』『村田和美著『ホログラフィー入門』(1976・朝倉書店)』『横田英嗣編『美しい光の世界・レーザーとホログラフィ』(1980・東海大学出版会)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホログラフィー」の意味・わかりやすい解説

ホログラフィー
holography

光波の干渉を利用して立体的な映像の情報をフィルムなどの平面状の記録媒体に記録し,必要に応じて適宜これを空間的に 3次元像に再生する技術。立体写真情報処理,干渉計測などに使われる。1947年イギリスのデニス・ガボールが初歩的な実験を行なった。レーザー光線が発明されたのち,これを用いて 1962年アメリカ合衆国のエメット・N.リースとジュリス・ユパトニクスが初めて実用化した。ほかにマイクロ波を用いた電波ホログラフィー,医用などに用途の広い超音波ホログラフィーがある。また,電子線ホログラフィー,X線ホログラフィー,立体テレビジョンなどが考えられている。レーザーを用いる場合は光のビームを,たとえばマイケルソンの干渉計などに用いられるガラス平行板で二つに分ける。図のように一つのビームは鏡で反射されたのちに参照光として,ほかのビームは物体に照射されたのちに物体光として写真フィルム上に達する。物体光の振幅位相は物体の立体像に応じて変調されたのち,参照光と比較されて干渉縞としてフィルム上に記録される。これをホログラムという。再生するには同じようにレーザー光でホログラムを照射して,図に示すような位置から眼で観察すると,1次の回折像として再生され,矢印の方向にもとの物体の立体像が見える。

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百科事典マイペディア 「ホログラフィー」の意味・わかりやすい解説

ホログラフィー

位相のそろったレーザー光を使い,レンズなしで1枚の写真で立体像を撮影・再現する方法。被写体にレーザー光をあて,その反射光に,光源からの投射光の一部を鏡によって重ね合わせ,直接写真乾板に感光させる。このとき自然光では不可能な干渉が起こり,写真には光の強弱だけでなく位相差も記録され,被写体とは似もつかない明暗の縞(しま)模様を生じる。この写真をホログラムという。ホログラムに直角にレーザー光をあて,光源と反対の側で,直射光が目に入らない位置から写真をのぞくと,干渉によって撮影時と同じ光束が再現されるので,被写体の虚像が三次元の立体として観察される。原理は1947年英国のD.ガボールが考案,1963年米国ミシガン大学で成功。マイクロ波や音波を使ったホログラフィーも研究され,広範な用途が期待される。
→関連項目外村彰

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知恵蔵 「ホログラフィー」の解説

ホログラフィー

光の干渉性を使って、物体の3次元的像を得るための原理。干渉性の高い光を物体に当て、得られる散乱光に、同じ光源から得られる参照光を重ね、干渉縞をつくる。これを記録した写真乾板(ホログラム)に参照光と同じ波面を持つ再生光を照射すると、元の物体の3次元の像が浮かび上がる。1948年にD.ガボール(英国)が発明した。光だけでなく、一般の波動の振幅と位相とを記録する手段として、広く利用されている。レーザー・ホログラフィーは、位置や長さの微細な変化の精密測定や回折素子の作製のほか、装飾、美術などの3次元ディスプレーにも広く使われている。白色光ホログラフィーもある。

(荒川泰彦 東京大学教授 / 桜井貴康 東京大学教授 / 2007年)

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