煮売屋(読み)にうりや

精選版 日本国語大辞典 「煮売屋」の意味・読み・例文・類語

にうり‐や【煮売屋】

〘名〙 屋台店舗などで、飯と惣菜用の野菜、魚、豆などの煮物を売ったり食べさせるのを業とすること。また、その店や人。にうりみせ。にうり。
浮世草子好色一代女(1686)四「数寄屋橋のかしばたなる煮売(ニウリ)屋に、耻を捨てかけ込」

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改訂新版 世界大百科事典 「煮売屋」の意味・わかりやすい解説

煮売屋 (にうりや)

手軽な食事と茶や酒を売った店。煮売茶屋ともいう。煮売の語は,浅井了意の《東海道名所記》(1661)に〈在所により家によりて,国の名物,酒,さかな,煮売,焼売〉とあるように,はじめは餅,だんご,あるいは魚などを焼いて売る焼売(やきうり)に対して,魚や野菜の煮物を売る商売をいった。江戸では明暦の大火(1657)以後,復興事業のために地方から流入した労働者相手に煮売屋が急増し,飲酒にともなう事件が多発したのであろう,1661年(寛文1)には振売をも含めて煮売屋の夜間営業が禁止された。以後も再三夜間営業に対する禁令が出されているが,煮売屋の数はふえる一方だったようで,《飛鳥川》(1810)は〈両国ばかりに何軒といふ数を知らず〉と書いている。業態はいろいろで,野菜,豆腐,こんにゃくなどの煮しめや煮豆を売るだけの店はやがて菜屋(さいや),惣菜屋煮豆屋などと呼ばれるようになり,酒を飲ませるために,さかな(肴)となるものをあわせ売った店は煮売酒屋と呼ぶこともあった。上方でも事情はほぼ同じだったと思われるが,煮売屋といえばタコというほどで,タコの煮つけに人気があったようである。井原西鶴は京都伏見の船着場に〈たたきゴボウ〉を売りに行く男の話を書いているが,その伏見と大坂を結ぶ淀川の乗合船を相手に独特の商売をしたのが枚方(ひらかた)の〈くらわんか舟〉であった。船の船員や乗客に対して酒食を売った煮売舟は各所に見られたが,枚方のそれは《東海道中膝栗毛》が描くように〈めしくらはんかい,酒のまんかい〉と,乱暴な物言いをするのが名物で,〈くらわんか舟〉と呼ばれていた。
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世界大百科事典(旧版)内の煮売屋の言及

【居酒屋】より

…店先などで手軽に酒を飲ませる店の称。
[日本]
 江戸時代の前期,すでに街道筋の茶店は酒肴(しゆこう)をひさいでおり,都市の煮売屋が酒を提供したことも考えられるので,専業の居酒屋はそれらから分化して,江戸時代中ごろには成立していたと思われる。しかし,造酒屋や小売酒屋がそうした商いをしたのははるかに古いことで,実質的な居酒屋営業は奈良時代にさかのぼる。…

【飲食店】より

…江戸では明暦の大火(1657)後,急激に各種の飲食店が台頭する。市街復興のために集まってきた労働者を主たる対象として煮売屋が発生,その中からは手軽に酒とさかなを楽しむことのできる居酒屋が生まれてくる。社寺門前の茶店では浅草金竜山に奈良茶を食べさせる店が出現,それまで外食の経験をもたなかった江戸市民はもの珍しさから競ってそれを食べに行ったという。…

※「煮売屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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