租税特別措置(読み)ソゼイトクベツソチ

デジタル大辞泉 「租税特別措置」の意味・読み・例文・類語

そぜい‐とくべつそち【租税特別措置】

特定の政策目標を達成するため、税制上の特例として租税を減免あるいは増徴する措置。租特。

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精選版 日本国語大辞典 「租税特別措置」の意味・読み・例文・類語

そぜい‐とくべつそち【租税特別措置】

〘名〙 特定の政策目標を達成するため、税制上の特例として租税を減免あるいは増徴する措置。

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改訂新版 世界大百科事典 「租税特別措置」の意味・わかりやすい解説

租税特別措置 (そぜいとくべつそち)

租税のもつインセンティブ(誘因)効果を利用して,ある特定の政策目的を達成しようとする租税制度である。したがって経済政策の一環としての意義を有するが,そのために租税の公平性や中立性の原則を犠牲にするという短所をもつ。そこで租税特別措置を導入するまえに,その政策目的自体の合理性や優先度が十分に検討されねばならない。次に,他の政策手段との比較においてその政策目的達成の手段としての租税特別措置の有効性が検討されねばならない。その際に,政策目的の達成というプラス面と,税制にもちこまれる公平性や中立性の阻害というマイナス面とを十分に比較考量することがたいせつである。国税については各税法の中で定められているほか,租税特別措置法(1957公布)で各国税に関する特別措置が種々定められている。

 租税特別措置に関するもう一つの問題点は,政策上の優先順位が低下して租税特別措置によるインセンティブ効果の必要性はなくなっても,既得権化していつまでも存続しつづけることである。第2次大戦後の税制調査会の答申などにおいても,租税特別措置の整理合理化はつねに検討課題にあげられていた。租税特別措置にかかわる別の問題点は,ある特定産業について特別措置を認めると,公平性を理由にして他の産業部門が同様の措置を要求し,したがって総花的になり特別措置を必要とする政策目的があいまいになることである。

 戦後の経済政策で重視された政策目的の一つは貯蓄の奨励であるが,そのために利子・配当所得の軽課という租税特別措置が採用された。総合所得税の原則からいえば,納税者は源泉のいかんにかかわらずすべての所得を合算したうえで累進税率の適用を受けるのがたてまえであるが,利子・配当所得については他の所得とは区分して,たとえば10%などの低い税率分離課税する方法が採用された。また少額貯蓄者の貯蓄奨励策として,少額貯蓄非課税制度,郵便貯金・少額公債非課税制度,財形貯蓄非課税制度の形で,ある一定限度までの貯蓄に対する利子所得は非課税にする特別措置を実施した。これらの少額貯蓄を合計すると,たとえば1979年度においては1400万円にものぼり,少額貯蓄の保護優遇という趣旨からみて適当かどうかという疑問もあり,さらに架空名義預金などをすることにより,少額貯蓄者とはいえない貯蓄者も恩恵を被るという問題が存在する。総合所得税制度に対する別の例外は,有価証券譲渡所得の非課税制度にある。法人税と所得税との間には面倒な問題があるが,配当にはまがりなりにも所得税が課税されているのに,株式の譲渡所得にはほとんど課税がなされないのであるから,資本所得に有利な措置であるとの批判もあった。このような批判をうけ,貯蓄に対する利子課税の特別措置は見直されることになり,88年以降,例外を除き原則的に,少額貯蓄,郵便貯金,少額公債および財形貯蓄の利子の非課税制度は廃止された。また,有価証券譲渡益に対する課税についても,89年以降,原則非課税から原則課税に改められた。

 土地・住宅に対する課税にも複雑な特別措置が制定されている。この政策目的は宅地の供給促進であったが,そのため分離課税という形態が採用され,とくに長期譲渡所得には特別控除と低い税率という優遇が与えられた。また社会保険診療報酬課税不公平税制の例といわれてから久しいが,これは社会保険医の医療給付等の必要経費または損金に算入する金額の割合を一律に72%に法定したものである。1954年の立法化以来医師優遇税制としてその是正がつねに叫ばれながら,2500万円以下の部分に適用される72%から5000万円超の部分に適用される52%まで,収入金額に応じた異なる率を導入する形での改善をみたのは,ようやく79年であった。97年現在,5000万円超の金額については実額課税がなされており,報酬額に応じて,57~72%の率で計算することになっている。次に勤労者財産形成,住宅対策として,住宅取得控除,新築貸家住宅の割増償却などの措置がとられている。

 企業に対しては,中小企業対策,輸出振興,公害等環境改善対策,資源・エネルギー対策,海外投資の促進,技術開発,情報化の促進,地域開発の促進,流通近代化,福祉対策,産業転換,投資促進,内部留保の充実,企業体質の強化,等の政策目的がつぎつぎと掲げられて,数多くの特別償却制度(〈減価償却〉の項参照)や準備金制度が設けられていった。特別償却制度や準備金制度の優遇点は税の延納にあり,全面的な免税措置ではない。普通償却制度の場合でも特別償却制度の場合でも償却可能な金額は同じであるが,各事業年度に割り当てられる償却額が異なるのであり,同額でも早い時点でする償却額のほうが現在価値が高いから,現在価値に換算した普通償却額と特別償却額との差額が企業にとっての特別償却の利益に対応するが,これは金利がただの資金を一定期間利用できる利益に等しい。また各種準備金については金額洗替え方式が適用され,当事業年度に計上した準備金の全額は翌事業年度の益金に全額計上しなくてはならないから,企業にとっての利益は,1事業年度にわたって利子の付かない資金を利用できるという点にあり,かつその点のみにあるので準備金の全額が永久に免税されたわけではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「租税特別措置」の意味・わかりやすい解説

租税特別措置
そぜいとくべつそち

経済政策や産業政策などの政策的な見地に基づいて、多くの場合、基本税法を改定することなく、特別法によってその適用の一部を臨時的、例外的に変更して、特定の産業部門、納税者層の税負担を軽減・免除あるいは重くする措置をいう(ただし、租税特別措置は各基本税法のなかにも含まれている)。基本税法そのものを改定する一般減税に対して、租税特別措置による減税を政策減税ということもある。

 日本で特別法でこれを規定するようになったのは、1938年(昭和13)の臨時租税措置法からである。第二次世界大戦中に特別措置は拡大されて四十数項目に達したが、戦後その多くは廃止された。戦後租税体系の原点たるシャウプ勧告(1949)も特別措置の撤廃を勧告していたが、その後、特別措置はふたたび増加し始め、1957年(昭和32)の租税特別措置法に集大成されるときには三十数項目に及んだ。この当時の租税特別措置の政策目的は、企業の資本構成の是正、内部留保の充実、貯蓄の奨励、輸出の促進、技術振興、企業設備の近代化、成長産業の助成などであるが、その多くは資本蓄積促進のためのものであった。すなわち、戦争とインフレーションによって破壊された資本を、租税の減免という誘因によって復興しようとするものであり、その目的は達成された反面、大企業、高所得者、そして政治的発言力の強い者ほど特別措置の利益に浴し、中小企業、低所得者ほど利益を受けられないという格差を発生させた。

 こうした税の減免効果から、租税特別措置は二つに分類できる。第一は永久に納税額を軽減するものである。それには税率を軽減するもの、損金算入や益金不算入の範囲を拡大するもの、税額を控除するものなどがある。第二は課税を繰り延べるものである。これには特別償却と準備金制度があり、いずれもこれを認められない場合に比べて内部留保を早く蓄積できるから、投資が促進される。

 課税には公平の原則といわれるものがある。同一の所得の状況にある者は同一税を負担するというこの原則に、租税特別措置は重大な例外となるので、追求される目的が真に国民にとって必要なものか、その目的達成のためにその措置が有効かどうかをつねに検討しなければならないと批判され続けてきたが、この検討はなかなか実行されなかった。しかし、オイル・ショック後の低成長時代に入ると、税収の絶対的不足という現実から、ようやく租税特別措置の見直し・改廃が行われるようになった。

[一杉哲也]

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