翻訳|cargo ship
貨物を運ぶことを目的とする商船。各国とも法規(日本の場合は〈船舶安全法〉)によって旅客定員12名以下のものを貨物船と定義しており,旅客定員が12名を超えるものは客船の扱いを受ける。
19世紀中ごろから20世紀前半までは国際間の旅客輸送においては船がその中心を占め,客船全盛の時代であり,貨物船も旅客設備をもつものが多かった。20世紀後半に入って,旅客のほとんどは飛行機に移り,船による旅客輸送の比重は非常に小さくなったが,一方,産業活動の拡大に伴う貨物輸送はその後増大の一途をたどり,とくに外国貿易ではほとんどの物資が貨物船により輸送されている。石油,鉄鉱石,石炭など輸送量が多い物資にはそれを専門に輸送する専用船が使われるが,他の貨物についても輸送量の増大とともに専用船化の傾向が強まっている。
貨物船はその就航状態によって定期船と不定期船に分けられる。定期船は一定の航路と寄港地をあらかじめ発表し,それに従って定期的に運航されるものである。運賃は協定により航路別,貨物別に詳細に決められているので,輸送業者間ではサービスのよさによる競争が激しく,高速輸送,荷役時間の短縮を図るため,現在ではほとんどの定期船はコンテナー船になっている。コンテナー船では従来個別に梱包(こんぽう)されていた貨物を規格化したコンテナーに積んで運ぶため,荷役時間の大幅短縮が可能で,従来の1/3の時間で送先に届くようになったといわれている。コンテナーには特殊貨物用に,冷凍(蔵),液体,オープントップなど目的に合うものも用意され,荷役は陸上のクレーンを使用して行うので,コンテナー船は荷役装置をもたないのがふつうである。コンテナー船と同じ発想のものとして,トレーラーやフォークリフトにより荷役を行うロロ(Ro-Ro。roll-on roll-offの略)船,コンテナーの代りに艀を使うラッシュ(LASH。lighter aboard shipの略)船があり,コンテナー専用岸壁のない港で利用されている。
不定期船は航路を定めず,貨物に応じて積荷港から揚荷港まで航海単位の契約により輸送を行う。とくに穀物などの農産物,綿花,羊毛などの原料の輸送需要は季節変動が大きく,これらの輸送需要を求めて世界中をわたり歩いている。船としての特徴は,船倉を大きくとり,デッキクレーンなどの荷役設備をもち,速力は燃料消費節減のため遅いものが多い。あらゆる貨物輸送に適合するよう荷役装置を合理化した多目的貨物船も注目されるようになっている。
石油,鉄鉱石,石炭などの工業原料の輸送は不定期船貨物の重要な柱であるが,これらはむしろインダストリアルキャリアとしてとらえるほうが自然である。荷主を特定しない輸送業者をコモンキャリアと呼び,生産者が自己の生産活動のために生産者自体,あるいは自己の支配下の組織に運航させる場合をインダストリアルキャリアと呼ぶ。工業生産規模の拡大に伴い,とくに原料輸送量は飛躍的に増加し,生産の安定を図るうえでも,製品コストに占める輸送コストを低減するためにも,生産者にとってその輸送の主要部分を支配することが重要になってきた。現在,石油,鉄鉱石,石炭の輸送の大部分はインダストリアルキャリアにより行われ,コモンキャリアは輸送需要の変動分を賄っていると考えてよい。製品輸送においても,自動車専用船などはインダストリアルキャリアに含まれる。
→定期船・不定期船
ある特定の貨物の輸送量が増えてくると,他の貨物と混載するよりもその貨物に専用の船をつくるほうが便利になってくる。また,一般の貨物船では輸送できないような特殊な貨物に対しては,特殊な形状の船が必要となる。このようなある特定の貨物のみを輸送する船を専用船と呼び,タンカー,ばら積船,鉱石運搬船などがその代表例である。これらの原料輸送船は一般に産出地と消費地の間を片道満船,片道空船でピストン輸送を行っている。片道空船となるのは不経済ではあるが,一般に船は大型になればなるほど単位輸送量当りの輸送費は少なくてすむため,輸送需要が十分にある場合,大型船を用いたこのような輸送形態が有利となる。とくにインダストリアルキャリアの場合,船はその一生を通じて特定の港湾にしか出入港しないため,その限定された条件の中で最大限の効率を追求した設計が行われている。原油,鉄鉱石,穀類などの大量輸送を要する貨物は,その輸送にもっとも適した専用船で運ぶのが経済的であるが,輸送需要の変動に対応するため,鉱石兼油送船,ばら積み・鉱石兼油送船,鉱炭船(鉱石と石炭)など,限定した数種類の貨物を輸送する兼用船も建造されている。
なお,コンテナー船の場合,コンテナーの中身にまで立ち入ればあらゆる貨物を運んでいるが,コンテナー単位でみると専用船といえる。このように現在では,それぞれの輸送目的に対して多様な専用船が建造され,在来型の一般貨物船はしだいに少なくなっている。
貨物船では輸送費低減を最大の目的として開発が行われている。船体関係では抵抗の少ない高速船型の開発,大型船では性能が劣化しない範囲で幅の広い船とし,使用鋼材重量を減らして建造費を節約する努力が続けられている。推進機関には蒸気タービンに代わって燃料消費の少ないディーゼルエンジンを用いる船が主流を占めるようになり,石炭たきボイラーも見直されつつある。また人件費節減のため大幅な自動化(船舶自動化)が行われ,乗組定員は従来の約1/3になろうとしている。さらに,石油,LPG,LNG,化学原料,薬品などの危険物,有毒物質の輸送における海洋汚染,火災などの事故の防止も重要な技術開発課題となっている。
→客船 →商船
執筆者:小山 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
貨物を専門に運搬する船。昔から遠隔地への海上輸送機関として重要な役割を果たしてきた。最近では航空機の発達により、軽量で高速を必要とする貨物は航空輸送へ移行しつつあるが、大量貨物の輸送には依然として貨物船が重要な地位を占めている。
貨物船は貨物の種類や輸送方法によって多くの種類に分けられる。機械類、電気製品、日用品ほか種々の一般貨物で荷造りしたものを運ぶ船を、一般貨物船または普通貨物船という。第二次世界大戦前後までは、貨物船といえば一般貨物船をさし、ほかは特殊貨物船とよばれていた。その後、世界の産業や貿易の構造が変化するにしたがってタンカーおよび、鉱石、石炭、穀類などを荷造りせずに直接船倉へ流し込むように積む、ばら積貨物船(バルク・キャリアーbulk carrier)などが多数建造、運航されてきたので、一般貨物船以外を専用船とよぶようになった。2006年末には、タンカーが世界の商船船腹量の25%(総トン数比較)、ばら積貨物船が28%に上り、両者で50%以上を占めている。専用船にはそのほかに、自動車、液化ガス、木材、セメント、チップ、果物、冷蔵貨物などを運ぶ船がある。専用船のうち、原油・鉱石あるいは原油・鉱石・穀類などのように2種類以上の貨物を運ぶ設備をもつ船を兼用船という。さらに多くの種類を運べる船を多目的船とよぶこともある。また、コンテナ船およびコンテナのかわりに艀(はしけ)(バージbarge)を積むバージ・キャリアーbarge carrierをユニット・ロード船という。貨物船であっても13名以上の旅客設備をもつ船は法規上、旅客船として扱われ、貨客船とよばれる。
コンテナ船、液化ガス運搬船、自動車専用船は第二次世界大戦以後、初めて出現した新形式の貨物船である。船腹量としては、コンテナ船と液化ガス運搬船あわせて全世界の約20%(2006年末。総トン数比較)を占め、コンテナ船は高速輸送の要求に応じ、液化ガス運搬船はエネルギー源の多様化の傾向とともに活躍の場を伸ばしてきている。また自動車専用船は、自動車工業の発展に伴い、従来は一般貨物船で少しずつ運んでいた自動車(主として乗用車)を大量に運ぼうという目的で生まれた。甲板間の高さを車が入るだけに切り詰め、10層前後の甲板をもつ特異な構造の貨物船である。
経営上の運航形態から分類すると、定期貨物船と不定期貨物船がある。定期貨物船は貨物の出回りが安定している航路でスケジュールを組み、定期的に運航され、不定期貨物船は時間と航路を定めずに、有利な貨物を求めて世界各地を回って運航される。
[森田知治]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また造船技術の革新により,短期間に大型船の建造が可能となったため,50万重量tを超える超大型タンカーが出現し,石油輸送の大幅なコストダウンをもたらした。一般の貨物船はコンテナー化に活路を見いだした。1960年代後半,アメリカから始まった海上貨物輸送のコンテナー化は急速に世界に広がり,70年代には国際貨物航路はいずれもコンテナー化された。…
…商船とは経済上の目的に用いられる船の中で,とくに旅客および貨物を運搬するものを指し,日本の商法でも,商行為を為す目的を以て航海の用に供するものと定義している。商船はさらに法規上では,旅客定員が12名を超える旅客船(客船)と12名以下の貨物船(非旅客船ということもある)に分類される。貨客船は旅客定員のうえでは客船に入るが,旅客のほかに貨物を積むものである。…
…汽船軍艦帆船【野本 謙作】
【船の原理と構造】
船はその用途により大きく3種類に分けられる。一つは旅客や貨物の輸送にあたるものでこれを商船と呼び,さらにその主目的によって客船と貨物船に分けられる。二つ目は海上での作業を目的とする船で特殊船と呼び,漁業に従事する漁船,土木作業・港内支援を行う種々の作業船などが含まれる。…
※「貨物船」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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