アッジェ(その他表記)Eugène Atget

改訂新版 世界大百科事典 「アッジェ」の意味・わかりやすい解説

アッジェ
Eugène Atget
生没年:1857-1927

フランスの写真家。ボルドー近郊に生まれる。幼くして孤児となり,客船の給仕から旅回りの俳優となるが才能が認められず,1898年画家を志してパリ定住。まもなく写真に専念することになり,画家が絵の参考写真を求めていることを知り,〈美術家のための記録〉という看板をかかげ,建造物ショーウィンドー,物売,職人,娼婦,場末の街角など,近代都市へ変貌していく中で取り残されていくパリの古い風物を中心に,数多くの写真をきわめて率直な態度で撮った。だが,マン・レイなどシュルレアリストたちからは評価を得たものの,そのプリントをユトリロや藤田嗣治らの画家や美術館に安く売るだけで,極貧のうちに生涯を終えた。しかし,死の直後,W.ベンヤミンはその画期的な写真論《写真小史》で,時代の転換を鋭くとらえたアッジェの作品の重要性に注目している。彼の晩年に知り合った,アメリカの女流写真家でマン・レイの助手であったアボットBerenice Abottの努力により,多くのプリントと原板がニューヨーク近代美術館に収蔵されている。
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百科事典マイペディア 「アッジェ」の意味・わかりやすい解説

アッジェ

フランスの写真家。ボルドー近郊のリブルヌ生れ。5歳で両親を失い,叔父に育てられる。若いころは船員として港を巡る。1898年俳優を志してパリへ移るが成功せず,画家への転向を試みるが,生活に窮し,独学で写真を学ぶ。パリとパリ郊外を撮影しながら,画家や建築家に写真を売って生活した。〈芸術家のための資料〉として,建造物,公園,街路路上の人々などを大型カメラで撮影。マン・レイが作品を高く評価し,1926年《シュルレアリスム革命》誌に写真が数点掲載されたが,アッジェ自身は匿名掲載を希望したといわれている。貧困のうちにその翌年死去。マン・レイの助手であったアボットによって写真が整理・公表され,今日では巨匠の一人として写真史に名を残すことになった。
→関連項目ブラント

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アッジェ」の意味・わかりやすい解説

アッジェ
あっじぇ
Jean Eugène August Atget
(1857―1927)

フランスの写真家。ジロンド県リーブルヌに生まれる。少年時代に郷里を離れパリに出て、船乗りや役者などの職業を遍歴するが、1890年代に画家や文学者、舞台美術家などのために資料として写真を売る写真師を始めた。写真の買い手にはブラックやユトリロらの画家も含まれていたという。しかし、アッジェ自身は当時の写真界とはほとんど交渉がなく、ひたすら資料のためにパリの街角を撮っていたので、写真家としてはまったく無名であった。死の前年に、マン・レイによりシュルレアリスムの機関誌に紹介され、ようやくその名が知られるようになった。今日では不思議な気配の漂う彼の作風が、幅広い層の人気を集めている。

[平木 収]

『ウージェーヌ・アッジェ写真集『パリのアッジェ』(1979・朝日新聞社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アッジェ」の意味・わかりやすい解説

アッジェ
Atget, (Jean-) Eugène (-Auguste)

[生]1857.2.12. リブルヌ
[没]1927.8.4. パリ
フランスの写真家。少年時代孤児となり伯父に育てられる。やがて下級船員となったが,まもなく役者を志して地方巡業の一座に加わった。しかし 40歳頃画家に転じようとし,次いで写真家となる。パリ周辺の古い街並を数千枚も撮影した。しかし 1926年,M.レイに見出されて彼らの機関誌に表紙写真のほか数点紹介されたのが,生前発表された唯一のもので,孤独と貧窮のうちに没した。彼の写真の徹底した客観的記録主義は事物や現実の本質に迫り,かえって超現実的なイメージに到達することとなった点でも,写真のリアリズムに大きな影響を与えた。

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世界大百科事典(旧版)内のアッジェの言及

【写真】より

…アメリカの肖像写真家であったM.B.ブラディは,アレクサンダー・ガードナーAlexander Gardner(1821‐82)らとともに南北戦争の記録を精力的に撮り,そのため財産を使い果たしたといわれる。また,20世紀初頭のパリではE.アッジェが,パリの庶民の生活や風俗をさかんに撮影していたが,それも一つの時代のドキュメンテーションであったということができるだろう。こうした記録写真あるいは写真による記録への執着は,写真が〈芸術〉であるとしても,記録性に基づいてこそその特質が発揮されるのであり,また記録性自体の力によって成立する写真も,世界を知るもう一つの方法として重要なのだ,といった考え方が早くから芽ばえていたことを証明するものであろう。…

※「アッジェ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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