日本大百科全書(ニッポニカ) 「アニサキス」の意味・わかりやすい解説
アニサキス
あにさきす
[学] Anisakis
線形動物門双腺(そうせん)綱回虫目アニサキス科アニサキスAnisakis属の寄生虫の総称。成虫はクジラ類の胃に寄生している。Anisakis simplexの成虫では雄の体長約15センチメートル、雌約20センチメートルに達する。雌虫から産み出された卵は、宿主の糞便(ふんべん)とともに海中に排出され、卵内で感染力をそなえた幼虫が形成されて海中に遊出する。
この幼虫はオキアミなどの小型甲殻類に食べられ、さらにヒゲクジラ類に食べられて成虫になる。あるいはオキアミ類を餌(えさ)としている魚類やスルメイカに食べられ、その体腔(たいこう)や筋肉内に寄生して固有宿主のクジラ類に食べられるのを待つ。魚やイカに寄生している幼虫は長さ2~3センチメートルで、刺身などといっしょに人に食べられると、幼虫は人の胃や腸壁に侵入して激痛や嘔吐(おうと)をおこし、胃潰瘍(いかいよう)や急性虫垂炎などと間違えられることがある。これをアニサキス症という。幼虫は人の体内では成虫に発育することができず、やがて死滅するか排出される。胃に寄生した幼虫は、内視鏡で観察しながら鉗子(かんし)で摘出する。
なお、人で同じような症例は、アニサキス属と近縁なプセウドテラノバPseudoterranova属の幼虫(成虫はアザラシやオットセイなどの鰭脚(ひれあし)類の胃に寄生)によってもおこる。
[町田昌昭]