日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンケル石」の意味・わかりやすい解説
アンケル石
あんけるせき
ankerite
炭酸塩鉱物の一つ。理想式Ca(Fe2+)[CO3]2に合致するものは自然界でも合成実験的にも生成されない。つねに著量のMgOあるいはMnOを含み、Fe:Mg=4:1程度がFeの量の上限である。そのため、特例としてFe:Mg=7:13よりFeに富むものをアンケル石、これより乏しいものを含Fe苦灰石(くかいせき)とよぶ習慣が通用しているが、反対意見もあり、通常の場合と同様Fe:Mg=1:1を苦灰石との境界としている。外形は菱(りょう)面体を基調とし、六角柱状をなすこともあるが、多く層状や皮膜状あるいはモザイク状の集合をなす。
浅熱水鉱脈鉱床の脈石、低変成度の鉄酸化物や水酸化物を主成分とする堆積(たいせき)岩中の副成分や脈として産し、なかには続成作用の産物もある。温泉沈殿物や熱水変質鉱物として生成されることもある。日本では知られていないが、ある種のカーボナタイトでは副成分をなす。日本で確実なものは、大分県豊後大野(ぶんごおおの)市で温泉沈殿物として産するもので、これの化学組成はほぼ前記上限に対応する。共存鉱物は石英、菱(りょう)鉄鉱、苦灰石、粘土鉱物など。同定は褐黄色から橙(だいだい)色の色調。MnOに富むものは色が淡くなる。命名は、オーストリアの鉱物学者マシアス・ヨーゼフ・アンケルMathias Joseph Anker(1772―1843)にちなむ。
[加藤 昭]