アンタレス(読み)あんたれす(英語表記)Antares

翻訳|Antares

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンタレス」の意味・わかりやすい解説

アンタレス
あんたれす
Antares

さそり座のα(アルファ)星の固有名。さそり心臓にあたる部分に位置し、夏の南の夜空に真っ赤な光を放つ恒星。名前の由来はギリシア語で「火星に対抗するもの」Anti-Aresから。古来、世界各地でさまざまな名でよばれた。アラビア名はカルブ・アル・アクラブQalb Al-Acrab(「さそりの心臓」の意)、中国名は「火」「大火」。

 2000年の天球上の位置は赤経16時29分24秒、赤緯マイナス26度25.9分。毎年5月30日ごろ真夜中に南中する。変光しており実視等級は0.88等から1.16等の間で変化する。色指数(BV)はプラス1.83等(天体の色を表す指標の一つで、青色B等級から実視V等級を引いたもの)、(UB)はプラス1.30等(同じく紫外U等級から青色B等級を引いたもの)。Kバンド(赤外波長帯2.2マイクロメートル)で観測した場合はマイナス3.9等と明るい。視差は5.4ミリ秒角で、地球からの距離は590光年。固有運動は25ミリ秒角/年、視線速度はマイナス3キロメートル/秒。スペクトル型M1.5Ⅰab~Ⅰbの超巨星で、掩蔽(月が恒星や惑星などの天体を隠す現象)などからこの星の半径が測定されているが、観測する波長で少し違う値が得られている。可視光では太陽半径の770倍、赤外光では太陽半径の870倍。太陽系でいえば火星の軌道をすっぽり包んでまだ余りがある大きさである。質量は太陽の12~15倍、光度は太陽の4万~5万倍と推定されている。表面温度は絶対温度3600K(ケルビン)程度である。星の表面から放出されるガスからダスト(固体微粒子)が形成され、そのガスとダストが星を包んでいる。

 アンタレスは、光度6~7等の伴星をもつ実視連星で、伴星の角距離(軌道長半径)は2.9秒角、公転周期は880年。この伴星(アンタレスB)はスペクトル型B3Ⅴの主系列星で、主星アンタレスAから吹き出る低温の星風の中にあるが、伴星からの紫外線で伴星の周りは電離しており、電波が星風と電離領域の双方から出ている。アンタレスは、比較的若い星の集団さそり座OBアソシエーションのメンバーである。

[山崎篤磨]

『藤井旭著『春・夏星座図鑑――もっと知りたい春・夏の星座』(2002・偕成社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンタレス」の意味・わかりやすい解説

アンタレス
Antares

さそり座α星 (α-Sco) の固有名。その名はギリシア語に由来し,「火星に対抗する者」の意味をもち,夏の宵空に真紅色に輝く。その赤い色のために赤星 (あかぼし) の和名もある。地球から約 420光年の距離にある脈動変光星で,光度を 0.9等から 1.8等まで周期約 4.7年で変化させる半規則変光星スペクトル型が M1の超巨星で,表面温度は約 3000℃と低く,質量は太陽の約 20倍にすぎないが,半径は太陽の数百倍で太陽系でいえば地球の軌道をすっぽり包み,火星軌道まで広がっていることになる。大きな半径のために光度は太陽の数千倍にもなる。この赤い主星のまわりを光度 6.5等の青白い伴星が周期 850年で公転している。伴星のスペクトル型は B4の主系列星で,表面温度は約1万 7000℃,半径と質量はともに太陽の約4倍である。

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