改訂新版 世界大百科事典 「イチリンソウ」の意味・わかりやすい解説
イチリンソウ (一輪草)
Anemone nikoensis Maxim.
山地の林縁などに生えるキンポウゲ科の多年草。イチゲソウともいう。地中に横にはう白色の根茎がある。地上部は早春に地上に現れて開花し,初夏には果実を残して枯れる春咲短期型の生活をする。根生葉は長い葉柄があり,2回3出複葉で,小葉身は欠刻する。花茎は高さ18~30cm,根茎の先端より生じ,基部にはふつう根生葉をつけない。分岐せず,3枚の茎葉を輪生し,1個の花を頂生する。しばしばこれらの一輪の茎葉は総苞,個々の茎葉は総苞片とよばれる。葉柄をもち,3全裂,または3出複葉となり,裂片は羽状に欠刻する。花は直径4cm内外。花弁はなく,萼片は5枚,楕円形,白色で花弁状。おしべ,めしべはともに多数。果実は多数の瘦果(そうか)の集りである。本州,四国,九州に分布する。
アズマイチゲA.raddeana Regelは本種に似ているが,萼片がより細く,8~13枚あり,淡紫色または白色。ニリンソウA.flaccida Fr.Schm.はやはり春咲短期植物であるが,これらに比べて,花茎は基部に根生葉があり,茎葉は無柄で,1~3個の花をつける。根生葉は5深裂し,裂片は欠刻する。花は白色。胚発生の開始が極端に遅く,瘦果が落ちるころになっても受精卵はまだ分裂していないことが多い。双子葉植物でありながら,子葉は1枚しかない。ユキワリイチゲA.keiskeana T.Itoは西日本の暖帯林の林縁や林床に生える。根茎は地中を横にはい,紫色を帯び,先の方に少数の根生葉と花茎をつける。根生葉は秋に,花茎は早春に現れる。根生葉は3全裂,裂片はひし形で鋸歯がある。裏面は紫色。茎葉は無柄。花は1個,萼片は12枚内外で淡紫色。果実が実ることはまれである。ハクサンイチゲA.narcissiflora L.var.nipponica Tamuraは本州の高山帯の湿った草原にふつうにみられる。根茎は直立し,白い長軟毛のある根生葉と花茎を叢生(そうせい)する。根生葉は3出複葉で側小葉は2深裂し,それぞれはさらに細く欠刻する。花茎には1~4個の白い花をつけ,茎葉は無柄。瘦果は扁平で周りに翼がある。種としては北半球の寒帯や高山帯に広く分布し,地域的な分化がみられる。北海道産のものは,葉の欠刻片の幅が広く,果柄が短く,エゾノハクサンイチゲA.narcissiflora L.var.sachalinensis Miyabe et Miyakeという。
イチリンソウ属Anemoneは約150種を含み,世界中に分布しているが,熱帯にはまれで山地に限られ,日本には12種がある。有毒のものや,民間薬として利用されるもの,観賞用にされるもの(アネモネなど)があるが,ニリンソウのように食用に供されることもある。
執筆者:田村 道夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報