改訂新版 世界大百科事典 「イワガニ」の意味・わかりやすい解説
イワガニ (岩蟹)
lined shore crab
Pachygrapsus crassipes
地方によってはアブラガニとも呼ぶ。外洋に面した岩礁にすむ甲殻綱イワガニ科のカニで,岩の割れ目やくぼみにすみ,水にひたっているよりも露出した岩の上を活動している時間のほうが長い。甲幅4cm。甲は前方にやや広い四角形で,側縁から内側に斜めに走る線が多数ある。額は幅広く,板状。甲の前側縁には眼窩(がんか)外歯の後方に深い切れ込みが一つある。甲は緑褐色,歩脚は暗褐色。北海道南部から九州,韓国沿岸にごくふつうに見られるが,東太平洋のオレゴン州からガラパゴス諸島に至る沿岸にも広く分布している。このような太平洋東西という分布型は特異で,どちらかが原産地で,他方に人為的に移入されたものである可能性がある。岩礁上の各種の海藻が主食であるが,死んだ魚なども食べ,またフナムシなども捕食する。交尾は少なくとも年1回行われるが,雌は交尾前に脱皮する。産卵盛期は6月から7月にかけてで,抱卵数は甲幅3.5cmの雌で約5万粒である。卵は約30日後に前期ゾエアとして孵化(ふか)し,約1ヵ月間の浮遊生活の間に7回脱皮してメガロパ幼生になり,1回の脱皮の後に甲幅約3.5mmの稚ガニに変態する。雌は孵化後約11ヵ月,甲幅約1.5cm,雄は7ヵ月,甲幅1.2cmほどで性的に成熟するが,腹部の雌雄異形は甲幅5mmあたりから認められる。2年で甲幅3cmくらいに達し,寿命は4年ぐらいと推定される。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報