インノケンティウス(読み)いんのけんてぃうす(その他表記)Innocentius Ⅲ

デジタル大辞泉 「インノケンティウス」の意味・読み・例文・類語

インノケンティウス(Innocentius)

ローマ教皇の名。イノセントインノセント
(3世)[1160~1216]第176代教皇在位1198~1216。第四次十字軍は失敗したが、「キリストの代理者」と自称し、ドイツ皇帝・イギリス王・フランス王その他の君主や諸国家を抑えて、教皇庁の強化と教権の拡張を計り、中世教皇権の最盛期を実現した。
(4世)[?~1254]第180代教皇。在位1243~1254。教皇権の拡大に努め、フリードリヒ2世以下、歴代の神聖ローマ皇帝と争った。
(6世)[?~1362]第199代教皇。在位1352~1362。アビニョン教皇宮廷を改革、教皇権益の回復を図った。
(10世)[1574~1655]第236代教皇。在位1644~1655。ジャンセニズムを排斥した。
(11世)[1611~1689]第240代教皇。在位1676~1689。教皇庁・修道院の改革に努め、ガリカニズムに反対し、フランス王ルイ14世による教権制限に反対して争った。

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精選版 日本国語大辞典 「インノケンティウス」の意味・読み・例文・類語

インノケンティウス

  1. ( [ラテン語] Innocentius ) ローマ教皇名の一つ。英語名イノセント(Innocent)。
  2. [ 一 ] ( 三世 ) 第一七七代ローマ教皇(在位一一九八‐一二一六)。フランス王フィリップ二世、イングランドジョンと争い、教皇領失地回復につとめ、教皇権の絶頂期をきずく。第四次十字軍の推進者。(一一六〇‐一二一六
  3. [ 二 ] ( 六世 ) 第二〇〇代ローマ教皇(在位一三五二‐六二)。アビニヨン教皇宮廷を改革し、教皇権益を回復させた。一三六二年没。
  4. [ 三 ] ( 一〇世 ) 第二三九代ローマ教皇(在位一六四四‐五五)。大勅書を発してヤンセン主義を断罪する。その治世に教会は沈滞をきわめた。(一五七四‐一六五五

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「インノケンティウス」の意味・わかりやすい解説

インノケンティウス(3世)
いんのけんてぃうす
Innocentius Ⅲ
(1160/1161―1216)

中世の代表的ローマ教皇(在位1198~1216)。本名ロタリオ・ディ・セニLotario di Segni。ボローニャ、パリ両大学で法学と神学を修め、37歳で教皇座に登位。カノニスト(教会法学者)としての素養と政治家としての現実的感覚を兼備した教皇として、多方面にわたる事績を残した。教皇権の基礎を固めるために中央イタリアのレクペラチオ(教皇領回復運動)を推進したが、これは、イタリア支配をうかがう神聖ローマ皇帝との対立に発展。教皇は、ハインリヒ6世急逝後の皇帝二重選挙(フィリップ対オットー)に乗じて優位にたった。イギリスのジョン欠地王とはカンタベリー大司教の任命問題をめぐって争い、イングランドにはインターディクト(聖務停止)を、王には破門を科した。王が自ら教皇の封臣たることを誓約するに至って赦免を与え、かつ、マグナ・カルタを無効と宣言した。王フィリップ2世(尊厳王(オーギュスト))の離婚問題のゆえにフランスに聖務停止を科したほかシチリアアラゴンポルトガルブルガリアなどにも勢力を振るった。

 異端対策としては、取締り手段の法制化を図り、またアルビジョア十字軍をおこしたが、一方、可能な限り異端派の正統への復帰に努めた。フランシスコ会、ドミニコ会の両托鉢(たくはつ)修道会を認可したことは、内面からの異端問題解決の努力でもあった。1204年の第四次十字軍は教皇の意図に反する結果に終わったが、教皇主宰の第四ラテラン公会議(1215)は中世最大の公会議であった。翌1216年7月16日に没したが、公会議の会場となったラテランのサン・ジョバンニ教会に教皇の墓所が設けられている。

[梅津尚志 2017年11月17日]


インノケンティウス(1世)
いんのけんてぃうす
Innocentius Ⅰ

生没年不詳。イタリア中部アルバーノ出身で、古代における名教皇の一人(在位401~417)。聖人。全教会に対するローマ司教首位権が形成されつつあった時代に在位して、教皇権の拡大を図る。初めて「教令」をもって各地教会の行政、規律を正した教皇シリチウス(在位384~399)の精神を継ぎ、各司教区とおびただしい書簡を取り交わして、地方教会会議の重大問題の最終決定をローマにゆだねるように求めた。またオーク会議で罷免された東方教会の総大司教クリソストモスの上告を擁護し、このため東方教会との不和を生んだ。416年ペラギウスを異端として断罪した教会会議の決定を裁可した。

[磯見辰典]


インノケンティウス(4世)
いんのけんてぃうす
Innocentius Ⅳ
(?―1254)

中世後期のローマ教皇(在位1243~54)。本名シニバルド・フィエスキ。ボローニャ大学で法学を修め、同大学の教授を経て教皇座に登位。教会法の注釈を著し、教会法学隆盛時代の一翼を担った。神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世と争い、フランス王ルイ9世の支持を受けて1245年リヨンに公会議を招集し、皇帝に対し破門および帝位剥奪(はくだつ)の宣告を下した。東洋への関心も強く、フランシスコ会修道士プラノ・カルピニを使節としてモンゴル帝国に派遣した。

[梅津尚志]

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百科事典マイペディア 「インノケンティウス」の意味・わかりやすい解説

インノケンティウス[3世]【インノケンティウス】

ローマ教皇(在位1198年―1216年)。ローマの貴族出身。1190年以来枢機卿として教皇庁改革を行う。ドイツ皇帝の選挙に干渉し,イングランド王ジョン,フランス王フィリップ2世を破門したほか,第4ラテラノ公会議(1215年)を招集して,異端討伐(アルビジョア十字軍),教会刷新に努めた。
→関連項目ジョン[欠地王]ブービーヌの戦フリードリヒ[2世]

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旺文社世界史事典 三訂版 「インノケンティウス」の解説

インノケンティウス(3世)
Innocentius Ⅲ

1160〜1216
ローマ−カトリック教会全盛期の教皇(在位1198〜1216)
教皇領を拡大し,シチリア王フリードリヒを神聖ローマ皇帝にたて,この征服地を承認させたり,フランス王フィリップ2世の離婚を禁じるなど,各国君主に対して強い統制力をふるった。なかでもカンタベリ大司教の任命を自由にしようとしたイギリス王ジョンを破門し,国土を献上させて許した事件は名高い。第4回十字軍を提唱し,また「教皇は太陽,皇帝は月」との比喩で教皇権の優越性を強調したことでも有名。

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世界大百科事典(旧版)内のインノケンティウスの言及

【ラテラノ公会議】より

…(1)第1回(1123) カリストゥス2世Callistus IIによって召集された西方最初の世界教会会議で,その前年同教皇と皇帝ハインリヒ5世との間で締結されたウォルムス協約の承認を求めたもの。(2)第2回(1139) 教会改革のためインノケンティウス2世Innocentius IIによって召集され,アナクレトゥス2世Anacletus IIの離教やブレシアのアルノルドゥスArnoldusの教義に対し非難決議を行った。(3)第3回(1179) アレクサンデル3世Alexander IIIによって皇帝フリードリヒ1世(バルバロッサ)との〈ベネチアの和議〉を確認するため開催。…

【ルッジェーロ[2世]】より

…対立教皇アナクレトゥス2世の支持を得てシチリア王の称号を獲得し,パレルモで戴冠した(1130)。教皇インノケンティウス2世は,神聖ローマ皇帝ロタール3世,ビザンティン皇帝ヨハネス2世,ピサ,ジェノバなど南イタリアに強力な国家が成立するのをきらっている勢力を結集し,ルッジェーロに対抗した。この戦いは9年間続いたが,結局ルッジェーロが勝利し,王位を教皇に認めさせた。…

【リヨン公会議】より

…フランスのリヨンで開催された2回の公会議。(1)第1回(1245) 召集者インノケンティウス4世Innocentius IVの開会説教によれば,この会議の目的は聖職者および信者の不道徳な生活,イスラム教徒の脅威,東方教会の離教,タタール人のハンガリー侵入,教会と皇帝の不和という五つの病傷を取り扱うことであった。しかし,神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世に対する帝位剝奪と第3回目の破門を宣言した以外にはほとんど成果がなかった。…

【焚書】より

… 〈異端〉の本を焼くこと(しばしば著者の焚刑と併せて)は中世末から18世紀にかけて,全ヨーロッパ的規模で慣行化していた。教皇インノケンティウス8世は1487年の教書で,〈異端,不敬,中傷誹謗〉の本の流通禁止,著者の処罰を求め,罰則として破門,罰金,焚書をあげている。しかし,焚書を民衆教戒の熱狂的な儀式として組織したのは,ごく短期間(1494‐98)フィレンツェを支配した改革者サボナローラである。…

※「インノケンティウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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