ウィッチャリー(その他表記)Wycherley, William

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウィッチャリー」の意味・わかりやすい解説

ウィッチャリー
Wycherley, William

[生]1640. シュロップシャークライブ
[没]1716.1.1. ロンドン
イギリス劇作家。王政復古期喜劇の代表的作者王党派の富裕な家庭に生れ,少年時代にフランスで教育を受け,フランス文化に親しむ。 1660年,王政復古直前に帰国し,オックスフォード大学に入学,次いでロンドンの法学院に学ぶ。チャールズ2世の宮廷に出入りして,才人たちと交わる。 71年,処女作『森の中の恋』 Love in a Woodを上演して好評を得た。次作『紳士の舞踏教師』 The Gentleman Dancing-Master (1672) とともに,王政復古期喜劇の例に漏れず,社交界の男女の恋愛と機知に富んだ応酬を描く。第3作『田舎女房』 The Country-Wife (75) は最も有名。性的不能者を装って世の夫たちを油断させ,人妻を寝取る男を主人公として,浮薄な社交界風俗をとらえた作品で,露骨な描写のために道徳的批評家に非難された。最後の作品『率直な男』 The Plain-Dealer (76) は,モリエールの『ル・ミザントロープ (人間嫌い) 』にならい,人間の不誠実さを攻撃する男を主人公とする喜劇。風刺の鋭さは高く評価されるが,初演不評。 80年,富裕な貴族の未亡人ドロイーダ伯夫人とひそかに結婚し,チャールズ2世の不興を買う。2年後に夫人死亡。ウィッチャリーは経済的困窮に陥り,82年から 86年まで借金のために入獄したが,ジェームズ2世に救われ,出獄して年金を与えられた。 88年の名誉革命で年金を失い,再び困窮して故郷に隠棲。 97年ロンドンに戻る。 1704年『詩集』 Miscellaneous Poemsを発表。これを縁として年少の詩人ポープと知合うことになる。 15年 12月,死を直前にして再婚。ウィッチャリーは当時の劇作家の例に漏れず,わずかの作品しか書いていないが,鋭い機知によってイギリス喜劇史に大きな位置を占め,風習喜劇の伝統の初期のにない手としてコングリーブと並び称される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィッチャリー」の意味・わかりやすい解説

ウィッチャリー
うぃっちゃりー
William Wycherley
(1640ころ―1715)

イギリスの劇作家。オックスフォード大学に学び、ついで法学院に入ったが、チャールズ2世の宮廷の雰囲気になじんで、文学活動を始めた。1671年、処女戯曲『森の中の恋』を発表。続いて『紳士の舞踏教師』(1673)、『田舎(いなか)女房』(1675)、『率直な男』(1677)を書く。いずれも当時の社交界の風俗を風刺的に描いた作品で、王政復古期喜劇の典型だが、他の作家のものに比べると骨太で雄々しく、モリエールの影響が認められる。人生の醜悪な面を直視することが特徴だが、とりわけ『田舎女房』は、性的不能者を装って人妻を犯し続ける男を主人公とし、大胆な描写で注目された。後半生は貧困のため不遇。作品活動も低調で、わずかに詩を書いて若年の詩人A・ポープに添削を求めたことで記憶される。

[喜志哲雄]

『笹山隆著『ドラマと観客』(1982・研究社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ウィッチャリー」の意味・わかりやすい解説

ウィッチャリー
William Wycherley
生没年:1640-1716

イギリス王政復古期の風習喜劇の代表作家。フランスに留学後,オックスフォード大学に学ぶ。処女作《森の中の恋》(1671初演),次いで《紳士の舞踏教師》(1672初演)を発表。もっとも有名な第3作《田舎女房》(1675初演)は,性的不能者を装って世間の夫たちを油断させ,人妻を誘惑する男を主人公として,当時の社交界の乱れた男女関係を赤裸に描写したもので,卑猥との非難もうけた。最後の作品はモリエールの《人間嫌い》をもとにした《率直な男》(1676初演)で,社交界の偽善を激しく風刺した。彼の作品は,後輩にあたるコングリーブのものに比べると,繊細さに欠け,文体にあらわれた機智においても劣るが,激しい風刺性や醜悪さに対する観察眼に特色がある。これらの作品が不道徳であるとして非難されたため,後年は戯曲執筆をやめ詩作に専念した。
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