ウェスト(読み)うぇすと(英語表記)Dame Rebecca West

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウェスト」の意味・わかりやすい解説

ウェスト(Nathanael West)
うぇすと
Nathanael West
(1903―1940)

アメリカの小説家。ユダヤ系で本名ネーサン・ワインスタイン。10月17日ニューヨーク市に生まれる。ブラウン大学卒業後ホテルの支配人や雑誌編集などをしながら、『バルソ・スネルの夢の生活』(1931)、『ミス・ロンリーハーツ』(1933)、『クール・ミリオン』(1934)を発表したが世に受け入れられず、生活は苦しかった。1935年『ミス・ロンリーハーツ』映画化のためハリウッドに赴き、以後その地で映画シナリオも書き始めた。『いなごの日』(1939)は、金のため映画美術の仕事をしながらも絵をかく夢を捨てぬ青年トッドを主人公に、女優志願の女に振り回されて精神に障害をきたす、まじめ男ホーマーの悲哀や、映画で得た暴力的な刺激を現実に求めて特別試写会に殺到する群集の興奮などを描き、映画文明を風刺している。だがウェストの特色は、社会批判を根底に置きながらも単なる外面的な現実描写でなく、シュルレアリスム風な手法で人間の苦悩を内面からえぐろうとする点にある。40年12月22日、新婚8か月の妻アイリーンともども自動車事故で短い生涯を終わった。全作品はわずか4編、それも生前はほとんど無視されていたが、57年に一巻本の全集が出版されて、再評価されるようになった。

[大浦暁生]

『佐藤健一訳『クール・ミリオン』(角川文庫)』『板倉章訳『いなごの日』(角川文庫)』


ウェスト(Dame Rebecca West)
うぇすと
Dame Rebecca West
(1892―1983)

イギリスの女性小説家、批評家。本名Cicely Isabel Fairfield。アイルランド生まれ。H・スペンサーやG・B・ショーを相手に個人主義を過大に擁護する論を張ったことで知られる論客の父チャールズとともにエジンバラに移り、父の早世後もここで育つ。若くして文学と政治についての鋭い発言で注目され、ジャーナリストとしてフェミニズムでも活躍。政治的ジャーナリストとしての力量はジョージ・オーウェルに比較される。H・G・ウェルズの著作を酷評したことがきっかけとなって彼と知り合い、やがて彼と関係して生まれた子が作家のアンソニー・ウェストAnthony West(1914―1987)。1930年には銀行家ヘンリー・アンドリューズHenry Andrewsと結婚した。小説では、精神障害になった兵士を描く『兵士の帰還』(1918)、エドワード朝時代のある一家の運命を描いた『泉はあふれる』(1956)が代表作。多くの批評を書いたが、バルカンの歴史と政治を扱った『黒い小羊と灰色の鷹(たか)』(1941)が有名。ニュルンベルク裁判を傍聴して、評論集『反逆罪の意味』(1949)を書いた。フェミニストとして再評価の機運にある。

[小野寺健]

『飯島淳秀訳『考える葦』上下(1954・ダヴィッド社)』


ウェスト(Benjamin West)
うぇすと
Benjamin West
(1738―1820)

アメリカの画家。コプリーとともに植民地時代から連邦時代のアメリカが生んだ初めての国際画家。フィラデルフィアに生まれ、1759年渡欧。イタリアを経て63年からロンドンに移って歴史画の分野で高く評価され、ジョージ3世の宮廷画家となる。92年、レノルズの死去に伴いロイヤル・アカデミーの会長に就任。古典主義様式からロマン主義様式にわたる幅広い作風を示し、ロマン主義絵画の先駆者となる。後進のめんどうをよくみたため、当時ロンドンで絵を学んでいたアメリカ人画家ピール、ダンラップ、プラット、トランブル、スチュアートなどが入れ替わり彼のもとに集まり、その指導と援助を受けた。その意味で、19世紀アメリカ絵画の展開に大きな貢献をなした。

[桑原住雄]



ウェスト(Charles Dickinson West)
うぇすと
Charles Dickinson West
(1847―1908)

イギリスの機械工学者。アイルランドに生まれ、ダブリン大学で機械学を学び、バルケンヘッド造船所の技師長に在職中、1882年(明治15)日本に招かれて工部大学校(現、東京大学工学部)機械工学主任教授となる。以後、1908年まで東京帝国大学工科大学教授として、機械工学、とくに舶用機関学を25年間教育した。門下の井口在屋(いのくちありや)と材料試験用のねじり試験機を考案し、加茂正雄(1876―1960)と東京高等商船学校練習船大成丸の機関部を設計した。東京・青山の外人墓地に墓碑、東京大学工学部1号館の前庭に銅像がある。井口在屋が『機械学会誌』(1908)に追悼文を寄せている。

山崎俊雄 2018年8月21日]


ウエスト(Benjamin West)
うえすと

ウェスト


ウエスト(Charles Dickinson West)
うえすと

ウェスト


ウエスト(Dame Rebecca West)
うえすと

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ウエスト(Nathanael West)
うえすと

ウェスト

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウェスト」の意味・わかりやすい解説

ウェスト
West, Nathanael

[生]1903.10.17. ニューヨーク
[没]1940.12.22. カリフォルニア,エルセントロ
アメリカの作家。本名 Nathan Wallenstein Weinstein。 1924年ブラウン大学卒業後,一時ホテルの支配人をしていたが,その後しばらくパリに出て,ダダ,シュルレアリスムの影響下に『バルソ・スネルの夢の生活』 The Dream Life of Balso Snell (1931) をパリで出版,次いで新聞の身上相談欄担当者を主人公に,現代社会を風刺した傑作『ミス・ロンリーハーツ』 Miss Lonelyhearts (33) を発表して文名を確立した。アルジャー流のアメリカの夢や,ファシズムを批判した辛辣な成功物語『大枚百万ドル』A Cool Million (34) の完成後は,しばらくハリウッドでシナリオを書き,その経験に基づいてハリウッドの映画界を鋭く批判した『いなごの日』 The Day of the Locust (39) を発表。 40年ルース・マッケニーの『妹アイリーン』 My Sister Eileen (38) のモデルといわれる妻とともに自動車事故にあい,短い生涯を閉じた。その風刺的でグロテスクな作風は,のちのブラック・ユーモア派や不条理の文学に影響を及ぼした。

ウェスト
West, Franz

[生]1947.2.16. ウィーン
[没]2012.7.26. ウィーン
オーストリアの芸術家。現代的なコラージュや家具,彫刻,公園に設置された色とりどりのインスタレーションまで幅広い作品を制作し,高い評価を受けた。1960年代にオーストリア美術界の主流だったウィーン・アクショニストの挑発的で暴力的なパフォーマンスアートを否定し,鑑賞者が手に取ることのできる小さなオブジェなど,より親しみやすい芸術を目指した。1970年代に素描やコラージュの制作を始め,1977~82年ウィーンの応用美術アカデミーで彫刻家ブルーノ・ジロンコリのもとで学ぶ。2009年,ボルティモア美術館で,1972~2008年の作品を集めた回顧展が開催された。また,カラフルなループ状のオブジェ『エゴとイド』も制作した。1990年のベネチア・ビエンナーレにオーストリア代表として参加,2011年には同ビエンナーレで「生涯功績への金獅子賞」を贈られた。

ウェスト
West,Sir Edward

[生]1782. イギリス,ミドルセックス
[没]1828.8. ボンベイ
イギリスの判事,経済学者。オックスフォード大学で古典と数学に優秀な成績を収め,1814年イナー・テンプルから弁護士資格を得て,"A Treatise of the Law and Practice of Extents in Chief and in Aid" (1817) を著して有名になる。 1823年以降ボンベイ市最高裁判所長官を務める。穀物法論争初期の『土地への資本投下に関する一論』 An Essay on the Application of Capital to Land (1815) においてトマス・ロバート・マルサス,デービッド・リカードらと並んで収穫逓減の法則の最初の定式化を行ない,また価値論と密接に組み合わせたかたちではないが差額地代論を展開した。

ウェスト
West, Dame Rebecca

[生]1892.12.25. アイルランド,ケリー
[没]1983.3.15. ロンドン
イギリスの女流作家,ジャーナリスト。本名 Cicely Isabel Fairfield。初め女優として立ち (筆名はイプセンの『ロスメルスホルム』のヒロインにちなむ) ,1910年代から左翼系の雑誌に寄稿,おもに女性問題を扱った。『兵士の帰還』 The Return of the Soldier (1918) ,『考える葦』 The Thinking Reed (36) などの小説のほか,ユーゴスラビアの政治を扱った『黒い小羊と灰色の鷹』 Black Lamb and Grey Falcon (2巻,42) ,反逆罪に関する評論『反逆の意味』 The Meaning of Treason (49) ,ニュルンベルク裁判のルポルタージュ『火薬列車』A Train of Powder (55) ,H.ジェームズや D.H.ロレンスなどの作家論がある。

ウェスト
West, Benjamin

[生]1738.10.10. ペンシルバニア,スプリングフィールド近郊
[没]1820.3.11. ロンドン
イギリスで活躍したアメリカの画家。6歳で絵をかきはじめ,1760年イタリアに遊学,古典美術の影響を受けた。 63年ロンドンに渡り古典的な歴史画で有名になる。『ウォルフ元帥の死』 (1771,ケンジントン宮殿) は歴史画に近代性を導入した作品として著名。その後ロマン派的発想による宗教画を描く。 72年国王ジョージ3世の知遇を得て宮廷画家となり,81~1801年ウィンザー城礼拝堂の壁画を制作。ロイヤル・アカデミーの設立者の一人で,レイノルズのあと長年 (92~1805,07~20) にわたって会長をつとめた。

ウェスト
West, Charles Dickinson

[生]1847. ダブリン
[没]1908.1.10. 東京
イギリスの来日教師。ダブリン大学卒業。造船所設計技師長。 1882年6月工部大学校 (現東京大学工学部) に招聘され,機械工学担当主任教授として着任,以後,病死するまで 20年余在職し,日本における各種工学の基礎を確立,あわせて造船学をも指導し,海軍の技術発達に多く貢献した。 1300人余に上る日本人技術者を養成したといわれ,その忍耐強い教授法は大学当局で称賛の的となった。勲二等を授与された。

ウェスト
West, Anthony

[生]1914
[没]1987.12.27. コネティカット
イギリス生まれの評論家,小説家。アメリカに帰化。小説『闇夜』 On a Dark Night (1949) ,評伝『D. H.ロレンス』 (1948) など。 H.G.ウェルズと R.ウェストの息子。

ウェスト
West, Mae

[生]1892.8.17. ニューヨーク,ブルックリン
[没]1980.11.22. ハリウッド
アメリカの女優,劇作家,コメディアン。セックス・コメディー『ダイヤモンド・リル』 (1928) などを自作,自演した。その後多くの映画に出演。 1930~40年代のセックス・シンボルといわれた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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