他の生産要素の投入量を一定としたとき,一つの生産要素の投入量を増大させることに伴う生産量の増分(限界生産力)は当該生産要素投入量の増加とともに減少するという経験法則。限界生産力逓減の法則ともいう。また,この法則が成立するときには,生産を増加させるために必要な投入量が逓増するため,(限界)費用が逓増する。つまり,収穫逓減の法則と限界費用逓増は表裏の関係にある。
1760年代に重農主義者のチュルゴによって初めて主張され,ウェストEdward West(1782-1828),マルサス,リカードらの古典派経済学者によって定式化された。とりわけマルサスの人口原理(人口法則)は,この法則に暗黙のうちに依拠しているものとして有名である。すなわち人口原理によれば,時間とともに人口は等比級数的に成長するが,食糧生産は等差級数的にしか増加しない。このことは,生産要素としての土地の投入量が一定であるとき,いま一つの生産要素である労働投入を増加させても,生産の増加は逓減することを意味している。
なお収穫逓減の法則は,すべての投入量を一定倍にしたときに,生産量が比例的に増大しない状態を意味する規模に関する収穫逓減とは異なる。規模に関する収穫不変が仮定され,すべての投入物を一定倍したときに生産量も比例的に増大するとしよう。この場合にも,他のすべての投入物の投入量を一定として,1種類の投入物(たとえば労働)の投入量だけを増加させれば,よりいっそう労働集約的な技術を使うこととなり,労働生産性自体が逓減してしまうからである。
一方,問題となっている投入物以外(たとえば機械)の投入量に比べて当該投入物(たとえば労働)の投入量が技術的に決まるその最適投入量よりも小さいときには,その投入量を増やすことによって分業の利益を実現し,生産性を高めることができる。つまり限界生産性は,その投入物の投入量が過小であれば逓増し,ある程度の量に達して初めて逓減する。また,その投入量が他の要素投入量に比べて過大になったときには,生産性は負となる。このように,収穫逓減の法則はある一定の範囲でのみ成立すると考えられている。
執筆者:奥野 正寛 生物学の分野では報酬漸減の法則ともいう。植物の生育や収穫量は,各種養分や水分,あるいは光の明るさや温度など多くの因子によって影響される。これら多くの因子のうち,1種類の因子のみが不足し,他は十分に適量存在する場合を想定してみると,不足している因子(制限因子)の供給量を増加すると植物の収穫量(生育量)も増加する。両者の関係は図の実線のようになる。すなわち,不足している因子の増加に伴っての収穫量の増加は直線にはならないで,収穫量の増加割合はしだいに緩やかになって,ついには一定値に達し,それ以上制限因子の供給を増加しても収穫量は増加しなくなる。このように,ある因子の効果が因子の量の増加に伴って漸次低下していくことをいう。
ミッチャーリヒE.A.Mitscherlichは1909年にこれを数式化して
dy/dx=k(A-y)
とした(yは収穫量,xは因子の量,Aは最大収穫量,kは効果の率を示す定数)。この式はある因子の増加分dxと収穫量の増加分dyの比dy/dxは,そのときの収穫量yと因子が十分にあるときの最大収穫量Aとの差に比例するということを示すもので,これからy=A(1-e⁻kx)という式が導かれ,yとxの関係はほぼ図に示すような曲線になる。現実の農地での作物の収穫量と因子の量との関係で,このような単純な法則が成立するかどうかについては疑問も出されている。とくに因子が過剰になると,図の点線で示したように収穫量は減少するが,この部分は上述の式にはあてはまらなくなる。
執筆者:茅野 充男
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生産要素の増加量と生産物の増加量に関する経済学の基本的命題。最初は、D・リカードやT・R・マルサスなど古典派経済学によって、土地の収穫逓減の法則として理論化された。一定の土地からの収穫量は、労働投入量の増大に比例せず、追加労働1単位の収穫量は逓減していく。したがって、収穫量を増大させるためには、相対的に肥沃(ひよく)度が低く単位当り収穫量の低い土地も順次使用されるようになる、というのがこの法則の内容である。リカードはこの法則を基礎に、優等地と劣等地の収益の差が地代を発生させるものと考え、差額地代論を展開した。マルサスは、人口は放置すれば幾何級数的に増加するという独自の人口法則とこの法則とを結び付けて、貧困は、食糧増加が人口増加に追い付かないという自然法則によって生み出されるものと説明した。
近代経済学(新古典派)では、この法則はあらゆる生産部門のあらゆる生産要素(資本、土地、労働)にも適用できるものと考えており、この法則を基礎に限界生産力説が展開されている。所与の技術水準の下で、特定の生産要素のみを増加させ、他の生産要素の投入量を一定にしておくならば、増加された生産要素の追加1単位当りの生産量(限界生産物)は一般に逓減する。これを生産要素に関する収穫逓減の法則とよんでいる(工業の場合、収益逓減の法則ともいう)。この法則の作用は、工場や機械設備が一定の場合、生産量1単位当りの平均費用が、生産量が一定規模を超えると逓増していくという形で現れる。
農業の場合にも工業の場合にも、収穫逓減の法則は、発明や改良による生産性の上昇を考慮に入れた長期の過程には妥当しない。
[佐々木秀太]
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