無数に存在する小惑星のうち,大部分のものは大きさが100km以下で岩石のように不規則な形をしており,軌道も円形に近く木星と火星の軌道の間に収まっている。しかし中には次にあげるような特異な性質をもっていて,一般のものと区別するために特異小惑星という名で呼ばれているものがある。
(1)小惑星番号1番ケレスから4番ベスタまでのように,比較的大きな直径をもち,したがって明るく観測され,形状は一般の惑星と類似の球形をしていて,小惑星が誕生したときのままの形態を保っていると考えられるもの。
(2)944番ヒダルゴ,2060番キロンのように,軌道半長径および離心率が大きい値をもっていて,遠日点が木星の軌道の外側にあるすい星と類似した軌道上を運行しているもの。
(3)1862番アポロ,1566番イカルスのように軌道半長径が小さく,しかも離心率が大きい値をとっているため,近日点が地球の軌道を越えて太陽に近づくような軌道上を運行しているもの。イカルスの近日点は水星の軌道よりも内側にある。この種の小惑星は地球の軌道を横切る際,地球に異常に接近する可能性がある。例えばアポロは1932年の発見年には地球から0.02天文単位のところを通過した。このように地球に衝突する可能性のある小惑星は直径1km以上のものに限ると約500個くらいあると推定され,衝突の確率は100万年に1回程度と考えられている。
(4)最近では変光の振幅の大きさの差こそあれ,小惑星が変光しているということは一般的な性質と考えられているが,しばらく前までは433番エロスのようにとくに著しい変光を示す(振幅1.7等級)もの,すなわち形状が著しく不規則である(35km×16km×7km)と考えられるものを特異小惑星の中に加えた。
(5)小惑星の軌道の平均運動の値を統計的に調査すると,木星の平均運動300″/日と簡単な整数比関係にあるもの(例えば3/2倍の450″という平均運動をもつヒルダ群,1/1倍の300″の平均運動をもつトロヤ群に属する小惑星)は,近くに似たような平均運動をもつ小惑星がない中で群をつくって存在していたり,逆に連続的な平均運動をもつ小惑星が連なっている中で空隙(くうげき)をつくっていたりする。木星の引力による摂動の影響と考えられているが,どうしてある場所では群をつくり,ある場所では空隙となるか理論的な解明はなされていない。
(6)532番ヘルキュリナはその背後を恒星が通過するいわゆるえんぺいの現象の際,恒星が小惑星に潜入する予想時刻の約90秒前に,約5秒間恒星の光が消えるのが観測された。このような現象は直径200kmの本体の近くに直径50kmの小惑星を伴っているとすれば説明できるので,二重小惑星ではないかと考えられている。このような例は今日まで約10個が報告されている。
(7)二重小惑星が存在するとなると,伴星の軌道面の向きしだいでは,伴星が主星の前面を通過するごとに食を起こして,食変光星と同じような光度曲線を示すことが予想される。光度曲線の形から二重小惑星ではないかと考えられている小惑星は44番ニサをはじめとして約10個に及ぶ。
→小惑星
執筆者:竹内 端夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
特別な定義があるわけではないが、一般的でない特徴をもつ小惑星のことをいう。たとえば、(1)その直径がとくに大きな、1番セレス、2番パラス、4番ベスタ、(2)軌道長半径が木星軌道(5.3天文単位)より外側で、離心率や軌道傾斜角の大きな944番ヒダルゴ、軌道長半径が13.7天文単位の2060番チロン、(3)アポロ群小惑星のなかでもとくに地球に近づいた1566番イカルス、(4)同じくアポロ群小惑星433番エロスやトロヤ群小惑星624番ヘクターのように大きな変光を示す小惑星、(5)532番ヘルクリナのような衛星をもつかもしれない小惑星、(6)ヒルダ群小惑星のように木星の平均運動と尽数(じんすう)関係にある軌道上の小惑星、などがあげられる。
[松井孝典]
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…小惑星の大きさとその数について表2に示すような推定がなされている。 このように数の多い小惑星であるから,なかには特別にわれわれの興味を引くような特殊な性質をもつものが含まれており,これらは特異小惑星と呼ばれている。【竹内 端夫】。…
※「特異小惑星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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