日本大百科全書(ニッポニカ) 「カツオノエボシ」の意味・わかりやすい解説
カツオノエボシ
かつおのえぼし / 鰹の烏帽子
Portuguese man-of-war
[学] Physalia physalis utriculus
腔腸(こうちょう)動物門ヒドロ虫綱管(くだ)クラゲ目カツオノエボシ科に属する海産動物。普通のクラゲと異なって、さまざまな個虫が集まって一つの群体をつくっている。直径10センチメートルほどで、コバルト色の烏帽子形をしたビニル袋のような浮き袋(気胞体)があり、その下に長さ1メートルに達する多数の細長い触手が垂れ下がり、また口があって餌(えさ)をとる栄養個虫、さらに生殖細胞の生じる生殖体などがみられる。熱帯から亜熱帯の海に多いが、黒潮にのって北上し、それらが風波のために日本の沿岸にも打ち寄せることがある。このクラゲの触手にみられる刺胞の毒はきわめて強く、海水浴の人々がこれに触れると、やけどのような激しい痛みを受ける。そのため俗に電気クラゲともよばれる。この刺胞を多数もった触手で、海の表面近くにいる小魚やエビなどをとらえ、それらを栄養個虫の口から食べているが、しかし不思議なことに、この触手の間にはエボシダイという魚がいつも隠れて生活している。このクラゲは英語で「ポルトガルの軍艦」とよばれるが、大西洋の海上に浮かぶこのクラゲが15、16世紀ごろのポルトガルやスペインの軽快な帆船の形に似ており、また強い痛みを与える刺胞で武装されていることから、この名が生じたといわれる。また和名については、漁師が初夏に初ガツオを釣りに出始めるころにこのクラゲも現れ、その気胞体が烏帽子に似ていることに由来するという。黒潮に洗われる本州中部以南の沿岸に多くみられるが、本州北部や北海道南西部の沿岸にもみられることがある。
[山田真弓]