日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポジトロニウム」の意味・わかりやすい解説
ポジトロニウム
ぽじとろにうむ
positronium
電子とその反粒子である陽電子(ポジトロン)がクーロン引力で結合した束縛状態。水素原子の原子核である陽子を陽電子で置き換えたもので、陽電子が物質中で減速して物質にとらえられたときに形成される。水素原子に比べると、同質量の二粒子から構成され換算質量が半分になるので、広がり(ボーア半径)は2倍、結合エネルギーおよびエネルギー準位間隔は半分となる。結合エネルギーが6.8電子ボルトの最低状態(相対S波)になってのち、光を放出して対(つい)消滅をする。ポジトロニウムの基底状態としては、電子と陽電子のスピンが反平行の状態と平行の状態のものがある。スピンが反平行の状態(パラポジトロニウム)は2個の光子に約100億分の1秒の寿命で崩壊する。スピンが平行な状態(オルトポジトロニウム)は、3個の光子に崩壊し、約1000倍長い寿命となる。ポジトロニウムは、電磁的相互作用のみが働く系として、理論的に重要さをもつ。また、ポジトロニウムは物質とも反応し、物質中でのポジトロニウムの形成と分解および対消滅時の光放出の諸過程は、物質の性質を反映するので、液体や固体の性質を調べるうえでも有用である。
[玉垣良三・植松恒夫]