ポジトロニウム(その他表記)positronium

翻訳|positronium

デジタル大辞泉 「ポジトロニウム」の意味・読み・例文・類語

ポジトロニウム(positronium)

電子とその反粒子である陽電子が、クーロン力で結合した状態。粒子・反粒子の組み合わせのため、短時間で対消滅を起こしてγガンマを放つ。電子と陽電子のスピン平行状態にあるものをオルソポジトロニウム、反平行状態にあるものをパラポジトロニウムと呼び、前者は約1千万分の1秒、後者は約100億分の1秒で崩壊する。通常の原子との間に斥力がはたらき、物質中の原子間の空隙に留まる性質をもつ。この性質を利用して、寿命が長いオルソポジトロニウムを試料中に生成し、ナノメートルサイズの空隙を調べる手法が考案された。

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改訂新版 世界大百科事典 「ポジトロニウム」の意味・わかりやすい解説

ポジトロニウム
positronium

電子と陽電子(ポジトロン)とは静電気力で引き合い,結合状態をつくる。この束縛状態をポジトロニウムという。電子と陽子との束縛状態(水素原子)と同様の構造であるが,エネルギー準位の値は水素原子の場合の半分である。ポジトロニウムの基底状態としては,電子と陽電子のスピンが平行で合成スピンが1のもの(オルト状態)と,反平行で合成スピンが0のもの(パラ状態)とがある。陽電子を物質中に送り込むと,オルトとパラの状態が3:1の割合で生成される。ポジトロニウムは不安定で,電子と陽電子は消滅して光子に転化する。パラ状態は約10⁻10秒の寿命で2個の光子に崩壊するが,オルト状態は選択則により2個の光子への遷移が禁止され,3個の光子に崩壊する。その寿命は約10⁻7秒である。オルトとパラの崩壊のしかたの違いを利用し,物質のスピン構造を調べることができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポジトロニウム」の意味・わかりやすい解説

ポジトロニウム
ぽじとろにうむ
positronium

電子とその反粒子である陽電子(ポジトロン)がクーロン引力で結合した束縛状態。水素原子の原子核である陽子を陽電子で置き換えたもので、陽電子が物質中で減速して物質にとらえられたときに形成される。水素原子に比べると、同質量の二粒子から構成され換算質量が半分になるので、広がり(ボーア半径)は2倍、結合エネルギーおよびエネルギー準位間隔は半分となる。結合エネルギーが6.8電子ボルトの最低状態(相対S波)になってのち、光を放出して対(つい)消滅をする。ポジトロニウムの基底状態としては、電子と陽電子のスピンが反平行の状態と平行の状態のものがある。スピンが反平行の状態(パラポジトロニウム)は2個の光子に約100億分の1秒の寿命で崩壊する。スピンが平行な状態(オルトポジトロニウム)は、3個の光子に崩壊し、約1000倍長い寿命となる。ポジトロニウムは、電磁的相互作用のみが働く系として、理論的に重要さをもつ。また、ポジトロニウムは物質とも反応し、物質中でのポジトロニウムの形成と分解および対消滅時の光放出の諸過程は、物質の性質を反映するので、液体固体の性質を調べるうえでも有用である。

[玉垣良三・植松恒夫]

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化学辞典 第2版 「ポジトロニウム」の解説

ポジトロニウム
ポジトロニウム
positronium

陽電子が物質中の電子とともにつくるごく短寿命の電子対.Psと表す.水素原子が陽子と電子とからつくられるのに対し,ポジトロニウムは陽電子を核とする一種の遊離原子とみなすことができる.電子対のスピンが反平行か平行かにより,オルト(三重項)とパラ(一重項)がある.[別用語参照]電子対消滅ポジトロニウム化学オーレギャップ

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポジトロニウム」の意味・わかりやすい解説

ポジトロニウム
positronium

電子と陽電子の束縛状態。電子と陽電子のスピンが反平行なパラポジトロニウムは 1.25×10-10 秒の寿命で2個の光子に崩壊し,スピンが平行なオルトポジトロニウムは寿命 1.4×10-7 秒で3個の光子に崩壊する。水素原子に比べ,大きさは2倍,エネルギー準位の間隔は 1/2 である。

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世界大百科事典(旧版)内のポジトロニウムの言及

【陽電子】より

…高エネルギーの光子が物質中を通過するとき電子・陽電子の対がつくられる(電子対生成)。逆に陽電子は物質中の電子に衝突して消滅し,光子に転化するが,その際,陽電子と電子は静電気の引力により結合状態(ポジトロニウム)をつくる。陽電子と電子のスピンの向きによって2個の光子に転換する場合と3個の光子になる場合とがある。…

※「ポジトロニウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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