果実および若葉は日本古来の香辛料で,古名をハジカミ(椒)という。北海道から九州までの山地に自生するミカン科の落葉低木で,人家にも植えられる。よく枝分れして高さ2~3mになる。葉は11~19枚の小葉が奇数枚羽状に集まる複葉で,長さ5~15cm,茎に互生する。小葉は縁に波のある細長い卵形で,長さ1~3cm。葉の付け根には1対のとげがある。雌雄異株で,春に葉の付け根に花穂がつき,多数の黄緑色の小花が咲く。雄花には5本の長いおしべがある。果実は表面がざらついた5mmほどの球形。秋に赤く熟し,果皮が裂けて,中からつやのある黒色の種子が現れる。ほとんどとげがなく果実が大きめなアサクラザンショウforma inerme Makinoや,とげが短いヤマアサクラザンショウforma brevispinosum Makinoなどの変種がある。サンショウは葉や果実が日本料理,香辛料などに広く利用されるので需要も多く,冬季に若葉を採るために,ビニルハウスを使った促成栽培もされている。
執筆者:星川 清親
サンショウは古くから食用,薬用とされてきた。はじめは〈はじかみ〉と呼ばれたが,同じようにしんらつ味をもつショウガが伝来すると,それを〈くれのはじかみ〉と呼び,サンショウは〈なるはじかみ〉〈ふさはじかみ〉と呼んで区別するようになった。3月ころから新芽を吹くが,この新芽や若い葉を〈木の芽〉と呼び,煮物の香りづけや汁物の吸口に用いる。木の芽みそ,サンショウみそはみそにすりまぜたもので,木の芽あえはこれでたけのこやイカをあえたもの,木の芽田楽は豆腐にこれを塗った田楽である。《庭訓往来》には木の芽漬の名が見えるが,これは洛北鞍馬(くらま)山の名物として有名であった。4~5月ころになるとアワ粒ほどの緑黄色の花をつける。これを花ザンショウといい,つくだ煮ふうに煮て付合せなどにする。そのあと結実した青い実が実ザンショウ,完熟した実を粉末にしたのが粉ザンショウで,実ザンショウはつくだ煮などにし,粉ザンショウは蒲焼,焼鳥その他の薬味にする。なお,これも鞍馬の名物とされたものに辛皮(からかわ)がある。若い枝の樹皮をあく抜きしたもので,細かく刻んでしょうゆで煮たり,塩漬やかす漬にし,茶漬の菜などとして喜ばれたものであった。また,サンショウの幹は強く折れにくいこともあって,すりこ木にされる。なお,サンショウには健胃,駆虫,止瀉(ししや),発汗などの作用があり,古来薬剤としても用いられてきた。ちなみに,その香りはテルペン系のフェランドレン,オイゲノール,シトロネラール,辛みはサンショオールによるものである。
執筆者:菅原 龍幸+鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ミカン科(APG分類:ミカン科)の落葉低木。高さ2~3メートルになり、よく分枝する。葉は奇数羽状複葉で長さ5~15センチメートル、小葉は卵形で5~9対、さらに先端に1枚つく。葉柄の基部には1対の刺(とげ)がある。雌雄異株で、春に葉の付け根から花穂を出し、黄緑色の小花を多数つける。果実は、ざらついた5ミリメートルほどの球形で、秋に赤く熟して果皮が裂け、黒色の種子が現れる。各地の山野に自生し、庭木としても植えられる。変種には刺がないアサクラザンショウや、刺の短いヤマアサクラザンショウなどがある。
[星川清親 2020年10月16日]
葉および果実は独特のすがすがしい芳香と辛味をもち、日本の代表的香辛料の一つである。若芽は「木の芽」とよばれ、非常に香りが高く、吸い物に浮かせたり、和(あ)え物や酢の物に用いて料理に初夏の季節感を与える。未熟な果実は青山椒(あおざんしょう)とよばれ、おもに佃煮(つくだに)にして食されるが、成熟した果実を乾燥、粉末にしたものは粉山椒として七味唐辛子の成分の一つであり、またうなぎの蒲焼(かばや)きには欠かせない和風香辛料である。香りの主成分はテルペン系のフェランドレン、オイゲノール、シトロネラール、辛味の主成分はサンショオールである。木の幹も香りがよいのですりこ木の材料に用いられる。
[齋藤 浩 2020年10月16日]
果実が裂開し、中の1個の黒い種子と果柄を除いた果皮の部分を山椒(さんしょう)と称して薬とする。精油(2~4%)と樹脂を含むため、芳香をもち、味は辛く、麻痺(まひ)性である。健胃、整腸、駆虫、解毒剤として腹部の冷痛、下痢等の治療に用いられるほか、苦味チンキの原料の一つとされる。蒲焼きにつけるサンショウ末は脱臭、解毒、食欲増進のためである。毒虫に刺されたときには、サンショウの葉の絞り汁をつけるとよい。若葉は日本料理の吸い物、和え物に用いられる。また、種子を椒目(しょうもく)といい、利尿作用があり、目の病気に用いる。中国ではトウザンショウZ. simulans HanceおよびZ. bungeanum Maxim.の果実を花椒(かしょう)と称し、山椒と同様に用いるほか、岩塩末と混合して花椒塩とよぶ調味料としても使用される。
[長沢元夫 2020年10月16日]
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…洋傘を〈こうもり〉というのも,広げた形がこの動物に似ているからである。【千葉 徳爾】 江戸時代にはコウモリがサンショウや酢を好むものとされた。《本朝食鑑》《和漢三才図会》などもサンショウを好むといっており,江戸の子どもたちは夏の夕方,〈こうもりこうもり山椒くりょ,柳の下で酢をのましょ〉と歌ってコウモリを呼んだ。…
…中華料理とも称される。中国語では料理は〈菜〉と表し,〈菜単〉とはメニューを指す。中国各地方の料理,さらに宗教に由来する〈素菜〉(精進料理),〈清真菜〉(イスラム教徒の料理)などをふくめて中国料理という。
【特色】
中国料理は世界に類のない長い歴史と普遍性をもった料理である。一般的にどの国の誰が食べてもうまい料理として,フランス料理とともにあげられる。それぞれブルボン朝,明・清王朝などの宮廷料理から発達しており,洗練されつくした国際性の高い料理といわれる。…
※「さんしょう」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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