シェールガス(読み)しぇーるがす(英語表記)shale gas

翻訳|shale gas

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シェールガス」の意味・わかりやすい解説

シェールガス
しぇーるがす
shale gas

頁岩(けつがん)(シェール)という硬い地層の中に含まれている天然ガスのこと。北米中国や他のアジア地域、中南米、ヨーロッパ、旧ソ連など世界で広く賦存しており、膨大な資源量がある。資源そのものの存在は古くから知られていたが、硬い地層の中で1か所に集中して集積していないため、経済性をもって採掘することができなかった。しかし、シェール層を水平に長距離掘削する水平掘削技術や、硬い地層を水圧で割って隙間(すきま)をつくり、ガスや石油を取り出す水圧破砕法という先進技術を駆使することで、経済的に生産することが可能になり、パイプライン網が発展してきわめて多数の生産業者が一気に取組みを本格化させたアメリカで、シェールガスの生産が2000年代に入って急拡大した。なお、その結果、アメリカではガス利用が大きく拡大し、石炭を代替したため、二酸化炭素(CO2)排出量が大幅に減少した。一方、二酸化炭素より温室効果の高いメタンを主成分とするため、採掘などで大気中に放出されると温室効果が増加する可能性があること、などが課題となっている。

小山 堅 2022年1月21日]

シェール革命

アメリカで先進技術を駆使することで、従来は経済的に採掘できなかったシェールガスやシェールオイル(シェール層に含まれる石油)の生産が2000年代に入って急速に拡大し、アメリカや世界のエネルギー情勢に革命的な変化がもたらされた。これを「シェール革命」という。シェール革命前は、アメリカでは、石油・天然ガスの生産は減少を続け、石油・ガスの輸入依存度は上昇を続けるものと予想されていた。しかし、シェール革命によりアメリカの生産は劇的に増加して、いまやアメリカはサウジアラビアロシアを上回る世界最大の石油・天然ガス生産国となった。生産増加で輸入は減少し、アメリカはエネルギー自給をほぼ達成して、石油・LNG(液化天然ガス)の輸出も拡大させた。アメリカのエネルギー政策は、輸入依存度上昇への対応から、豊富な石油・ガス供給をアメリカの国益最大化にどう活用するか、に変わった。

 アメリカの石油・ガス生産が急増したことで世界の需給が緩和し、原油価格には下落圧力が強くかかった。このため、石油輸出国機構(OPEC(オペック))加盟諸国などの産油国は、シェール革命の影響で生産調整を余儀なくされるようになった。また、前述したようにアメリカ国内では豊富な供給に支えられ、天然ガスの価格が大幅に下落し、競争力を高めた天然ガスが石炭を代替し、結果としてアメリカの二酸化炭素排出量は大きく減少した。また、天然ガス価格の低下とそれによる電力価格の低下は、アメリカのエネルギーコストを引き下げ、産業競争力の強化に貢献した。さらに、活況を呈した石油・ガス産業や石油化学産業と関連インフラ産業がアメリカ経済の成長を牽引(けんいん)し、アメリカの全体的な国力強化をもたらすなど、シェール革命は、まさに革命的な変化をアメリカと世界にもたらした。

[小山 堅 2022年1月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シェールガス」の意味・わかりやすい解説

シェールガス
shale gas

頁岩(シェール)層から採取される天然ガス。多くは深さ 1500m以上の場所に賦存する。頁岩は,数億年前に海底や干潟に堆積した有機物に富む泥土で,シルトや粘土の細かい粒子からなる堆積岩である。長い年月の間に泥土層はさらなる堆積物によって深く埋没し,泥土は熱と圧力の作用で頁岩に変成し(→変成作用),有機物は天然ガスとなった。頁岩の中で発生したガスは,長い地質時代を経て,より浸透性の高い岩層へと移動した。これは今日,在来型貯留層と呼ばれるガス鉱床を形成しており,在来型の掘削法によって容易に採掘できる。しかし多くのガスは頁岩の中に留まっており,貯留層への移動はきわめて遅いため,在来型の手段では採掘できない。最も生産性が高いのは,頁岩層を水平に掘削し,次に高圧の水を注入する水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれる方法である。1990年代以降,アメリカ合衆国では膨大な量のガスが水圧破砕法で採掘されるようになり,2000年代初めにはアメリカ最大のシェールガス埋蔵地帯であるペンシルバニア州を中心としたマーセラス・シェール層での掘削が始まった。しかし水圧破砕法は,ガスそのものや汚染水などの有害な化学物質が地下水に混入するおそれが指摘され,環境への影響が懸念されている。アメリカエネルギー情報局が 2011年に発表した資料によると,世界のシェールガス推定埋蔵量は中国が約 36兆m3と最も多く,次いでアメリカの約 23兆m3(うちマーセラス・シェール約 3兆~14兆m3)となっている。(→エネルギー資源

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