〈電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律〉の略称。1952年秋の賃金闘争で電産(日本電気産業労働組合)は送電をストップさせる電源スト・停電ストなどを行い,また,炭労(日本炭鉱労働組合)は保安要員の総引揚げを含むストライキを行った。当時電力,石炭とも国民経済の復興にとって必要不可欠のエネルギー源であったため,このような強力な争議行為は,国民生活に重大な損害を与えるものとしてその規制を望む世論が形成された。他方,このスト規制法は,同年の大規模な労働法規改悪反対闘争を押し切って行われた,破壊活動防止法の制定,労働関係調整法の改正(緊急調整制度の導入など)の延長線に位置する弾圧立法であるとして労働組合などの強い反対をうけた。しかし翌53年8月制定施行された。
同法は,電気事業については,〈電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為〉(2条)を,石炭鉱業については,〈保安の業務の正常な運営を停廃する行為であって,鉱山における人に対する危害,鉱物資源の滅失若しくは重大な損壊,鉱山の重要な施設の荒廃又は鉱害を生ずるもの〉(3条)を,労使双方とも争議行為の方法として行ってはならないとする。政府案は無期限であったが,3年間の時限立法とする修正が施され,その後,1956年12月国会は無期限存続を決議した(付則2項)。なおこの法律は違反に対する罰則規定を設けていない。立法当初は,この法律に違反した争議行為は,正当性をもたず民・刑事免責をうけないと考えられていたようである。しかし,鉱物資源の滅失や鉱山施設の荒廃を招き,みずからの職場復帰を不可能とするような形態の争議行為は,この法律の立法をまつまでもなく権利の濫用にあたり法的保護をうけない。また,立法目的(スト規制法1条)をみると,この法律は,使用者の財産の保護を目的とするものでなく,国民経済という公共的利益または事業の受益者たる国民の日常的生活利益の保護を目的とする。したがって,この法律に違反した争議行為は,第三者たる国民に対する責任を生ずることがあるとしても,使用者に対する責任を生ずるものでない。極端な争議行為の形態にあたらない,すなわち,権利の濫用にあたると評価されないものに至るまで,一律に禁止制限することは,憲法の規定する争議権保障の趣旨に反するというべきであり,この法律に違反した争議行為は民・刑事免責を当然に失うものではない。
執筆者:渡辺 裕
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正式名称は「電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律」(昭和28年法律171号)。電気事業と石炭鉱業に業種を限定し、かつ争議行為そのものを禁止するものではなく、その方法に対して重大な制約を加える法律。1953年(昭和28)に3年間の時限立法として制定されたが、1956年に国会で存続決議が行われ、現在も効力を有する。両業種での争議行為に対しては労働関係調整法上の制限があるが、それに加えて本法が制定された理由は、第一に、朝鮮戦争後の不況期において労働運動が再高揚した際、その中心となっていたのが電産(日本電気産業労働組合)と炭労(日本炭鉱労働組合)だったからである。とくに、1952年秋にはこれらの組合が電源ストや保安要員引き揚げなどの戦術による長期ストを行った。第二には、民間基幹産業であるエネルギー産業での争議行為を規制し、高度経済成長政策の推進が企図されたからである。
本法では、電気の正常な供給に障害を生じさせる行為、および鉱山保安法に規定する保安業務の正常な運営の停廃行為であって、人に対する危険および鉱物資源・鉱山施設の損壊などを争議行為として行うことを労使に禁止している。本法の違反に罰則は設けられていないが、代償措置もなく争議権を制限していること、本来、使用者の責任である企業財産の維持を労働者に義務づけていること、さらに石炭産業の地位の低下などからみて、争議権を不当に制限する法令といえる。
[吉田美喜夫]
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1952年(昭和27)秋の電産・炭労両争議を契機として,53年8月に制定された法律。正式名は「電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律」。当初は3年の時限立法であったが,56年に恒久立法化。停電スト・電源スト,炭鉱保安要員の職場放棄は,国民経済に重大な損害を与えるというのが立法の理由であったが,労働側はいわゆる労闘ストで猛反対した。
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…労働委員会の争議調停が行われ,受諾された調停案の解釈履行に疑義ある場合は,申請後15日を限度として労働委員会の見解が示されるまでは争議行為が禁止される(3章)。また,船員については人命もしくは船舶に危険が及ぶとき(船員法30条),電気事業については電気供給を停止させるとき,石炭鉱業については保安を停廃させるとき(スト規制法)は,争議行為は禁止される。この禁止規定に違反する争議行為は,一律に民・刑事免責を失うものでなく,各規定の趣旨に照らして免責の有無が判断される。…
※「スト規制法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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