日本大百科全書(ニッポニカ) 「スナギンチャク」の意味・わかりやすい解説
スナギンチャク
すなぎんちゃく / 砂巾着
zoanthid
sandy creeplet
腔腸(こうちょう)動物門花虫(かちゅう)綱六放サンゴ亜綱スナギンチャク目Zoanthariaに属する海産動物の総称。9属約250種が知られ、すべて海産で、干潮時には露出する潮間帯から数千メートルの深海まで分布し、赤道直下より南北両極地域の海にまで広く分布する。
[内田紘臣]
形態
スナギンチャクは基本的には岩などの上を共肉が覆い、そこからイソギンチャクのような個虫が立ち上がる群体をつくるが、スフェノプス属Sphenopusのみは単体で、反口側は丸く終わり、砂中に埋もれて生活する。一般に体壁の組織中に砂粒などを埋め込む種が多いのでスナギンチャクとよばれる。各個虫は下方で共肉で連なっているが、円筒形の体壁と上端の口盤、口盤の中央の裂状の口と、口盤周辺に並ぶ触手をもち、外見はイソギンチャクと同じ形をしている。しかし内部構造は大いに異なる。口盤から胃腔(いこう)内にぶら下がる口道には、卵や幼生の出口となったり、入水や出水のときに用いられる管溝が一つしかなく、個虫は便宜上、管溝のある側を腹側とする。背腹の対称軸上に背側に1対、腹側に1対の方向隔膜があるが、腹側は口道に達する完全隔膜となり、背側の方向隔膜はつねに口道まで達しない不完全隔膜となる。また、最初の6対の隔膜(原始隔膜)以後に発達してくる隔膜は、かならず腹側方向隔膜の左右両側から新生され、さらに不完全隔膜と完全隔膜が交互に新生される。6対の原始隔膜のうち腹側方向隔膜対(つい)のみが完全隔膜となるものと、それに加えて腹側方向隔膜対の両隣の計3対が完全隔膜対となるものとの二つのグループに分けられる。前者にはスナギンチャク科のみが属し、後者にはヤドリスナギンチャク科とセンナリスナギンチャク科が属する。
[内田紘臣]
おもな種類
スナギンチャク科の諸種は単体のスフェノプス属を除き、ほとんどは暖海のサンゴ礁海域の浅海に産する。体壁に砂粒などの異物を埋め込まず、上端をすぼめる役割の周口筋を二重にもったマメスナギンチャク属Zoanthusや、体壁に異物を埋め込み、厚い共肉をもつイワスナギンチャク属Palythoaなどがある。一方、ヤドリスナギンチャク科とセンナリスナギンチャク科の諸種は寒帯・熱帯の区別なく、比較的深い所に生息し、ほかの動物の上に共生するものが多い。ヤドリスナギンチャク科は中膠(ちゅうこう)性の周口筋をもち、深海性のカイメンであるホッスガイ類の柄部に共生するカイメンスナギンチャクEpizoanthus fatuusや、ヤドカリの入った貝殻上にのみ群体を形成するヤドカリスナギンチャクE. paguriphilus、ヤツマタスナギンチャクE. ramosusなどがある。また、センナリスナギンチャク科は内胚葉(ないはいよう)性の周口筋をもち、カイメン類、ヒドロ虫類、ヤギ類などの上に群体をつくるものが多く、日本からはヒドロ虫類のスダレガヤの群体上に群体をつくるセンナリスナギンチャクParazoanthus gracilisが知られる。
[内田紘臣]
毒
スナギンチャク類は一般にその組織や粘液に毒を含み、この毒は最初ハワイのイワスナギンチャクの1種パリソア・トキシカPalythoa toxicaから分離されたので、1964年にパリトキシンpalytoxinと名づけられ、これまで知られている海産動物の毒としては最強のものである。ハワイのこの有毒種はマウイ島のハナ海岸に生息し、古代ハワイ人が戦闘用の矢毒に使用し、致命的作用をもたらしたといわれる。現在でもこれを「ハナの猛毒海藻」とよび、これを採取すると災いがあるという伝説によって群体は保存されている。採集に行ったハワイ大学の学生が、不注意にもこの群体に触れただけで2日間苦痛に悩み入院した。また、沖縄諸島のイワスナギンチャクの1種パリソア・タベルクロサP. tuberculosaは、雄性先熟で雌性になり、卵が発達してくる夏季に毒性が著しくなることがわかっている。
[内田紘臣]