火山灰編年学ともいう。火山の大規模な噴火はごくまれな現象であるが,いったん起こると多量のテフラtephra(火山灰や軽石など)がガスとともに大気中に放出され,広域に広がって堆積する。瞬時に(数時間~数日)広域に分布するというテフラの性質に基づいて,堆積したテフラ層を時間目盛として地史や考古学の編年に使う研究がテフロクロノロジーである。元来,〈テフラ〉は古代ギリシアのアリストテレスが降下火山灰について用いた語であった。1944年にアイスランドのソラリンソンSigurdur Thorarinssonが火山砕屑物(火山灰,軽石,スコリア,岩片など)の集合名詞として定義して以来,広く使用されるようになった。
テフロクロノロジーはテフラ分布域のさまざまな事象の研究に用いられる。その近代的研究は1930年代初期に,日本やニュージーランドで火山灰土壌の特異な性質と改良といった実用面からの要請に呼応して開始された。その後テフラが噴火,災害,地形や地層や考古遺物の形成,植生や動物相の変遷などの,地表諸事象と深くかかわることが明らかになるにつれ,テフロクロノロジーは多くの専門分野にまたがる学際研究として進展した。その一例である関東平野のテフラの研究では,その中に含まれる石器や土器の編年,さらに自然環境の変遷が解明されるとともに,グローバルな海面変化史や気候変化史の研究に年代測定されたテフラが用いられ成果を挙げた。またそれらのテフラをもたらした火山の活動史や噴火の性質,あるいはテフラを堆積させた地形面の変動史なども解明された。
テフラ研究の基礎は一枚一枚のテフラの正確な同定と噴出年代の決定にある。前者は野外での詳しい観察・記載に加えて,テフラを構成する鉱物の岩石記載的性質を解明することにより進展し,多数のテフラ層につき,分布や給源,噴火の性質が追究されている。また後者はテフラ層の新旧に応じ,種々の方法(歴史,考古,層序,放射線を用いた年代決定法などの諸分野)で追究されている。これらの結果,最近,日本列島と周辺海底までをおおう広域テフラが過去10万年間に十数枚も見いだされ--例えば,鬼界カルデラのあかほや火山灰(6300年前),姶良(あいら)カルデラのAT火山灰(2万2000年前),阿蘇4火山灰(7万年前),洞爺火山灰(10万年前)など--,広域にわたる時間示標層として考古学や地学諸分野の研究をすすめるうえに,また火山学の分野から巨大噴火の性質をさぐるうえに大いに注目を集めている。
執筆者:町田 洋
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