改訂新版 世界大百科事典 「トゥユール」の意味・わかりやすい解説
トゥユール
tuyūl
14~20世紀初頭までイランでみられた土地制度。トユールtoyūlともよばれる。軍人,官僚に対して俸給の代りとして下賜された徴税権の一時的な付与を伴う土地,およびその保有のことをいう。セルジューク朝(1038-1194),イル・ハーン国(1258-1353)のイクター制の流れを引く。同様に徴税権を授与するソユールガールと比べると,世襲の権利が認められず,行政的なインムニテート(不輸不入)も弱かった。しかし,政府の権力が弱体化すると,トゥユールの保有者もソユールガールで認められている権利に自分の権利を近づけ,これを既成事実化することが,しばしば見られたから両者の違いは理念的なものであって,実際にはその境界は常に流動的であり,混同された。事実,サファビー朝(1501-1736)期を過ぎるとソユールガールの語は使われなくなり,もっぱらトゥユールの語が使われた。19世紀を通じてカージャール朝(1779-1925)は,有力な軍人,部族の族長層にトゥユールを下賜したが,軍役は以前のように義務化された。官僚に対する下賜で際だった特徴は,官職を退いたあとでも前に就いていた官職に付随していたトゥユールを返還せずに保有しつづけることを認められ,さらに相続も許されて事実上,世襲化したことである。裁判権を行使する保有者もあり,領主的な土地所有となんら変わることがなかった。しかし,19世紀後半に国有地の払い下げ等によって土地の私有権が法的に認められるようになると,商人はこれを買いあさって土地を集積し,軍人,官僚も資力ある者はこれにならったのでトゥユールの土地所有全体に占める比重はしだいに低くなり,イラン立憲革命最中の1908年,議会によって廃止された。
執筆者:坂本 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報