平安末期の物語。作者不明。「古(こ)とりかへばや」と、それを改作した「今(いま)とりかへばや」とがあり、前者は散逸して、女性の手になるらしい後者だけが伝わっている。さる権大納言(ごんだいなごん)の異腹の息子と娘とが主人公で、とくに娘が中心となって物語は展開する。兄妹のうち、兄のほうは女のよう、妹のほうは男のような性格だったので、父は2人を「とりかへばや」(取り替えっこしたい)と思ったというところから編名がついた。その後も両親はそれぞれ兄に女装、妹に男装をさせて育てるが、成人後そのために数奇な運命をたどることになる。しかしやがて、その因であった天狗(てんぐ)の祟(たた)りが解けて、2人は衣服を交換して自然な姿に戻り、兄は左大臣関白に、妹は尚侍(ないしのかみ)から中宮となって、めでたく幕となる。性の倒錯という物語の骨格に規制されて、同性愛、異性愛が交錯し、セクシュアルな局面が多出するが、しかし描写自体はさほど露骨ではなく、暗示的な王朝物語の節度を守っている。また肉親や家族愛も強調され、栄華立身の筋立てや、仏教的宿命観も強い。古本は現存本に比して、格段に怪奇や猟奇趣味が濃厚だったらしい。その特異性のため、一般女性読者に広く歓迎されることはなかったようで、平安最末期の『有明(ありあけ)のわかれ』などに多少の影響の跡がみられるほかは、後代に与えた影響はむしろ少ない。伝本としては、近世以降の写本のみ相当数伝わり、板本はない。
[今井源衛]
『鈴木弘道著『とりかへばや物語の研究 校注編・解題編』(1973・笠間書院)』▽『桑原博史訳注『とりかへばや物語』全4冊(講談社学術文庫)』▽『三谷栄一・今井源衛著『鑑賞日本古典文学12 堤中納言物語・とりかへばや物語』(1976・角川書店)』
平安末期の物語。作者不明。原作本は滅び,現存本は《無名草子》に《今とりかへばや》として見えるもの。ともに平安末期に成る。現存本4巻。大納言に異腹の2児がある。兄は生来女性的,妹は男性的なので,父は2人を〈とりかへばや〉と考え,兄に女装,妹に男装させて育て,兄は尚侍として出仕,妹は任官して侍従,中将,大将と昇進。その間に兄尚侍は女東宮に子を生ませ,妹大将は名のみの妻右大臣四君を,好色の宰相中将に犯され,四君は女子を生む。宰相中将はさらに妹大将をも犯し妊ませる。妹大将は宰相中将の宇治の邸に隠れて出産。おりから男姿に戻った兄尚侍に助けられて,宰相中将の目を逃れて帰京後,兄妹は入れ替わって正常な生活に入り,それぞれ栄えた,という筋。性倒錯が主材となっているが,目だつような露骨な描写はなく,倫理的な家族愛描写にも力を入れている。原作本は筋立てに小異があり,描写も露骨な節があったらしい。
執筆者:松尾 聰
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