とりかへばや物語(読み)トリカエバヤモノガタリ

デジタル大辞泉 「とりかへばや物語」の意味・読み・例文・類語

とりかえばやものがたり〔とりかへばやものがたり〕【とりかへばや物語】

平安末期の物語。3巻または4巻。現存本はいわゆる「古とりかえばや」の改作といわれる。作者未詳。権大納言の男君と女君は性質が男女逆なので、男君を女、女君を男として養育されるが、混乱を生じ、もとの姿に戻って幸福になる。

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精選版 日本国語大辞典 「とりかへばや物語」の意味・読み・例文・類語

とりかえばやものがたり とりかへばやものがたり【とりかへばや物語】

鎌倉初期(一二世紀後)成立の物語。三巻三冊または四巻四冊。作者未詳。現存本は平安末期成立の「とりかへばや」(古とりかへばや)の改作で、「今とりかへばや」という。大納言大将異腹の男女二子は美しく瓜二つであったが性質は男女逆で、父に「とりかえばや」と嘆息され、性を入れ替えて育った。そのために起こる様々の恋愛事件を描いたもので、着想が奇抜で官能的・猟奇的な部分もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「とりかへばや物語」の意味・わかりやすい解説

とりかへばや物語
とりかえばやものがたり

平安末期の物語。作者不明。「古(こ)とりかへばや」と、それを改作した「今(いま)とりかへばや」とがあり、前者は散逸して、女性の手になるらしい後者だけが伝わっている。さる権大納言(ごんだいなごん)の異腹の息子と娘とが主人公で、とくに娘が中心となって物語は展開する。兄妹のうち、兄のほうは女のよう、妹のほうは男のような性格だったので、父は2人を「とりかへばや」(取り替えっこしたい)と思ったというところから編名がついた。その後も両親はそれぞれ兄に女装、妹に男装をさせて育てるが、成人後そのために数奇な運命をたどることになる。しかしやがて、その因であった天狗(てんぐ)の祟(たた)りが解けて、2人は衣服を交換して自然な姿に戻り、兄は左大臣関白に、妹は尚侍(ないしのかみ)から中宮となって、めでたく幕となる。性の倒錯という物語の骨格に規制されて、同性愛、異性愛が交錯し、セクシュアル局面が多出するが、しかし描写自体はさほど露骨ではなく、暗示的な王朝物語の節度を守っている。また肉親や家族愛も強調され、栄華立身の筋立てや、仏教的宿命観も強い。古本は現存本に比して、格段に怪奇や猟奇趣味が濃厚だったらしい。その特異性のため、一般女性読者に広く歓迎されることはなかったようで、平安最末期の『有明(ありあけ)のわかれ』などに多少の影響の跡がみられるほかは、後代に与えた影響はむしろ少ない。伝本としては、近世以降の写本のみ相当数伝わり、板本はない。

[今井源衛]

『鈴木弘道著『とりかへばや物語の研究 校注編・解題編』(1973・笠間書院)』『桑原博史訳注『とりかへばや物語』全4冊(講談社学術文庫)』『三谷栄一・今井源衛著『鑑賞日本古典文学12 堤中納言物語・とりかへばや物語』(1976・角川書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「とりかへばや物語」の意味・わかりやすい解説

とりかへばや物語 (とりかえばやものがたり)

平安末期の物語。作者不明。原作本は滅び,現存本は《無名草子》に《今とりかへばや》として見えるもの。ともに平安末期に成る。現存本4巻。大納言に異腹の2児がある。兄は生来女性的,妹は男性的なので,父は2人を〈とりかへばや〉と考え,兄に女装,妹に男装させて育て,兄は尚侍として出仕,妹は任官して侍従,中将,大将と昇進。その間に兄尚侍は女東宮に子を生ませ,妹大将は名のみの妻右大臣四君を,好色の宰相中将に犯され,四君は女子を生む。宰相中将はさらに妹大将をも犯し妊ませる。妹大将は宰相中将の宇治の邸に隠れて出産。おりから男姿に戻った兄尚侍に助けられて,宰相中将の目を逃れて帰京後,兄妹は入れ替わって正常な生活に入り,それぞれ栄えた,という筋。性倒錯が主材となっているが,目だつような露骨な描写はなく,倫理的な家族愛描写にも力を入れている。原作本は筋立てに小異があり,描写も露骨な節があったらしい。
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百科事典マイペディア 「とりかへばや物語」の意味・わかりやすい解説

とりかへばや物語【とりかえばやものがたり】

平安後期の物語。作者不詳。《無名草子》などによれば《古とりかへばや》と《今とりかへばや》の2種があり,現存本は《今とりかへばや》。大納言の2人の子,顔は瓜二つだが,性格は兄は女性的,妹は男性的,そこで父親は〈とりかへばや〉,男を女に,女を男として育てることにした。これに始まり,女装と男装,性倒錯を中心とした悲喜劇を経て,やがて本来の性にもどり,兄妹ともに栄えるという筋。特異な構想の作品。
→関連項目在明の別れ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「とりかへばや物語」の意味・わかりやすい解説

とりかへばや物語
とりかへばやものがたり

平安時代後期の物語。4巻。作者,成立年未詳。平安時代成立の古本『とりかへばや』を改作したもので,それと区別して『今とりかへばや』ともいう。異母兄妹が性を取替えて育てられ,男君は尚侍 (ないしのかみ) として入内,女君は右大臣の四の君の婿になる。物語はこの行違いによって生じる異常な人間関係の諸相を描く。

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