翻訳|dolmen
巨石記念物の一種。ブルトン語でdolはテーブル,menは石を意味し,大きく扁平な1枚の天井石を数個の塊石で支えた形がテーブルのように見えることからこのように呼ばれた。新石器時代から鉄器時代初期に至るまでに行われた墓葬形制のうち,かなり普遍的なものの一つである。板石を立てたり切石を積んで側壁を築いたものは,ドルメンと呼ばないのが通例である。ただし,ドルメンをいくつかつないで内部の空間を広くし,前方に長い羨道や開口部を設ければ,ヨーロッパでパッセージグレーブpassage grave(羨道墓)とかギャラリーグレーブgallery grave(通廊墓)と呼ばれる巨石墓ないし石室墓となる。日本の横穴式石室もまた同様である。つまりドルメンとは巨石墓の原初形態ないし退化形式のいずれかで,系統上両者は一なるものである。フランス語では元来ドルメンの語は巨石墓全体を指すものであった。巨石墓の場合は円形や楕円形の墳丘をもつが,ドルメンには通常墳丘がない。しかしもともとドルメンに封土がなかったとも言いきれない。
ドルメンはヨーロッパの大西洋岸に色濃く分布し,特にフランスのブルターニュ地方に多い。これらは単独の場合もあるが,列石(アリニュマン)やストーン・サークルと組み合うこともあり,大部分は新石器時代に属する。東・北ヨーロッパにも似た形のものがあり,北アフリカ,インド,東南アジア,南アメリカなどにも分布する。カスピ海西岸のタリシュ地方やインドのデカン高原では,支石の一つに円孔をうがつことがあり,特色を示す。そのほか北アフリカのロクニア,ベトナムのスアンロク,コロンビアのサン・アグスティンのドルメンが有名である。これらは青銅器時代から初期鉄器時代にかけてのものである。
中国東北地方(遼寧・吉林省など)から朝鮮半島,北九州にかけての初期金属器文化にもドルメンは広く存在し,支石墓とか卓石墓と呼ばれている。朝鮮北部以北では典型的なテーブル状をなし,天井石の大きなものは長さ7mにも達する。これに対して,南朝鮮から北九州にかけてのものは地上に直接大きな塊石を据え,その下に小さな塊石を支石状に配したもので,テーブルより小さく足が短いため碁盤形の名がある。大石の下方には箱式石棺や甕棺などを埋めており,これもやはり墓葬の一形式なのである。
→巨石記念物
執筆者:山本 忠尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
巨石記念物の一種。ケルト語でdolは机、menは石を意味し、大きな天井石と、それを支える数個の石からなる。支石墓と訳されているように、そのほとんどが墓と考えられている。新石器時代から鉄器時代にかけて世界的に分布しており、形態もさまざまである。朝鮮では、3、4個の大石の上に1個の大きな天井石をのせる卓子式支石墓や、支石が小さく墓室を構成しない基盤形支石墓などが知られている。またヨーロッパの羨道(せんどう)墳や通廊墳、日本の横穴式石室をドルメンとする考え方もある。イギリスの考古学者ダニエルは、ドルメンということばが、原形が何かわからない崩壊の著しい巨石建造物に使われる場合、モンテリウスの分類した「1枚の天井石が2個以上の側石によって支えられる単純石室」(デス)を意味する場合、またすべての巨石建造物をドルメンとよぶ場合など、実に多様に用いられており、学術的用語としてはこれを用いるべきでないと提唱している。アジアでは、朝鮮のほか中国東北部やインド、ベトナムなどで調査が進み、南米のサン・アグステンなどもよく知られている。
[寺島孝一]
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先史時代の巨大な石造墳墓。ブルトンもしくはケルト語で「テーブル・ストーン」の意。巨石を組み合わせて机型とした構築物。数個の板石または大塊石を立てて方形の囲いをつくり,その上に一枚の天井石をのせて石室とし,内部に遺体を埋葬する。北海沿岸,地中海沿岸,黒海沿岸,インドのデカン高原,東南アジア(金石併用時代),中国東北部,朝鮮半島,日本の九州などに広く分布し,形態,種類ともに変化形が多い。
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出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…新石器時代から初期鉄器時代にかけて世界的に分布する巨石墳墓の一種。フランス北西部に数多く知られた,この種の墳墓に対して,ブルトン語で卓または机と石をそれぞれ意味する,ドルメンdolmenの訳語として一般に行われている。ドルメンの語義が示すように,ふつう4個ないし6個の支石(撑石)を立てて方形の墓室をつくり,その上に1枚の巨石を置いたものをいうが,時代や地域によって墓室の構造は多様である。…
…新石器時代から初期鉄器時代にかけて世界的に分布する巨石墳墓の一種。フランス北西部に数多く知られた,この種の墳墓に対して,ブルトン語で卓または机と石をそれぞれ意味する,ドルメンdolmenの訳語として一般に行われている。ドルメンの語義が示すように,ふつう4個ないし6個の支石(撑石)を立てて方形の墓室をつくり,その上に1枚の巨石を置いたものをいうが,時代や地域によって墓室の構造は多様である。…
…ヨーロッパ西部のものが名高いが,東アジア,インドほか世界各地に似たものがある。なお本来の墳丘を失って石室が露出した状況のものをヨーロッパでドルメンと呼んでいるのに対して,東アジア(日本では九州西北~北部の縄文~弥生時代)のドルメン(支石墓)は,もともと墳丘をもたず,巨石をもって標識とした点が違っている。墳丘をつくらず自然の丘を利用して大規模な横穴式墓室をつくることもある。…
※「ドルメン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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