人形浄瑠璃。時代物。5段。文耕堂,三好松洛,浅田可啓,竹田小出雲,千前軒(竹田出雲)による合作。1739年(元文4)4月大坂竹本座初演。〈ひらかな〉は仮名書きの意で,《源平盛衰記》を平俗にした意図を表す。源平の合戦中,義経の木曾義仲討伐から一ノ谷合戦までを背景に,樋口次郎の忠節と梶原源太・千鳥の恋愛とを焦点に脚色(源平合戦物)。角書に〈逆櫓松矢箙梅(さかろのまつえびらのうめ)〉とあるが,前者には樋口を,後者には源太をきかせ,本作の二つの眼目を暗示した。
(1)一段目 義経は義仲討伐のため,佐々木高綱,畠山重忠,和田義盛,梶原平三景時らと伊勢路を進み,射手明神に参拝した。景時は過って源氏の白旗を射て切腹しようとするが,高綱の取りなしで助かる。京都にいる義仲は,宇治川の敗戦を聞き死を決するが,巴御前とともに出陣する。腰元お筆は義仲の室山吹御前と嫡子駒若丸とを伴い,桂の里に落ちる。義仲は討たれ,巴は義盛に預けられる。(2)二段目 お筆の父鎌田隼人は山吹と駒若をかくまっている。梶原の臣番場忠太に襲われるが,猿を身代りに逃れる。鎌倉の梶原宅では,嫡子源太景季の誕生祝いを準備している。お筆の妹の腰元千鳥は源太とは好き合った仲だが,弟の平次景高が横恋慕している。宇治川の先陣争いにおくれた源太は送り返され,平次に辱められる。しかし源太は,父景時が高綱から受けた恩に報いるため勝ちを譲ったことを知る母延寿の計らいで,切腹の代りに勘当となり,千鳥とともに落ちる。(3)三段目 木曾路に向かう山吹主従は大津で忠太に襲われ,鎌田と山吹が死ぬ。駒若は相宿した船頭権四郎の孫の槌松と取り違えられて助かり,代りに槌松が殺される。お筆は山吹の遺骸を葬るため笹にのせて引く。後日権四郎は亡き婿の三回忌を営み,大津で孫を取り違えたことを嘆く。新しく入り婿した松右衛門は,家伝の逆櫓の技術を買われ,義経用船の船頭に取り立てられるが,お筆が現れると,義仲の臣樋口次郎兼光と名のり,復讐の計画を明らかにする。しかし計画は裏をかかれ,樋口は奮戦の末,駒若を助けるため重忠の縄にかかる。(4)四段目 源太は一ノ谷の合戦に加わる準備金調達のため,大物浦で米穀を徴発する。千鳥は梅ヶ枝と名を変え廓に勤めている。手水鉢を無間の鐘になぞらえて打つと,二階から三百両の金が舞う。母延寿の情だった。梶原一家を君父の敵とねらうお筆も和解し,源太は出陣する。(5)五段目 平家の軍兵を切り伏せた源太は,勘当を許される。忠太はお筆と千鳥に討たれる。樋口は義経に助命されるが,平次を討ち,自害する。
二段目〈源太勘当〉における源太の宇治川先陣物語,三段目〈笹引(ささびき)〉でのお筆の女武道,〈逆櫓〉の樋口の名のりと立回り,四段目の〈無間の鐘〉など,見せ場が多い。〈無間の鐘〉の型は,元祖瀬川菊之丞の舞台によったことが《倒冠雑誌》に記されている。初演の翌5月京の布袋屋梅之丞座で歌舞伎に移されてから,繰り返し上演される。源太,千鳥(梅ヶ枝),お筆,権四郎,樋口などには,名優による型がある。延寿も老母役としては大役の一つ。
執筆者:佐藤 彰
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浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節。時代物。五段。文耕堂(ぶんこうどう)・三好松洛(みよししょうらく)・浅田可啓・竹田小出雲(こいずも)・千前軒の合作。1739年(元文4)4月、大坂・竹本座初演。『源平盛衰記』を通俗にしたという意味の外題(げだい)で、木曽義仲(きそよしなか)の滅亡後から一ノ谷合戦までの義仲一族と梶原景時(かじわらかげとき)一家の動静を描く。
二段目(源太勘当)―源氏の本軍が木曽義仲を討った宇治川の合戦で、梶原景時の長男源太は佐々木高綱との先陣争いに敗れて帰還する。源太の恋人の腰元千鳥(ちどり)に横恋慕する弟平次は、母延寿(えんじゅ)の前でこれを暴いて辱める。源太は父景時が佐々木に受けた恩を返すため、わざと勝ちを譲ったのだが、延寿はやむをえず源太を勘当し、千鳥を供につけてやる。三段目(大津宿屋・笹引(ささびき)・松右衛門内(まつえもんうち)・逆櫓(さかろ)の松)―義仲の御台(みだい)山吹御前と若君駒若丸(こまわかまる)は、老臣鎌田隼人(はやと)とその娘腰元お筆に守られて落ち延びるが、大津の宿屋で追っ手がかかり、暗闇(くらやみ)のなかで、同宿の船頭権四郎(ごんしろう)の孫槌松(つちまつ)が駒若に間違えられて討たれ、山吹と隼人も死ぬ。権四郎の娘およしへ婿入りしていた船頭松右衛門とは、実は義仲の臣樋口次郎兼光(ひぐちのじろうかねみつ)で、舅(しゅうと)が孫と取り違えて駒若を連れ帰ったことから、偶然にも若君を守護することになる。お筆が訪れ、孫の死を知った権四郎は悲憤するが、樋口の真情込めた説得で納得する。樋口は逆櫓の漕法を覚え、義経(よしつね)一行を討とうと企て、露顕して大ぜいの討っ手に囲まれるが、権四郎と敵将畠山重忠(はたけやましげただ)の計らいにより、駒若を助けてもらって自分は縄にかかる。四段目(神崎揚屋(かんざきあげや))―お筆の妹である千鳥は、神崎の廓(くるわ)へ身売りして遊女梅ヶ枝となり、源太の出陣に必要な300両の調達に苦心するが、客になってようすをうかがっていた延寿の情けで、二階から金がまかれる。
初演の翌年には歌舞伎(かぶき)に移され、その後、二、四段目の源太・千鳥の話と、三段目の樋口・お筆の筋は別々に上演されるのが例になった。「源太勘当」は「勘当場」または「先陣問答」ともいい、源太が千鳥と平次を絡ませて先陣争いの模様を物語るところが見せ場。「笹引」は、山吹御前の死骸(しがい)を笹に乗せて引くお筆の哀調を帯びた演技が中心。もっとも有名な「松右衛門内」から「逆櫓の松」にかけては、樋口の名のり、大ぜいの船頭相手の立回りなど、見どころ多く、「逆櫓」の通称で知られる。「神崎揚屋」は、千鳥が金欲しさに、無間(むけん)の鐘になぞらえて手水鉢(ちょうずばち)をたたくところが眼目なので、俗に「無間の鐘」ともいう。
[松井俊諭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…作曲3世岸沢古式部。浄瑠璃《ひらかな盛衰記(せいすいき)》の〈神崎揚屋の段〉により趣向を得たもの。源氏の武将梶原源太を廓通いの美男子に仕立て,生田の森の合戦で箙(えびら)に梅花一枝をはさんで奮戦した物語から廓情緒に一変して梅ヶ枝との口説となる。…
…ほかに,三好松洛との合作として36年(元文1)5月の《敵討襤褸錦(かたきうちつづれのにしき)》,37年1月の《御所桜堀川夜討(ごしよざくらほりかわようち)》,38年1月の《行平磯馴松(ゆきひらそなれまつ)》がある。竹田出雲との合作には,38年8月《小栗判官車街道(おぐりはんがんくるまかいどう)》,39年4月の《ひらかな盛衰記》,40年7月の《将門冠合戦(まさかどかむりがつせん)》などがある。41年(寛保1)5月の《新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)》を,三好松洛,小川半平,竹田小出雲と合作した後は,文耕堂の署名入りの作品は消える。…
※「ひらかな盛衰記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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