ブルーナー(読み)ぶるーなー(その他表記)Jerome Seymour Bruner

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブルーナー」の意味・わかりやすい解説

ブルーナー
ぶるーなー
Jerome Seymour Bruner
(1915―2016)

アメリカを代表する発達心理学者、教育学者の一人。ニューヨークに生まれ、1941年ハーバード大学で博士号を取得。1952年ハーバード大学、1972年オックスフォード大学、1988年ニューヨーク大学、1991年同大学ロースクール教授などを歴任。人の行動を「刺激に対する反応」として定式化する行動主義を排し、積極的な認知活動を重視する認知主義を主張した(認知革命)。知覚、学習、言語習得ナラティブ(できごとや体験の自伝的な語り)などの幅広い研究を通じて、主体的な認知活動、社会や文化との相互交渉を重んじた発達・教育理論を展開した。『教育の過程』(1960)では学習者による能動的な意味構築を、『乳幼児の話しことば』(1983)では言語習得における相互交渉の役割を、『可能世界の心理』(1986)、『意味の復権』(1990)、『The Culture of Education』(1996。邦題『教育という文化』)では情報処理に偏った認知心理学を批判し、文化のなかでのナラティブ思考(主体的な物語性を重んじる思考)と自己の重要性を説いた。1990年代以降は、法と人間行動のかかわりにも関心を寄せている。現代心理学の発展に貢献したばかりでなく、ヘッド・スタート計画(低階層の子供など、ほうっておくと後れをとる可能性がある子供に早くから適切な補償教育を行う計画)を起案したり、大統領直属科学諮問委員会委員を務めるなど、学校教育改革政策決定にも尽力した。

[仲真紀子]

『ブルーナー著、岸本弘他訳『思考の研究』(1969・明治図書)』『ブルーナー著、佐藤三郎編訳『人間の教育』(1974・誠信書房)』『ブルーナー著、田浦武雄訳『教授理論の建設』改訳版(1977・黎明書房)』『ブルーナー著、佐藤三郎編訳『乳幼児の知性』(1978・誠信書房)』『ブルーナー著、鈴木祥蔵・佐藤三郎訳『教育の過程』(1986・岩波書店)』『ブルーナー著、寺田晃訳『乳幼児の話しことば コミュニケーションの学習』(1988・新曜社)』『ブルーナー著、田中一彦訳『心を探して――ブルーナー自伝』(1993・みすず書房)』『ブルーナー著、田中一彦訳『可能世界の心理』(1998・みすず書房)』『ブルーナー著、岡本夏木・仲渡一美・吉村啓子訳『意味の復権――フォークサイコロジーに向けて』(1999・ミネルヴァ書房)』『ブルーナー著、岡本夏木他訳『教育という文化』(2004・岩波書店)』『佐藤三郎著『教育新書16 ブルーナー「教育の過程」を読み直す』(1986・明治図書出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブルーナー」の意味・わかりやすい解説

ブルーナー
Bruner, Jerome S.

[生]1915.10.1. ニューヨーク,ニューヨーク
[没]2016.6.5. ニューヨーク,ニューヨーク
アメリカ合衆国の心理学者。フルネーム Jerome Seymour Bruner。知覚学習記憶,その他の認知の諸側面に関する理論を発展させ,アメリカの教育の仕組みに強く影響を及ぼし,新たな学問分野としての認知心理学を開拓した。1941年ハーバード大学で博士号を取得。第2次世界大戦中は心理戦争の専門家として陸軍に所属。1952年ハーバード大学教授に就任。1960年ジョージ・A.ミラーとともに同大学に認知研究センターを開設し,1972年までその所長を務めた。1972~80年オックスフォード大学教授。その後はニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチなどで教鞭をとった。人間の知覚が社会的・文化的状況の影響を受けることを示し(→社会的知覚),『思考の研究』A Study of Thinking(1956,ジャクリーン・J.グッドナウ,ジョージ・A.オースティンと共著)や,『教育の過程』The Process of Education(1960)のなかで,教育におけるその理論の実践を提示した。学校での勉強は,生徒の発達段階に合わせた適度な負荷で,かつ教師と生徒のかかわり合いのなかで供されるべきと主張した。また,同じ学習題材を発達に応じて反復させ,理解を深化させるという螺旋型カリキュラムを提唱し,これは 1960~70年代にアメリカで広く用いられた。1990年頃からはナラティブ(語り)の思考の概念について考究した。ほかの著書に『可能世界の心理』Actual Minds, Possible Worlds(1986),『教育という文化』The Culture of Education(1996)などがある。(→概念達成ニュールック心理学発見学習

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