日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホタルイカ」の意味・わかりやすい解説
ホタルイカ
ほたるいか / 蛍烏賊
firefly squid
[学] Watasenia scintillans
軟体動物門頭足綱ホタルイカモドキ科のイカ。発光性の種で、オホーツク海から日本海、および熊野灘(なだ)以北の水深100~600メートルぐらいの中層にすむ。3~5月ごろの産卵期には富山湾に大集群がみられ、漁獲される。外套(がいとう)長70ミリメートル、外套幅20ミリメートルぐらいになり、雄は雌よりやや小形である。腕は外套長の半分ぐらいの長さで細い。触腕も細く、吸盤のほかに2本の鉤(かぎ)があるのが特徴である。体表には腹面を中心として発光器が多数あり、外套膜の上だけでも500から600に達する。そのほか目の腹面や第4腕の先端にも特殊な発光器をもつ。前述のように富山湾以外の海域にも分布するが、富山湾の場合は、急深の特殊な地形によって生じる湧昇流(ゆうしょうりゅう)によって産卵集群が波打ち際まで押し上げられるものと思われ、このような現象は小規模ながら魚津(うおづ)や相模(さがみ)湾でもおこる。発光は種どうしの信号、威嚇のみならず、薄明るい背景に溶け込むカムフラージュの機能もあると思われる。富山湾では瓢(ひさご)網(定置網の一種)で漁獲される。天然では底魚や海獣類の重要な餌料(じりょう)となっている。
[奥谷喬司]
料理
漁獲地やその周辺では生きたものが出回るが、多くはゆでて出荷される。新鮮なものは刺身によい。現地では、足と軟骨を除いたものを刺身としてしょうがじょうゆで食べるが、これは別名「竜宮そうめん」ともよばれ、富山県滑川(なめりかわ)地方の名物になっている。さっと熱湯でゆでたものは二杯酢、三杯酢にしたり、また、含め煮、佃煮(つくだに)にもよい。料理には、ゆでたら目玉をかならず除いておく。ホタルイカの酢みそ和え(あえ)は富山県の郷土料理として知られている。ホタルイカを熱湯で手早くゆでて目玉を除き、冷ましてから酢みそで和える。ゆでたワケギやネギを加えることもある。
『稲村修著『ほたるいかのはなし』(1994・魚津市教育委員会・魚津水族館)』▽『甲南大学総合研究所編・刊『ホタルイカの中深海光環境への適応』(1997)』▽『奥谷喬司編著『ホタルイカの素顔』(2000・東海大学出版会)』