日本大百科全書(ニッポニカ) 「マボヤ」の意味・わかりやすい解説
マボヤ
まぼや / 真海鞘
[学] Halocynthia roretzi
原索動物門尾索(びさく)綱壁性目ピウラ科の冷水系単体ボヤ。ずんぐりした体形で体長15センチメートルに達する。体表は乳房状突起で覆われ、体の後端の根状突起で岩盤側面などに付着する。被嚢(ひのう)は薄いが堅くじょうぶで、生時は赤橙(せきとう)色ないし暗赤色。瀬戸内海ではまれに白色やピンク色の個体もある。触手は樹状に分岐し、鰓嚢(さいのう)のひだは各側18に達する。背正中に舌状突起列がある。近年、陸奥(むつ)湾において、配偶子放出時期と時刻が異なる三型が識別された。11月の午前に放出するA型、10月末から11月の夕方のB型および4月の昼のC型である。これらの三型が混生する地点もある。なお、放出時期は海水温と密接に関連するのでかなりの変動が推測され、また放出が始まると約1か月続くので、三型の間で時期が重なることもありうるが、放出時刻はほとんど不変であることがわかっている。したがって、三型は放出時刻が違うために、互いの配偶子が混じり合わないことが推定される。しかし、実験的には三型のすべての組合せで、受精から幼体形成まで正常に進行する。外部形態(突起の数や形)にもわずかの差がみられるものの、その差はかならずしもつねに明瞭(めいりょう)ではない。内部形態では三型はまったく区別できない。これらのことを考え合わせると、マボヤのこれら三型は、遠い将来、別種になっていくその分岐の初期の過程を示すものと想像することも不可能ではない。A型は北海道日本海岸で、そしてC型は三陸沿岸、青森県日本海岸、能登(のと)半島および瀬戸内海からも確認されているが、B型はいまのところ陸奥湾以外にはみつかっていない。
日本では、これらのほかに、どの型に属するかは不明であるが、相模(さがみ)湾以北の太平洋岸や日本海各地の潮下帯から約60メートルまでの深さから記録されており、さらに朝鮮半島沿岸やウラジオストク周辺からも知られる。囲鰓腔(いさいこう)にクダヤガラが産卵することがある。三陸沿岸では食用として養殖されており、韓国でも食用にされている。
[西川輝昭]