マロ(読み)まろ(英語表記)Hector-Henri Malot

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マロ」の意味・わかりやすい解説

マロ(Clément Marot)
まろ
Clément Marot
(1496―1544)

フランス詩人。大押韻派詩人ジャン・マロJean Marot(1450?―1526)の子として南仏カオールに生まれ、早くから詩作に親しむ。1518年王姉マルグリット・ド・ナバールに仕えて宮廷詩人となる。信仰生活の純化を説く福音(ふくいん)主義に共鳴したうえに、生来の奔放不羈(ふき)が災いして二度の投獄を体験、これもまた当意即妙の傑作を生む機縁となり、折々の詩を集めた処女詩集『クレマンの若き日』L'Adolescence Clémentine(1532)により声価が定まった。34年末の福音主義者・宗教改革派大弾圧を逃れて一時イタリアのフェッラーラ亡命、2年後帰国を許されて宮廷に復帰、38年最初の総合作品集を出版して新詩派、いわゆるマロ派の中心となった。しかし42年末スイスのジュネーブへ亡命を余儀なくされ、同地で旧約『詩篇(しへん)』の仏訳を刊行(1543)、カルバン派の愛唱するところとなる。しかし生の快楽と自由を愛する彼は同地の堅苦しい空気になじめず、北イタリアのトリノに逃れて客死した。エラスムス『対話集』韻文訳を含め700を超えるその作品は、伝統的ロンドーから新定型詩ソネット(14行詩)に及び、とくに書簡詩(エピートル)、寸鉄詩(エピグラム)、悲歌(エレジー)に個性的技巧と自由軽妙な詩境の完成をみることができる。

二宮 敬]


マロ(Hector-Henri Malot)
まろ
Hector-Henri Malot
(1830―1907)

フランスの小説家、批評家。初め法律家を目ざしたが、のち文学に転じ、『愛の犠牲者』Les Victimes d'amour(1859~66)、『ロマン・カルブリス』など数多くの作品を発表した。なかでも、子供が苦しいさすらいの旅を通じて優れた人格をつくりあげていく『家なき子』(1878)、『家なき娘』(1893)は波瀾(はらん)に富む筋、人物の魅力、愛の精神などで各国語に訳されて多くの人々を感動させた。

[神宮輝夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マロ」の意味・わかりやすい解説

マロ
Marot, Clément

[生]1496. ペリゴール,カオール
[没]1544.9.12. トリノ
フランスの詩人。大押韻派の詩人ジャン・マロの息子。国王フランソア1世の姉マルグリット・ダングレームの庇護を受けて詩作した。福音主義に共鳴し,教会当局,官憲から追及を受け,再三投獄され,2度亡命を余儀なくされ,イタリアで客死した。書簡詩,エピグラム,エレジーなどの伝統的な詩型を用い,身辺の題材,時事的な問題を扱い,優雅で清新な感覚を表現。またイタリアからソネットのような新しい形式を導入し,フランス詩の発展に貢献した。代表作『キューピッドの神殿』 Le Temple de Cupido (1515) ,『地獄』L'Enfer (26執筆,39刊) ,『クレマンの青春』L'Adolescence clémentine (32) 。その他『薔薇物語』 (29) とビヨンの詩集 (32) の編纂,聖書『詩篇』の翻訳"Les Psaumes" (41~42) もある。

マロ
Marot, Jean

[生]1619頃.パリ
[没]1679.12.15. パリ
フランスの建築家,建築図版家。パリの工芸・建築家一族の一人で,オテル・ド・プッソール,オテル・ド・モルトマール,オテル・ド・モンソーなどの邸館を設計,F.マンサール,L.ル・ボーら同時代の建築家の強い影響をみせている。彼の活動では,建築図版の製作と出版が重要で『ル・プティ・マロ』『ル・グラン・マロ』を描いたほか,多数の装飾図版を制作した。息子ダニエル (1661~1752) も建築家,建築図版家で,オランダで活躍。ハーグ市庁舎 (33~37) ,王立図書館 (34~37) を手がけた。

マロ
Marot, Daniel

[生]1661. パリ
[没]1752.6.4. ハーグ
オランダで活躍したフランスの建築家,建築図版作家,家具デザイナー。建築家 J.マロの子で,パリで父に学んだ。新教徒であったため,1685年のナントの勅令の廃止に際し,オランダに逃れ,オランニェ公ウィレム (のちのイングランド王ウィリアム3世) に伴われイギリスに渡り,95~96年ロンドンに滞在,ハンプトン・コート・パレスの庭園や室内装飾にたずさわった。その後オランダに戻り,ハーグやアムステルダムで活動。作品は,ハーグの議事堂謁見室 (1696~98) ,市庁舎 (1733~37) ,宮殿ハイス・テン・ボスの増築 (34~37) ,また王立図書館 (34~37) など。

マロ
Malot, Hector Henri

[生]1830.5.20. セーヌマリティム,ラブイユ
[没]1907.7.17. フォントネースーボア
フランスの小説家,評論家。文芸評論家として出発したが,のち小説に転じ,ヒューマニズムの立場から理想主義的傾向の作品を数多く発表した。主著『愛の犠牲者』 Les Victimes d'amour (1859~66) ,『ロマン・カルブリス』 Romain Kalbris (69) 。とりわけ『家なき子』 Sans famille (78) は児童文学の傑作として世界的に有名。

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