フランスの哲学者。ベルジュラックの生まれ。19世紀フランス形而上(けいじじょう)学の始祖。その多彩な政治家的経歴にもかかわらず、彼は繊細かつ内省的であり、その哲学はコンディヤックの流れをくみ、カバニス、デスチュット・ド・トラシ、アンペールらの観念学派に近い。
出発点として、内的な直接的知覚の不可疑的性格を置き、これによって、われわれの「われ」は、まったく自由な意志の、唯一にして分解できない形態において把握されると考える。この「われ」は、デカルトの「われ」が身体を捨象した「われ」であったのに対し、身体と精神との統一としての「意志」であり、意志し働くことが「われ」の根源的な存在証明であるとし、「われ思う、故にわれ在り」cogito ergo sumと唱えたデカルトに対して、「われ意志す、ゆえにわれあり」volo ergo sumと主張した。晩年は、生を動物的生、人間的生、霊的生(人間と神との合一)の3段階に分け、マルブランシュ的な神秘的形而上学を唱えた。著書に『思考能力に及ぼす習慣の影響』(1802)、『心理学の基礎』(1812)、『新人間論』(1823~1824)などがある。
[足立和浩 2015年6月17日]
フランスの哲学者。本名Marie François Pierre Gontier de Biran。ドルドーニュ県行政官(1795-97),五百人会議議員(1797),立法議会議員(1812-14,16-24)を歴任。彼は意識の事実の内面的知覚を方法とする立場から出発する。まず,コンディヤックの感覚論をカバニスやデステュット・ド・トラシーの観念学の方向に修正し,習慣が能動的印象(知覚)をたすけて受動的印象(狭義の感覚)の束縛から解放するときに,思考は真の発達をとげると主張した(《思考能力に及ぼす習慣の影響》1802)。ついでこの考えを発展させ,人は動的,自発的努力によって受動的な感受性に打ち勝つべきであると力説した(《思考の分解》1805,《心理学基礎論》1812)。最後に彼は,パスカルの三つの秩序に対抗する三つの生(動物的生,人間的生,霊的生)の区別を説き,神への没入(実践的には犠牲と愛の生活)の重要性を教えた(《日記》1815-24,《人間学新論》1823-24)。
執筆者:中川 久定
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…カントにおける実践の主体としての理性の概念,フィヒテにおける根源的活動性としての自我の概念,ヘーゲルにおけるおのれを外化し客観化しつつ生成してゆく精神の概念などにそれが見られよう。フランスにおいても,意識を努力と見るメーヌ・ド・ビラン,精神を目的志向的な欲求や働きと見るラベソン・モリアン,意識を純粋持続として,純粋記憶として,さらには〈生の躍動(エラン・ビタール)〉の展開のなかでとらえようとするベルグソンらの唯心論の伝統があるが,ここにも同じような傾向が認められる。当然のことながら,こうした展開のなかで精神は単なる知的な能力としてではなく,むしろ意欲・意志としてとらえられるようになる。…
※「メーヌドビラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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