モルシ

百科事典マイペディア 「モルシ」の意味・わかりやすい解説

モルシ

エジプトの政治家,第5代大統領(2012年―2013年)。ムルシもしくはムルシーとも表記される。エジプト,シャルキーヤ県に生まれる。1975年カイロ大学工学部卒業,1982年南カリフォルニア大学で学位取得,1982年から1985年までカリフォルニア州立大学ノースリッジ校で助教授として勤務,1985年帰国し,ザガジグ大学教授。2000年人民議会選挙に無所属で当選。2005年までムスリム同胞団議員団長を務める。2011年,〈アラブの春〉をきっかけに生じた革命的な状況で,ムスリム同胞団母胎に成立した自由と公正党の党首に選出され,2012年5月の大統領選に立候補。第1回目投票で1位となり,決選投票で,シャフィーク(元首相)を破って当選した。モルシ大統領は,ムバーラク退陣以降の国内混乱を収拾し軍最高評議会からの民政移管と,イスラム勢力と世俗勢力のバランスを必須とするエジプトの民主化を前進させる改革に着手,軍が制定した暫定憲法を破棄し軍幹部を解任,大統領権限を強化した新たな暫定憲法を制定した。11月にはさらなる権限強化となる新条項を発表,これに対して反大統領派が各地で抗議活動を展開したため撤回を余儀なくされたが,2013年3月,大統領任期の制限や立候補資格の拡大などを盛り込んだ憲法改正案の国民投票で賛成77%(投票率41%)を獲得。8月までに大統領選と議会選が実現されることになり,完全な民政移管のレールが敷かれた。就任時と異なり,国際社会ではモルシが予想を上回るリーダーシップを発揮しているとの評価が出始めていた。しかし,2013年6月30日のモルシ大統領就任1周年を機に,全国各地で大規模な反ムスリム同胞団の民衆デモが発生したのに応じ,国軍が介入して事態は急転。軍は7月3日クーデタでモルシ大統領を解任,〈アラブの春〉に始まるエジプトの民主革命は,選挙によって選出されたモルシ大統領が軍のクーデタによって解任される,というあっけない幕切れとなった。モルシ大統領は軍に拘束され,〈殺人扇動罪〉で逮捕された。2013年11月モルシは法廷で〈自分は現職の大統領であり,クーデタは民意への裏切り,裁判に正統性はない〉と主張。軍事政権は2013年12月ムスリム同胞団をテロ組織に指定,正式に非合法化し,徹底弾圧を開始した。ムスリム同胞団の一部はイスラム過激派組織に合流したとみられる。2014年5月に実施された大統領選挙結果,シーシ前国防相が当選,6月に就任した。モルシの公判は延期されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モルシ」の意味・わかりやすい解説

モルシ
Morsi, Mohammed

[生]1951.8.20. シャルキーヤ
[没]2019.6.17. カイロ
エジプトの政治家。大統領(在任 2012~13)。フルネーム Muḥammad Muḥammad Mursī `Issā al-`Ayyāṭ。カイロ大学で工学を学び,1975年に学士号,1978年に工学冶金学の修士号を取得。その後アメリカ合衆国に渡り,1982年に南カリフォルニア大学で工学の修士号を取得した。1985年までカリフォルニア州立大学ノースリッジ校で工学の教鞭をとる。その間,アメリカ航空宇宙局 NASAスペースシャトル計画のエンジン改良にも取り組んだ。1985年エジプトに帰国,2010年までザガージーク大学の工学教授を務めた。帰国後は政治的活動を活発に行ない,イスラム教の国際的な宗教・政治組織であるムスリム同胞団一員となった。2000年に人民議会議員に当選。2012年4月にはムスリム同胞団による政党,自由公正党から大統領選挙に立候補。決選投票の末勝利を収め,同 2012年6月30日,1952年の自由将校団によるクーデター(→エジプト革命)以来ほぼ 60年間続いた軍人主導の権威主義体制が崩壊したあと(→アラブの春),初となる大統領に就任した。大統領として最初の外交上の成果は,2012年11月にイスラエルイスラム原理主義組織のハマスを仲介して 1週間にわたる戦闘を終結させたことだった。内政面では同 2012年11月30日,憲法起草委員会で新憲法案を採決させた。しかし 2013年7月3日,経済政策の不振や治安情勢の悪化などを理由に,アブドルファッターハ・シシ率いる軍部によるクーデターで大統領権限を剥奪され,エジプトで初めて誕生した民主的政権はわずか 1年間で幕を下ろすこととなった。2015年4月,懲役 20年を宣告され,その 1ヵ月後には死刑を宣告された。さらに同 2015年6月,エジプト国内でのテロ活動を外国の過激派勢力と共謀したとの理由で終身刑を言い渡された。2019年,再審裁判の出廷中に倒れて死去。

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