ヤシン(英語表記)Sheikh Ahmed Yassin

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤシン」の意味・わかりやすい解説

ヤシン
Sheikh Ahmed Yassin

[生]1930年代半ば?. パレスチナ,トール
[没]2004.3.22. イスラエル,ガザ
パレスチナイスラム主義指導者。パレスチナのイスラム原理主義武闘派ハマスを創設し,その精神的支柱となった。当時エジプト領だったガザ地区のパレスチナ難民キャンプで育つ。少年時代に運動中の事故により脊髄を損傷,手足が不自由になった。青年期にムスリム同胞団に加入すると,やがてガザ支部の幹部となり,ヨルダン川西岸支部(→ヨルダン川西岸)へも影響力を拡大した。その後,社会福祉活動を目的とする組織を設立。イスラエルは当初,宗教色の強いこの団体をパレスチナ解放機構 PLOより穏健とみなしていた。だが 1987年のインティファーダ民衆蜂起)を契機として,ヤシンはハマス結成に協力。ハマスは,イスラエルおよびイスラエルに協力的なパレスチナ人を標的とした,自爆テロなどのテロ攻撃を実行した。1989年に投獄されたが,1997年に捕虜交換によって釈放された。2000年に第2次インティファーダが勃発すると,ヤシンの名声はいっそう高まったが,2004年にイスラエル軍の攻撃により暗殺された。

ヤシン
Jassin, H. B.

[生]1917.7.31. 北スラウェシ,ゴロンタロ
インドネシアの文学評論家。本名 Hans Bague Jassin。 1940年代から終始一貫して主流的な文学雑誌の編集部にあり,多くの新人発掘に力のあった文壇後見人ともいうべき存在。インドネシア文学各期の作品集の編纂,出版がある。 53年からインドネシア大学で近代インドネシア文学を講じ,若い批評家を育成した。 63年,当時の政治第一主義に反対した「文化宣言」の発起人の一人。 76年,彼がインドネシア文学研究家として独力で収集してきたコレクションをもとにヤシン文学資料館が開設された。主著『近代インドネシア文学批評評論集』 Kesusastraan Indonesia Modern Dalam Kritik Dan Esei (4巻,1953~68) 。

ヤシン
Yāsīn, `Abd al-Salām

[生]1928.
モロッコの宗教指導者。かつては学校視察官の職にあり,英語とフランス語が堪能。1960年代にイスラムの神秘主義哲学スーフィズムを実践し始めた。1970年代に入るとイスラムを政治的に解釈する傾向を強め,エジプトのイスラム主義者であるハサン・アル・バンナとサイード・クトゥブの著作から影響を受けた。モロッコ国王にイスラム国家樹立を勧める長文の公開書簡を送ったのち,1974~77年に精神病院に収容された。終始一貫してイスラム国家の樹立を自身の研究テーマとした。1986年に創立した「正義と慈善運動」はモロッコにおける反体制イスラム主義勢力として台頭。1989~2000年,自宅軟禁された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤシン」の意味・わかりやすい解説

ヤシン
やしん
Hans Bague Jassin
(1917―2000)

インドネシアの文芸評論家。北スラウェシのゴロンタロ出身。文芸誌『プジャンガ・バル』『キサー』『サストラ』などの編集者を務める。1953年からインドネシア大学文学部講師。インドネシア文学の「法王」「後見人」と称される彼に発掘された若い詩人・作家は数多く、その親身な育て方にも定評があった。1976年ジャカルタ文化センター内に設立されたヤシン文学資料館は、彼の第二次世界大戦前からのインドネシア文学に関する膨大な記録・資料を収めたもので、内外の研究者にとってきわめて貴重である。著書は35冊以上を数え、代表的な評論に『ハイリル・アンワル論』(1956)、『現代インドネシア文学評論集』全4巻(1953~67)がある。翻訳にはオランダの小説家ムルタテューリの『マックス・ハーフェラール』がある。評論「66年世代――一つの世代の勃興(ぼっこう)」が邦訳され『現代インドネシア文学への招待』(1993・めこん)に収録されている。

[佐々木信子]

『アイプ・ロシディ編、松尾大・柴田紀男訳『現代インドネシア文学への招待』(1993・めこん)』

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