略称UQ.ウビキノン,補酵素Qともいう.生体酸化還元反応に関与する電子伝達物質の一つ.S. Moore(ムーア)ら(1940年)は,シロネズミ肝脂質中に272 nm(シクロヘキサン)に吸収極大を有する物質の存在を認め,R.A. Mortonら(1955年)が確認した.二つのCH3O基を2,3位に有するベンゾキノン誘導体で,生物界に普遍的に(ubiquitous)分布していることからubiquinoneと命名した.一方,F.L. Craneら(1957年)は,ウシ心筋ミトコンドリアの脂質から275 nm に吸収極大を有するキノンを分離し,補酵素的作用を有するとして補酵素Qと命名したが,これはUQと同一物である.イソプレン残基数nは高等動物では10,下等生物では6~9,少量ながら微生物菌体中に1~5も存在する.炭素数の多いものは黄橙色の結晶,少ないものは油状である.有機溶媒に溶け,水に不溶.酸に対して安定であるが,アルカリ性ではきわめて不安定で,270 nm の極大が消失し,紫色を呈し,850 nm に極大が現れる.また,熱には安定であるが,光には敏感である.UQの生理的役割としては,ミトコンドリアの電子伝達系においてフラボプロテインとシトクロム系との間に存在し,水素の授受を行っている.また,細胞膜のリポプロテイン複合体中に存在し,過酸化物の毒性を抗酸化剤として中和するはたらきもあると考えられる.コエンザイム Q10は健康補助食品として市販されている.[CAS 1339-63-5]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
広く生物界に存在する化学物質で、生体内の酸化還元反応に関与する電子伝達物質の一つである。補酵素Qともよばれる。物質的にはベンゾキノンの誘導体で、側鎖のイソプレン単位の数(n)は生物の種類によって異なる。ヒトやウシではn=10であり、ネズミはn=9で、下等生物ではn=6~9となっている。いずれも水に不溶、脂溶性である。ミトコンドリア内膜に局在する。電子伝達複合体ⅠおよびⅡから還元力を複合体Ⅲに運ぶ役割を果たす。酸化型をQで、還元型をQH2で表す。電子伝達系の複合体Ⅰ(NADHデヒドロゲナーゼ。正式名はNADH-ユビキノンオキシドレダクターゼ)では、NADHに由来する2電子分の還元力を受け取りQH2となる。複合体Ⅱ(コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体。正式名はコハク酸-ユビキノンオキシドレダクターゼ)では、コハク酸に由来する2電子分の還元力を受け取りQH2となる。QH2はミトコンドリア内膜上を拡散して、複合体Ⅲに2電子分の還元力を渡す。この還元力は次の電子伝達体であるチトクロムcに渡される。酸化還元電位は25℃、pH7.4で約0.10ボルトである。ユビキノンは動物体内でも合成され、ベンゾキノン部はフェニルアラニン、イソプレン部はアセチル補酵素Aから合成される。
[笠井献一]
「補酵素Q」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ヒドロキノンはまた容易にキノンに酸化され,この可逆的な酸化還元系(化学式)は,生化学的にも工業的にも重要な役割を果たしている。たとえば,ユビキノン(補酵素Q)やプラストキノンは,呼吸代謝や光合成における電子伝達系として働いている。また染料工業においては,キノンの還元と再酸化の現象を建染染料による染色の基礎として用いている。…
…動物にとって重要なテルペンとして脂溶性ビタミンA,E,Kがある。さらにユビキノンubiquinoneまたはコエンザイムQ(CoQ)と呼ばれる一連の化合物はキノン環と長いイソプレン側鎖からなり,ミトコンドリアに存在して,電子伝達系の構成成分となっている。ポリプレノールは末端に一級アルコール基をもつ誘導体で,その一つドリコールdolicholはリン酸エステルとして細胞壁や糖タンパク質の生合成過程で重要な役割を担っている。…
… なおグリコーゲンホスホリラーゼに結合しているピリドキサルリン酸は,補酵素としての役割が上記とまったく異なり,リン酸基が基質としてのグリコーゲン分子の分解に関与すると理解されている。(7)その他 テトラピロールに鉄が配位したポルフィリンの誘導体としてのヘムは各種酸化還元酵素の補酵素として,またユビキノンubiquinone,すなわち補酵素Q(CoQと略記)も電子伝達系で重要。テトラヒドロ葉酸はホルミル基などのC1ユニットの転移に,ビタミンB12としてのコバミド補酵素cobamide coenzymeはH,Cその他の分子内転移をめぐる脂質,核酸代謝に(欠乏症としては貧血が有名),ATPはリン酸基転移に,S‐アデノシルメチオニンはメチル基転移にというぐあいに,多くの補酵素が生体反応で重要な役割をになっている。…
※「ユビキノン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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