荷電粒子を原子核にぶつけた際に両者の間に働く電気的な力(クーロン力)だけによっておこる弾性散乱をいう。E・ラザフォードの示唆によって、1909年ガイガーとマースデンErnest Marsden(1889―1970)が、放射性物質のラジウムから放出されるα(アルファ)線を、薄い金箔(きんぱく)に当てて、金の原子によってα粒子がどんな方向にどんな割合で散乱されるか調べた。この実験によると、大半はわずかの角度しか曲げられないが、入射方向から測って90度以上も曲げられて出てくるα粒子が15度曲げられる場合の0.1%程度、すなわち少なからずあることがわかった。当時、原子の構造に関して、二つのおもな描像が対立していた。すなわち、正電荷が原子全体に広がっており、電子はスイカの種のように埋まっているとするトムソンの考えと、正電荷は原子の中心に集中しており、電子は土星の輪のように遠くを回っているとする長岡半太郎らの考えが提唱されていた。ところが実験でみいだされた大角度散乱は、α粒子が強い力で跳ね返されることを示しており、これは、正電荷のみが原子の中心に小さく集中しているとすると説明できる。E・ラザフォードはこのような考えから、電気素量のZ倍(Zはある整数)の電荷が中心核の一点に集中して存在するとき、そのクーロン力によって他の荷電粒子がどの角度にどれだけの割合で散乱されるかを理論的に計算し、散乱公式を導いた。この公式は前記の実験をよく説明し、長岡らの模型に軍配をあげただけでなく、原子の中心に位置する原子核の大きさは原子自身の5000分の1ほどの微小なものであることを明らかにした。さらに、この散乱公式は、原子核の電荷の大きさZ、すなわち陽子の数を決定するのにも役だった。ラザフォードの散乱公式はニュートンの古典力学を用いて導かれたが、量子力学を用いてもまったく同じ結果が得られる。
[坂東弘治・元場俊雄]
電荷をもつ点状の粒子が,もう一つの荷電点状粒子の近くを通ったときに,電気力によりその道筋を曲げられる現象。その名称は,この現象を通してE.ラザフォードが原子に陽電気をもった芯(原子核)のあることを発見した事実にちなむ。1909年,H.ガイガーとE.マースデンはラジウムの放射能で飛び出てくるα粒子を種々の金属板(鉛,金,鉄など8種)に当てる実験をして,一部のα粒子が後ろにはね返されてくることを発見した。その含意をさぐったラザフォードは11年に,原子の中心には半径が3×10⁻12cm以下で陽電気をもつ芯があると結論し,その陽電気の量は当の金属の原子量の半分と見積ることができた。二つの点電荷が及ぼし合う力は相互の距離の2乗に反比例する。この力により粒子の道筋が角度にしてθだけ曲げられる確率はsin4(θ/2)に反比例し,また粒子の運動エネルギーの2乗にも反比例,電荷の積の2乗に比例する。このことを表すのがラザフォードの散乱公式であり,非相対論的力学で導出されるが,量子力学の結果も同じである。これに代わる相対論的量子力学の式をモットの公式とよぶ。
執筆者:江沢 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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