相対論的量子力学(読み)ソウタイロンテキリョウシリキガク(その他表記)relativistic quantum mechanics

デジタル大辞泉 「相対論的量子力学」の意味・読み・例文・類語

そうたいろんてき‐りょうしりきがく〔サウタイロンテキリヤウシリキガク〕【相対論的量子力学】

特殊相対性理論を満たすよう、ローレンツ変換に対して不変な量子力学粒子スピンが零の場合はクライン‐ゴルドン方程式として、またスピン1/2の電子の場合はディラックの方程式として定式化された。広義には場の量子論をさす。

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改訂新版 世界大百科事典 「相対論的量子力学」の意味・わかりやすい解説

相対論的量子力学 (そうたいろんてきりょうしりきがく)
relativistic quantum mechanics

相対性理論相対論)の要請を満たすように拡張された量子力学。量子力学の基礎方程式であるシュレーディンガー方程式は,古典物理のニュートン力学に対応するものであり,相対理論の基礎となっている相対性原理を満たしていない。したがって速度が光速度に比べてはるかに小さいような粒子系に対してしか用いることができない。スピン1/2の電子に対する相対論的な波動方程式は,1928年P.ディラックによって与えられた。彼は,シュレーディンガー方程式のように時間について1階の微分方程式であり,かつ相対論の公理に従うもの,すなわちローレンツ変換に対して不変の形式をもつものを求め,ディラック方程式と呼ばれる波動方程式を得た。波動関数の絶対値の2乗が電子の存在確率を与えるという確率的解釈,その他の量子力学の形式はそのまま引き継がれている。狭い意味の相対論的量子力学とはディラック方程式のことを指す。多体系に対しては,相対論における空間と時間の同等性を保つため,ディラックは多時間理論を考えた。すなち各粒子の位置xnに対して時間tnがあり,N個の粒子系の波動関数xntnn=1,……,N)の関数である。その絶対値の2乗は,時刻t1に粒子1が位置x1にあり,時刻t2に粒子2が位置x2にあり,……という存在確率を与える。ディラックの理論は電子のスピンに伴う磁気モーメントを説明し,水素原子微細構造をみごとに説明したが,同時に負のエネルギーの状態の存在という困難を引き起こした。この困難を解決するためには真空というものの考え方を改めねばならず(空孔理論),場の理論的考察を必要とする。W.パウリは,場の理論の立場からすれば相対論的な粒子の量子力学はディラックのものが一義的ではないと主張し,スピンが0の粒子の形式を示した。一般に任意のスピンの粒子に対する理論を書くことができる。

 広い意味では相対論的量子力学は相対論的場の量子論と同義となる。この理論では空間の各点に対応する時刻が必要であり,超多時間理論となる。すなわち,ある時刻での事象を問題にするのでなく,四次元時空中の三次元超曲面上での波動関数を考えるのである。相対論的であるためには場の相互作用は点状でなければならず,その量子論は必然的に発散の困難を伴う。その解決法はまだ確立していない。相対性原理と量子力学とを融合させる理論は一部成功した面はあるが,まだ完成していない。
場の量子論 →量子力学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「相対論的量子力学」の意味・わかりやすい解説

相対論的量子力学
そうたいろんてきりょうしりきがく
relativistic quantum mechanics

特殊相対性理論を取り込んだ量子力学。量子力学の基本方程式であるシュレーディンガー方程式は古典物理のニュートン力学に対応したもので、時間について1階、空間について2階の微分方程式であり、ローレンツ変換に関して不変ではない。特殊相対性理論はローレンツ変換に対して不変なので、シュレーディンガー方程式を特殊相対性理論に適合させるために、O・クラインとゴルドンWalter Gordon(1893―1939)がシュレーディンガー方程式を特殊相対性理論の分散関係(全エネルギーと質量エネルギーおよび運動量の関係)を使い、ローレンツ変換に対して不変になるように定式化した。これをクライン‐ゴルドン方程式とよぶ。しかしクライン‐ゴルドン方程式はスピンについて考慮されておらず、スピン0の粒子についての方程式であった。そのため、半整数のスピンをもつ電子への適用を考え、ディラックがクライン‐ゴルドン方程式を拡張したディラック方程式を提案した。このディラック方程式は負の質量をもつ電子を予言したが、後に、その粒子は電子の反粒子(陽電子)であることが判明した。ただし、いまだに一般相対性理論を取り込んだ量子力学は完成していない。

[山本将史 2022年3月23日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「相対論的量子力学」の意味・わかりやすい解説

相対論的量子力学
そうたいろんてきりょうしりきがく
relativistic quantum mechanics

特殊相対性理論の要請を満たす量子力学。 1928年 P.A.M.ディラックは初めて相対論的な電子の波動方程式を求め,電子のスピンを導き出した (→ディラック方程式 ) 。この方程式から陽電子の存在を予言したが,そのためには1個の電子だけでなく必然的に多数の電子を同時に考えなければならない。これは量子論を相対論的にするには場の理論でなければならないということである。場の量子論は 29年 W.ハイゼンベルクと W.パウリによってつくられた。この理論を相対論的な形に定式化したのが朝永振一郎の超多時間理論 (1943) である。

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