ドイツの法哲学者,刑法学者。法哲学における価値相対主義,法学論における自由法論,刑法における教育刑論の代表者の一人。リューベックに生まれ,ミュンヘン,ライプチヒ,ベルリン各大学に学び,1904年ハイデルベルク大学私講師,10年同員外教授となった。以後キール,ケーニヒスベルク各大学教授を歴任した後,20年より24年まで,社会民主党代議士に選出され,この間22年より司法大臣として刑法改正案を起草。26年ハイデルベルク大学教授となるが,ナチ政権成立とともに罷免され,国内亡命状態を続けた。その間35,36年オックスフォード大学に招聘された。第2次大戦後ハイデルベルク大学に復帰,法学部長をつとめ,48年退職。
学生時代にR.シュタムラー,後に友人E.ラスクなどの影響をうけ,存在と当為,認識と信仰の二元論という新カント主義を基礎として法哲学を展開した。世界観は個人主義,団体主義,文化主義の3類型に分かたれるが,そのいずれが正しいかは認識によっては決定できないとし(価値相対主義),認識に代わって意思と力が社会に平和をつくり出さねばならぬとして,法的安定性を実定法秩序の基本的任務とした(法実証主義)。他方この価値相対主義は実定法を正義と同視しないから,実定法に対する批判を許容する寛容と自由主義を要請し,また監獄政策上は確信犯の特別処遇を要請するとした。さらに正義の不可知性は諸信念の平等な処遇を,したがって民主主義を要請するという。ナチ時代を体験したあと,彼は〈法律は法律である〉とする法実証主義が悪法に対して無力であることを痛感し,自然法論に接近したといわれるが,どの程度接近したのかについては解釈の相違がある。
ラートブルフは,H.カントロビチと並んで,自由法論の最初の主張者の一人であり,法の欠缺(けんけつ)を認め,裁判官の創造的役割を強調した。
刑法思想家,刑法草案起草者としては,F.vonリストやM.リープマンの影響のもとで,刑罰の目的は犯罪者の社会復帰にあるとし,独居房は社会復帰をかえって困難にするとの理由からこれの廃止を唱えるとともに,死刑廃止を唱えた。功利主義刑法理論の古典的思想家A.vonフォイエルバハの伝記研究も有名である。ラートブルフは20世紀中葉の日本の法思想界に大きな影響を与え,多くの翻訳書があり,その集大成として《ラートブルフ著作集》(全10巻)がある。
執筆者:長尾 竜一
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…自己の道徳的,政治的あるいは宗教的信念に基づいて,ある行為を義務と考えたことを決定的な動機とする犯罪,あるいは犯罪者をいう。ドイツの法哲学者・刑法学者G.ラートブルフが提唱した概念であるが,その理論的説明はさまざまである。一般には,確信犯は理想主義的な価値観に基づいて現実社会の変革を目ざす者である。…
…第1次世界大戦後のドイツを中心として一般化した概念であり,所有権の絶対,契約自由の原則,過失責任主義を基本原理とする近代市民法を修正する意味をもつ法を指す。その意義については種々の考え方があり定説はないが,代表的な学説としては,O.F.vonギールケ,G.ギュルビッチ,G.ラートブルフなどの名をあげることができる。このうち日本の社会法理論に大きな影響を与えたのは,ラートブルフである。…
※「ラートブルフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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