手続上は合法的に成立したものであるが,その内容が正義や善に反するとされる法律を言う。このような法律が従うに値するものであるか否かについて,〈悪法も法であるか〉という問題が生ずる。この点については,古来自然法論と法実証主義とが対立してきた。前者は多くの場合実定法を超越する理念や価値が客観的に存在するとし,それに反する実定法はおよそ法たる資格のないものであり,したがって,それに対しては不服従が自然権としてまた義務として肯定されるとする。これを突き詰めれば,悪法を濫発する国家権力は自然法の名において滅ぼされるべきものである。もっとも自然法論者の多くは,自然法認識の困難や,〈悪法も無法にまさる〉ことを理由に,悪法に対する抵抗権をきわめて制限的にしか承認しない。法実証主義は,当の法が合法的に成立した以上は内容の是非にかかわりなく服従すべき法となる,と説く。法実証主義においては,理論上は,法とは実定法以外の何物でもないからである。しかし,法実証主義者も,実践的には個人の価値判断の問題として自然法論と同様の立場をとることも可能である。なお,民主主義的な法体制の下では,裁判所の違憲立法審査権や思想・信条・表現の自由などの基本的人権の保障という形で,悪法の存在を最小限にとどめることが企図されている。
執筆者:長谷川 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般に法の理念にもとる法と解されるが、ソクラテスの裁判をはじめ、悪法への服従義務の問題をめぐって古くから論じられてきた。ソクラテスは、自分はなにも悪いことはしていないと思っていたのに、死刑の判決を受けて、友人の脱獄の誘いを断って、自ら毒杯を仰いだ。これは「悪法も法なり」Dura lex, sed lex(ラテン語)という考え方を実践したものといわれる。悪法に対する考え方には次のようなものがある。(1)「悪法は法でない。これに対しては抵抗権がある」という自然法論にたった考え方。(2)「悪法は悪いが、人間は自分に都合の悪いことを悪いと思いがちで、かってな抵抗を許すと、無秩序となるから、抵抗は慎重にすべきである」という考え方。(3)「何が善で何が悪かに客観性はないから、客観的な意味での悪法は存在しない」とする考え方、などである。なお、民主主義は、表現の自由と参政権によって、国民が悪法と思うものを、合法的に変革する機能をもつ制度であるといわれる。
[長尾龍一]
『穂積陳重著『法窓夜話・上』(岩波文庫)』
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
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