日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラー」の意味・わかりやすい解説
ラー
らー
Ra
古代エジプト宗教における原初の神で太陽神。神々や人間を含む万物の創造者であり、生命や作物の源泉とされる。楔(くさび)形文字文書での表記をローマナイズするとRi-e(これはRēの音を表す)であるところから、レーと書かれることもある。第五王朝(前2500以降)にデルタ地帯南部、今日のカイロ市郊外のインヌ(ヘブライ名オン、あるいはベート・シェメシュ「太陽の館」、ギリシア名ヘリオポリス「太陽の都」)がラー崇拝の中心地になり、ラーは主神の位置を占めるようになった。こののちにはファラオ(エジプト王)の称号にも「ラーの息子」が加えられるようになり、のちにはラムセス(ラー・メス「ラーから生まれたもの」)のような名も使われた。中・新王国時代にはテーベの地着きの神であるアモン(アメン)と合体したアモン(アメン)・ラーが最高神として勢力をもった。太陽神としてのラーは、昼は太陽船に乗って東から西へと天空を移動し、夜は天空の女神ヌトの体内を通ってふたたび東方へ戻ると考えられていた。ラーはしばしば天空神としての鷹(たか)、あるいは太陽円盤を頭上にのせた鷹の頭をした人像として表現される。地平線上に姿を現した太陽はラー・ヘル・フティ(ギリシア語でラー・ハルマキス)とよばれ、この名でよばれたスフィンクスはこれを表現するものとされた。ピラミッドやオベリスクも、ラー神崇拝と関係があると考えられている。
[矢島文夫]