リン光(読み)りんこう(その他表記)phosphorescence

翻訳|phosphorescence

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リン光」の意味・わかりやすい解説

リン光
りんこう
phosphorescence

ルミネセンスの一つ。物質をいろいろな方法で刺激して励起し、その励起が中止したのちにかなり長い時間発光する現象。光または放射線で刺激したとき発せられる光の継続時間は短いものでは10億分の1秒ぐらいであるが、長いものでは数分あるいは数十日に及ぶものもある。この継続時間(残光時間)の短いものを蛍光、長いものをリン光とよんで区別するのが一般的であるが、この定義は厳密ではない。両者の区別は発光機構あるいは温度特性に基づいて行われるべきである。すなわち、蛍光は励起状態からほとんど可逆的に元の状態に戻る際に発せられる光であるのに対し、リン光では励起状態が二次的に変化を受け、いったん準安定状態に移り、ここでしばらく落ち着いていたものが、周囲からの熱振動や新たな刺激によって元の状態に戻る際に発光する現象である。蛍光の強さは時間とともに指数関数的に減衰するのに対し、リン光の強さは二次双曲線的に減衰する。蛍光は原理的には温度の影響を受けないはずであるが、実際には温度の上昇によって励起状態が周囲から干渉されやすくなり、エネルギーを失うため、一般に光の強さは弱くなる。これに対しリン光は準安定状態を解放するのに活性化エネルギーが必要なため、温度が上昇すると明るくなる。この温度特性の差は両者の本質的な差異である。

[中島篤之助]

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改訂新版 世界大百科事典 「リン光」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)光 (りんこう)
phosphorescence

ルミネセンスの一種。物質をなんらかの方法で励起し,その励起を中止した後に長時間にわたって発光する場合,これをリン光という。蛍光が10⁻9秒程度の平均寿命であるのに対して,リン光は数秒に達することもある。ただし,このような区別は明確なものではなく,発光の機構によって定義することも多い。すなわち,物質内の電子が励起状態へ励起された後,直ちに元の基底状態へもどるときに放出する光が蛍光であり,リン光はいったん準安定な中間状態へ移り,その後に基底状態へもどるときに放出される光である。中間状態としては共役系不飽和有機化合物の三重項状態,半導体中の不純物の浅いエネルギー準位などがある。
ルミネセンス
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リン光」の意味・わかりやすい解説

リン光
リンこう
phosphorescence

物質が光や放射線の照射などの刺激を受けて発光するルミネセンスの1種。もともと,ケイ光よりも寿命の長い残光をもつものを一般にリン光と呼び,残光の持続時間によってケイ光と区別していたが,現在では発光の機構によって定義することが多い。この定義は物質によって違うこともあるが,いずれにしても物質が何かの刺激を受けてエネルギーの高い準安定状態になり,それが熱活性を受けて発光するか,禁制遷移によって発光する場合をいうことが多い。刺激が止ってからの残光の時間は 1000分の1秒から1日程度まで物質によりさまざまである。

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化学辞典 第2版 「リン光」の解説

りん光
リンコウ
phosphorescence

古くはルミネセンスと同義に,また蛍光とも区別せずに用いてきたが,現在ではルミネセンスのうち,刺激源を取り除いても発光が残存するものをいう.残存時間で蛍光と区別することもあるが,その境界は不明である.りん光は温度や環境による強度と減衰時間の変化が大きく,減衰も指数関数的でないことが多い.有機蛍光体では,励起三重項状態から基底状態への遷移による発光をりん光といい,励起一重項状態からの遷移を蛍光とよんでいる.りん光は禁制遷移によるので,寿命は長く,かつ周囲の影響を受けやすい.

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百科事典マイペディア 「リン光」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)光【りんこう】

蛍光

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栄養・生化学辞典 「リン光」の解説

りん光

 光励起による発光.

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世界大百科事典(旧版)内のリン光の言及

【蛍光分析】より

…これは励起状態のエネルギーが一部熱エネルギーに変換されるためである。なお一般の蛍光は電子エネルギーに関して一重項状態間の遷移から成り立っているが,励起一重項から無放射遷移して三重項レベルに電子が移り,比較的時間が経過したのち発光が起こる現象をリン光と呼び,蛍光と区別されることが多い。 蛍光分析によって定量される物質には,多環芳香族,色素,トリプトファンなどの特定のアミノ酸,タンパク質,ビタミン,補酵素などの生体物質が挙げられる。…

【鉱物】より

…(6)圧電気 圧力(衝撃)を加えた場合,結晶の両端に異種静電気の帯電がみられる圧電性(圧電気)を示すものもある。(7)ルミネセンス 蛍石のように鉱物の一部には,光,熱,電子線などのエネルギーを与えた場合,これを吸収してその鉱物特有の波長の光を発生する特性(ルミネセンス)をもつものがあり,外部よりエネルギーを受けている間のみ発光する場合を蛍光,その後もしばらく発光が持続する場合をリン光と呼ぶ。約200種の鉱物は紫外線の照射により蛍光またはリン光を発生するため,鉱物の鑑定,特別の鉱石の探鉱などに利用されている。…

【リン(燐)】より

…白リン(黄リン)は最も化学的活性が強く,空気中で50℃で発火燃焼して主として五酸化二リンP2O5(P4O10)を生ずる。湿った空気中では徐々に酸化され,暗所では青白色の微光(リン光)を放つ。したがって白リンは水中に空気を遮断して蓄えなければならない。…

※「リン光」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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