アウストロネシア語族(読み)アウストロネシアごぞく(英語表記)Austronesian

翻訳|Austronesian

精選版 日本国語大辞典 「アウストロネシア語族」の意味・読み・例文・類語

アウストロネシア‐ごぞく【アウストロネシア語族】

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デジタル大辞泉 「アウストロネシア語族」の意味・読み・例文・類語

アウストロネシア‐ごぞく【アウストロネシア語族】

マレーポリネシア語族

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改訂新版 世界大百科事典 「アウストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロネシア語族 (アウストロネシアごぞく)
Austronesian

南島語族〉の意。マレー・ポリネシア語族Malayo-Polynesianとも呼ばれる。西はマダガスカル島マラガシ語)から東はイースター島ラパヌイ語)まで,北は台湾(高山族諸語)およびハワイ島(ハワイ語)から南はニュージーランドマオリ語)に及ぶ広大な地域で話される諸言語を含む語族であるが,オーストラリアとニューギニアの大部分は非アウストロネシア系の言語(オーストラリア諸語パプア諸語)である。正確な言語数は不明だが,おそらく800~1000にのぼるものと推定され,言語数と地域的広がりの点では世界最大の語族である。

アウストロネシア語族は,通常,大別して西部語派(インドネシア語派あるいはヘスペロネシア語派ともいう)と東部語派(オセアニア語派ともいう)の二つに分類されるが,台湾の高山族諸語をそれらに対立する第3の語派と認めるか否か,そして西部語派と東部語派の地理的な境界線は西イリアンのどのあたりにあるのか,についてはいまだに議論が多く,結論を得るにいたっていない。古くはアウストロネシア語族をインドネシア語派,メラネシア語派ポリネシア語派に三大別する学者もいたが,現在では後2者は東部語派の下位区分にすぎないものと考えられている。アウストロネシア諸語を話す人口のほとんどは西部語派に属し(1980年統計で約2億人),東部語派諸語の話し手はわずかにその100分の1(約200万人)にすぎない。

 アウストロネシア語族の故地は,1889年オランダのケルンH.Kernによってインドシナ半島北東部沿岸であったろうと推定され,多くの学者によって支持されているが,アメリカのダイエンI.Dyenは,アウストロネシア諸語の現在における分布状態から推測し,ニューギニアが故地であった可能性を示唆している(1956,65)。

オーストリアのW.シュミットは,アウストロネシア語族とアウストロアジア語族が親縁関係にあったとし,両者を合わせてアウストリック語族なる名称を与えたが,科学的に証明されたわけではない。近年アメリカのベネディクトP.K.Benedictは,アウストロネシア語族がコーチシナ海南島の非漢語系の言語(カダイ諸語と呼ばれる)を介してタイ諸語と親縁関係があるとし,アウストロ・タイ語族を提唱しているが,いまだ定説とはなっていない。

音韻・文法ともに,東部語派よりは西部語派の方がはるかに複雑な体系を持っており,いわば古形を保っている。一般的に言えば,東部語派は著しい簡単化を蒙っており,したがって共時的にも通時的にも研究が比較的容易であるが,西部語派にあっては各言語間の差が甚だしく,研究者の数が少ないこともあって,研究が遅れている。アウストロネシア祖語の再構はドイツのデンプウォルフO.Dempwolffによって一応の集大成を見たが(1934-38),その再構は音韻と語彙の分野にとどまる。その後の研究は主としてダイエンやブラストR.Blustらによってデンプウォルフの再構に修正を加えるという形で進められている。文法の再構は現在のところやっとその端緒についたばかりの段階である。

西部語派諸語における語根の音節構造は,一般に(C)V(C)(Cは子音,Vは母音)であるが,東部語派にあっては末尾子音が脱落し,(C)Vとなる言語が多い。単語の形は原則としていずれの語派でも2音節が基本である。表は以下のような点を例示したものである。東部語派の一般的な特徴である末尾子音の脱落(泣く,雨),p対b(左肩に付したは言語学的な仮定としてあてはめられた表記,形態であることを示す)の対立の消失(7,新),ポリネシア諸語におけるD対lの対立の消失(2,5),水田耕作に関する語彙が東部語派には欠けていること(稲,籾),西部語派の中でも台湾の言語が古形をよく保っていること,など。接頭辞,接中辞,接尾辞には多くの種類があり,さまざまな意味の違いや活用形,派生語を作り得るが(表の〈泣く〉の例を参照),東部語派では接中辞はごく少数の単語に化石化した形で残っているのみである。動詞には能動態受動態の別があり,しかも受動態の中に数種の区別がある(西部語派では焦点focus,東部語派では自動intransitive,他動transitiveと呼ばれることが多い)。主語,目的語,行為者などの別は,動詞の活用形と冠詞によって示される。

 タガログ語では,nag-bigáy(与えた)naŋ(を)bigás(米)ʔaŋ(は)táʔo(人)sa(に)bátaʔ(子ども)〈(その)人は子どもに米を与えた〉,ʔi-b-in-igáy naŋ táʔo ʔaŋ bigás sa bátaʔ〈(その)米は人が子どもに与えた〉,b-in-igy-án naŋ táʔo ʔaŋ bátaʔ naŋ bigás〈(その)子どもは人が米を与えた〉。

 フィジー語では,eratou(彼らは)ŋunu(飲む)wai(水)〈彼らは水を飲む〉,eratou ŋunu-va na wai〈(その)水は彼らが飲む〉。
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百科事典マイペディア 「アウストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロネシア語族【アウストロネシアごぞく】

オーストロネシア語族とも。西はマダガスカル島,東は南米に近いイースター島,北は台湾,ハワイ諸島(ハワイ語),南はニュージーランド(マオリ語)に及ぶ地域の島々,インドシナ半島の海岸地方に分布する諸言語(オーストラリア諸語パプア諸語を除く)を含む。かつてはマレー・ポリネシア語族とも呼ばれた。アウストロアジア語族と合わせてアウストリック(南方)語族とする説があるが,その親族関係は証明されていない。西方のインドネシア語派,東方のオセアニア語派(ポリネシア諸語およびメラネシア諸語)の2語派に分類される。
→関連項目サモア語タガログ語チャム語ビサヤポリネシア[人]ミクロネシア[人]ミクロネシア諸語メラネシア[人]ヤミ

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世界の主要言語がわかる事典 「アウストロネシア語族」の解説

アウストロネシアごぞく【アウストロネシア語族】

西はマダガスカル島から東はイースター島まで、北は台湾、ハワイから南はニュージーランドまでの広大な地域に分布する諸言語を含む語族。言語数は1000近くに及ぶが、それらの間の類縁性と、音韻や文法が、台湾の高山族諸語→西部語派(インドネシア語派)→東部語派(オセアニア語派)の順に単純化していくことから、歴史的には、台湾からフィリピン、インドネシア、マレー半島へと南下して西はマダガスカルまで達し、東は太平洋の島々に広がったと考えられている。西部語派にはタガログ語マレー語ジャワ語、バリ語など、東部語派にはキリバス語、フィジー語、サモア語、トンガ語、タヒチ語、マオリ語などミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの諸語が含まれる。オーストラリアとニューギニアの大部分の言語は、この語族よりも前の先住民のものである。言語的には、2音節語が多い、接辞が派生語をつくる機能や文法的機能をもつ、などの特徴がある。◇名称は「南島語族」の意。マレーポリネシア語族ともいう。英語でAustronesian。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アウストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロネシア語族
あうすとろねしあごぞく

オーストロネシア語族

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アウストロネシア語族」の意味・わかりやすい解説

アウストロネシア語族
アウストロネシアごぞく

オーストロネシア語族」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のアウストロネシア語族の言及

【オセアニア】より

…それら諸語の系統関係は必ずしも明らかでないが,おそらく非常に古い時代には互いに系統関係をもつばかりか,オーストラリア諸語とも親縁関係にあったのではないかと思われる。その他のメラネシアの島々の言語は,アウストロネシア語族に属する諸言語である。このアウストロネシア諸語をもたらした人びとは,人種的にはモンゴロイドであった。…

【東南アジア】より

…しかし例えば,今日の採集狩猟民は,旧石器時代の生活様式をそのまま保存してきたのではなく,農耕民が存在することを前提として特殊な発展を遂げた採集狩猟民であるように,共存によって民族間関係の体系が生まれ,また変化していくのである。
[語族,民族の形成と移動]
 東南アジア大陸部におけるおもな語族としては,アウストロアジア(南アジア)語族のモン・クメール語派,シナ・チベット語族のチベット・ビルマ語派,カム・タイ語派(タイ諸語),アウストロネシア(南島)語族のインドネシア(ヘスペロネシア)語派がある。 モン・クメール語派はインドのムンダ諸語とともにアウストロアジア語族を形成しており,この語派の言語を話す人々は採集狩猟民(ピー・トン・ルアン,セマン),穀物焼畑耕作民(ラメート族ワ族など),平地水稲犂耕民(モン族クメール族,ベトナム人)というように,さまざまな生活様式にわたっている。…

※「アウストロネシア語族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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