アスタチン(読み)あすたちん(英語表記)astatine

翻訳|astatine

精選版 日本国語大辞典 「アスタチン」の意味・読み・例文・類語

アスタチン

〘名〙 (astatine) 放射性元素一つ元素記号 At 原子番号八五。原子量二一〇。半減期八・三時間。ギリシア語の astatos (不安定)にちなんで命名された。

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デジタル大辞泉 「アスタチン」の意味・読み・例文・類語

アスタチン(astatine)

ハロゲン族に属する放射性元素の一。化学的性質沃素ようそに似るが、金属性がより強い。最も寿命の長い同位体半減期8.3時間)で質量数210。元素記号At 原子番号85。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アスタチン」の意味・わかりやすい解説

アスタチン
あすたちん
astatine

周期表17族ハロゲン元素の一つで放射性元素。古くモナズ石中からその存在が発見されたとしてアラバミンとよばれたことがあるが、これはその後否定され認められていない。1940年アメリカの放射線研究所(現、ローレンス・バークレー国立研究所)のコーソンDale R. Corson(1914―2012)とマッケンジーKenneth R. MacKenzie(1912―2002)とセグレは、ビスマス209に高エネルギーのα(アルファ)粒子を当ててアスタチン211を得た。不安定な同位体をもつ唯一のハロゲンなので1947年ギリシア語の不安定を意味するastatosにちなんで命名された。ウラントリウム系列崩壊生成物として天然に極微量存在するが、いずれも半減期1分以下の短寿命である。約20種の同位体が知られているが、普通得られるのはアスタチン210(半減期8.3時間)およびアスタチン211(半減期7.2時間)である。

 化学的性質はヨウ素に似ているが、ヨウ素よりも金属性が強い。酸化数-Ⅰ、Ⅰ、Ⅲ、Ⅴ、およびⅦの化合物をつくる。単体は室温で揮発性のある固体。水に溶ける。水溶液は安定で、ベンゼン四塩化炭素などで抽出できる。二酸化硫黄や亜鉛で還元されてAt-を生じ、水中で臭素あるいは鉄(Ⅲ)で酸化されてAtO-を生成する。

[守永健一・中原勝儼]


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化学辞典 第2版 「アスタチン」の解説

アスタチン
アスタチン
astatine

At.原子番号85の元素.電子配置[Xe]4f 145d106s26p5の周期表17族人工放射性ハロゲン元素.ギリシア語の“不安定”を意味するαστατοσから名づけられた.1940年,カリフォルニア大学でD.R. Corson,K.R. MacKenzie,E. SegréによってBiをα粒子で衝撃して得られた.現在,知られている同位体核種は,194~223の範囲に核異性体を含めて41種.質量数210の核種がもっとも長寿命で半減期8.1 h.211Atは7.2 h,209Atは5.4 h.209Atと210Atは主として β 崩壊,211Atは β 崩壊とα崩壊がほぼ同じ割合で起こる.天然にも,ごく微量の218Atがウラン系列,215At,219Atがアクチニウム系列,216Atがトリウム系列の分岐中間崩壊生成核種として存在する.Biのα粒子衝撃後,ターゲットから昇華法で比較的長寿命の209,210,211Atが得られるが,化学実験用のトレーサーとしてしか用途はない.融点302 ℃,沸点337 ℃ のハロゲン.一般的性質はヨウ素に似るが,ヨウ素より金属性である.ヨウ素と同様,人体に入ると甲状腺に集中する.ハロゲン間化合物AtCl,AtBr,AtIが合成された.酸化数-1,1,3,5,7.水に微溶,ベンゼン,四塩化炭素,二硫化炭素に可溶.[CAS 7440-68-8]

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改訂新版 世界大百科事典 「アスタチン」の意味・わかりやすい解説

アスタチン
astatine

周期表ⅦB族ハロゲン元素に属する放射性元素。1940年にコーソンD.R.Corson,マッケンジーK.R.Mackenzie,セグレE.Segrèが,30MeVのα粒子によりビスマスを衝撃して人工的につくり出した。のちギリシア語の不安定を意味するastatosにちなんで命名された。20種の同位体があり,最も寿命の長いのは210At(半減期8.3時間,電子捕獲およびα崩壊)である。いくつかの同位体が天然にもごくわずかに存在することがのちに知られた。常温では固体で揮発性があり,ヨウ素に似ているが,さらに金属性が強い。水にわずかに溶け,二硫化炭素や四塩化炭素に溶ける。二酸化イオウで還元されてAt⁻,臭素酸化されるとAtO⁻(強く酸化されるとAtO3⁻が生ずるとも推定されている)となる。HAt,CH3At,AtCl,AtBr,AtIなどの化合物が知られている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アスタチン」の意味・わかりやすい解説

アスタチン
astatine

元素記号 At ,原子番号 85。周期表 17族,ハロゲンの1つ。十数種類の同位体が人工的につくられているが,短寿命のものが多い。アスタチン 210 (半減期 8.3時間,α壊変および電子捕獲) と 211 (7.2時間,α壊変および電子捕獲) が最も長寿命で,普通に得られる。天然にはアクチニウム系のアスタチン 219,216,ウラン系の 218がわずかに存在することが認められている。 1940年 D. R.コーソン,E. R.マッケンジー,E.セグレによる 209Bi(α,2n)211At 反応により初めてこの元素が得られた。化学的性質はヨウ素に類似し,常温で単体は固体,揮発性がある。

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百科事典マイペディア 「アスタチン」の意味・わかりやすい解説

アスタチン

元素記号はAt。原子番号85。ハロゲン元素の一つ。放射性。1940年D.R.コーソン,K.R.マッケンジー,E.セグレらがビスマスに高速のヘリウムイオンをあてて211Atを得,1947年ギリシア語のastatos(不安定の意)にちなんで命名。ポロニウムのβ崩壊により天然にわずかに存在することが知られる。最も半減期の長い核種は21(0/)At(8.3時間)。化学的性質はヨウ素に似る。
→関連項目セグレ

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世界大百科事典(旧版)内のアスタチンの言及

【人工元素】より

…天然に存在せず,人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素をいう。ふつう,周期表上原子番号43のテクネチウムTc,61のプロメチウムPm,85のアスタチンAt,87のフランシウムFr,および93のネプツニウムNp以降の諸元素(超ウラン元素)を人工元素とみることが多い。しかし,この定義は厳密なものとはいえない。…

※「アスタチン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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