アリ(蟻)(読み)アリ

百科事典マイペディアの解説

アリ(蟻)【アリ】

膜翅(まくし)目アリ科に属する昆虫の総称。ハチ類の中の一群で,触角が膝(ひざ)状で,腹部第1節が他の腹節から完全に分離している点で,他のハチ類から区別される。日本にはクロヤマアリクロオオアリなど約250種,全世界に約5000種もあり,体長も約2mmの微小種から25mmに達する大型種まである。大部分は社会生活をし,1匹の女王と多くの働きアリ,種類によって兵アリのあるものもある。繁殖期には翅のある雌雄のアリが現れ,空中で交尾し,雌は地上におりて翅を落として巣を作り女王となる。生活はさまざまで,甘味を好むことは共通であるが,食物は種類によって異なる。巣は多くは地中に掘られ,縦横のトンネルとその間に作られる小室からなる。

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世界大百科事典 第2版の解説

アリ【アリ(蟻) ant】

膜翅目(ハチ類)アリ科Formicidaeに属する昆虫の総称。女王(雌)アリを中心に家族的な集団(コロニー)で生活する。働きアリという無翅の階級が存在すること,胸部と腹部の間に1節,または2節の腹柄節という小型の独立した体節があること,雌アリと働きアリの触角は第1節(柄節)が長くのびて第2節以下とはひじ状に接続するなどの特徴をもつ。 原則的に雄アリ,雌アリおよび働きアリの3階級(カースト)がある。雄アリは無精卵から発生し,体細胞の染色体は雌性の半数。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アリ(蟻)
あり / 蟻
ants

昆虫綱膜翅(まくし)目アリ科Formicidaeに属する昆虫の総称。極地や高山帯上部など気候条件のきわめて厳しい地域を除いて、全世界の陸地に分布している。世界に約5000種が報告されており、未記載の種を含めると1万5000種に上ると推定されている。日本には約200種が生息している。アリは女王を中心に家族的集団生活(社会生活)を営み、そこには明らかなカースト(階級)の分化があり、仕事の分業がみられる。集団は栄養交換や化学的情報伝達手段などによって統合維持される。[山内克典]

形態

成虫には基本的に三つのカースト、すなわち雄、女王、働きアリ(職アリともいう)があり、それぞれ特徴的な形態をしている。種によっては、働きアリに頭部が異常に発達した大形の個体(兵アリまたは兵隊アリとよばれる)がみられる。アリの大きさは、働きアリで大部分のものが体長2~10ミリメートルの範囲に入るが、日本産で最小のコツノアリは約1ミリメートル、クロオオアリでは14ミリメートルに達する。東南アジアに分布するギガスオオアリには30ミリメートルに及ぶものがある。女王アリは一般に働きアリより大きく、最大のものはサスライアリの女王で約50ミリメートルになる。雄は一般に女王より小さい。
 アリの成虫の体は、三つのカーストとも頭部、胸部、腹部に区分できるが、ハチ類と異なり、胸部と腹部の間に腹柄節がある。頭部は雄が相対的に小さいが、複眼と3個の単眼がよく発達している。働きアリでは、単眼は痕跡(こんせき)的かあるいは消失しており、複眼も種類によってはほとんど退化している。触角は重要な感覚器官で、基部の柄節と残りの鞭(べん)状部に分けられる。一般に雄では13節、雌では12節からなる。種類によってはこれより少なく、トフシアリの雌では10節、ウロコアリの雌では4節である。大あごは普通よく発達して頑丈であり、物をかんだりくわえたりするのに適している。形は多くの種がほぼ三角形の形状をしているが、食性や習性によって、鋸(のこぎり)状、鎌(かま)状、三つまた状など変化がある。胸部は、前胸、中胸、および腹部第1節(前伸腹節)が融合した後胸からなる。雄と女王では一般に2対のはねがあり胸部は発達しているが、働きアリは無翅(むし)で胸部の構造は単純化している。女王は交尾後に、脱翅する。胸部と腹部の間に1節または2節からなる鱗片(りんぺん)状、球状、あるいは棒状の腹柄節がある。これらは形態学的には腹部第2節または第2・第3節である。腹部は円筒状ないし卵状。雌では、ハリアリ亜科、フタフシアリ亜科などの多くの種は腹端に毒針をもつが、ヤマアリ亜科では円錐(えんすい)状のノズルとなっていて、ここから蟻酸(ぎさん)を放出する。
 内部構造では、成虫の(そのう)がよく発達し、食物は働きアリの嚢に蓄えられ、コロニー(巣の中の女王を中心とした集団)内のほかの個体に口移しで分配される(栄養交換)。嚢の著しく発達した例はミツアリにみられる。大あご腺(せん)、後胸側腺、パバン腺など体内各部に分泌腺が発達し、そこから社会的、性的情報伝達を担う化学物質(フェロモン)が分泌される。女王では卵巣、雄では精巣がよく発達し、腹部の大部分はこれらの生殖器官で占められる。[山内克典]

発生とカーストの分化

アリは完全変態を行い、卵→幼虫→前蛹(ぜんよう)→蛹(さなぎ)→成虫の順に発育する。卵は乳白色でやや細長く、普通互いに緩く粘着して塊となる。幼虫は白色のウジ虫状で肢(あし)を欠き、体表には各種の体毛があり、互いに付着して塊になり、卵と同様に働きアリの運搬に好都合である。幼虫の齢数に関する確実な調査は少ないが、おおむね3~4齢を経過すると考えられている。ハリアリ亜科やヤマアリ亜科では、幼虫は繭をつくり、その中で蛹化するが、フタフシアリ亜科やルリアリ亜科は、繭をつくらない。
 働きアリは雌性の不完全に発育したもので、普通、女王と同様に受精卵から発生する。両者への分化は、幼虫期の食物の質および量の差によって引き起こされる。つまり、高タンパク質の食物が多く与えられた幼虫は女王に育つ。そのほか、卵内に蓄えられた栄養分の差や、女王物質による抑制の有無などが関与している。働きアリと兵アリの分化も、幼虫期の食物の成分および量の違いに由来する。種類によっては、女王と働きアリの中間形であるインターカーストが発生することもある。
 ほとんどすべての種は女王と働きアリをもつが、トビイロシワアリの巣に寄生するヤドリアリは働きアリを欠き、アミメアリでは女王がなく、働きアリの単為生殖のみで繁殖する。雄は無精卵から発生し、その体細胞の染色体は雌性の半数である。[山内克典]

コロニーの創設と成長

成熟したコロニーでは、年1回羽アリ(女王と雄)が育てられる。羽アリは夏から秋にかけて羽化し、一般に温度や湿度の高い無風の日に一斉に結婚飛行に飛び立つ。結婚飛行の時刻は種によってほぼ一定しており、クロヤマアリやクロオオアリでは日中、トビイロケアリでは早朝が多く、キイロケアリでは夕方、ハヤシトビイロケアリやカワラトビイロケアリでは日没直後におこる。夕方から日没直後に結婚飛行を行うケアリ類では、夜間、羽アリの大群が灯火に飛来することがある。交尾は空中または地上で行われ、その後まもなく雄は死に絶える。受精嚢に精子を蓄えた女王は、小さな巣室をつくって閉じこもる。やがて女王は少数の卵を産み、唾液(だえき)で幼虫を養う。腹部の脂肪体や不要になった飛翔(ひしょう)筋は分解されて幼虫に与えられる。高等なヤマアリ亜科やルリアリ亜科などのアリでは、巣作り以降女王は巣外に出ることはないが、下等なキバハリアリやノコギリハリアリでは女王はしばしば巣外に出て採餌(さいじ)活動を行う。最初に育てられた個体はすべて矮小(わいしょう)な働きアリで、採餌や幼虫あるいは女王の世話を行い、女王は産卵活動に専念するようになる。働きアリの増加とともに女王の産卵力は高まり、コロニーは年ごとに成長していくが、一定の大きさに達すると幼虫の一部から羽アリが育てられるようになる。女王の産卵力には生理的限界があるため、コロニーの成長はやがて頭打ちとなり、女王の死によって滅びていく。アリの寿命について正確な調査はないが、働きアリで1~2年、女王アリで十数年ぐらいと推定される。コロニーの成長はロジスティック曲線(成長を表すS字状曲線の一方式)に従うことがハキリアリで明らかにされている。
 十分成長したコロニーにおける働きアリの個体数は、クビレハリアリやカドフシアリでは数十であるが、高等な種では普通数千から数万になり、グンタイアリでは200万、サスライアリでは2000万に及ぶ。
 コロニー創設には女王が単独で行うもののほかに、複数の女王が共同して行うプレオメトロシス(多雌創設)、女王が他種のアリのコロニーに入り込んで自分の子供を育てさせる社会寄生、女王と働きアリが母巣を出て新しいコロニーをつくる分巣がある。プレオメトロシスはシワクシケアリでしばしばみられ、分巣はツノアカヤマアリやエゾアカヤマアリで普通に行われる。一時的社会寄生種は日本で十数種が知られている。たとえば、アカヤマアリはクロヤマアリに、クロクサアリはアメイロケアリに、アメイロケアリはトビイロケアリに、トゲアリはクロオオアリにそれぞれ一時的に寄生する。一時的社会寄生では、寄主アリの女王は寄生アリの女王か働きアリによって殺されるため、初期には2種の働きアリをもつ混合コロニーがみられるが、やがて寄生種の純粋なコロニーが出現する。サムライアリの女王もクロヤマアリのコロニーに寄生して自分のコロニーを創設するが、サムライアリの働きアリは採餌や幼虫の養育ができないため、毎年夏にクロヤマアリを対象に繭や幼虫を略奪する奴隷(どれい)狩りを行い、奴隷にその役目をさせる。このようなコロニーはつねに両種の働きアリをもつ混合コロニーであるが、奴隷狩り以外にはサムライアリの働きアリは巣外に出ないので、普通クロヤマアリの巣と区別がつかない。アカヤマアリもクロヤマアリを奴隷狩りするが、前者の働きアリはサムライアリと異なり、採餌や育児活動を行う。
 多くの種では一つの巣の女王数はただ1匹(単女王性)であるが、種類によっては女王が結婚飛行後に母巣に戻り、あるいは母巣内で交尾をして居残ることにより、一つの巣に数匹ないし数千の女王がみられる(多女王性)。多女王性の巣では、女王個々の産卵力は低下するが、コロニー全体の産卵力は高まる。単女王性のコロニーの成長は一定の大きさで頭打ちになるのに対し、多女王性のコロニーでは営巣場所や餌(えさ)に限界がなければ、その成長は無限である。多女王性のエゾアカヤマアリのコロニーは新しい巣をつくり次々に分裂していくが、分裂した巣の間には個体の交流があり、個々の巣は単なる分室にすぎない。北海道石狩海岸には約20キロメートルにわたって無数のエゾアカヤマアリのアリ塚が分布しているが、それらの間には個体の交流があり、全体が一つの巨大なコロニーと考えられている。[山内克典]

情報伝達

アリのコロニーを統合する上で、体内各部の分泌腺から生産される物質であるフェロモンが重要な役割をもっている。巣が侵入者に侵された場合、物質を分泌発散させ、仲間に警報を送る。これが警報フェロモンで、大あご腺などから分泌され、低濃度では仲間を誘引し、高濃度では忌避作用をもつことが知られている。餌のありかを仲間に知らせる場合もフェロモンが用いられる。餌をみつけたアリは、太陽の位置から方角を判定して帰巣する。ミツバチ同様アリは偏光を感じると考えられている。液状の餌をとったアリは、興奮状態になり、腹部末端から道しるべフェロモンを地面につけながら帰巣する。仲間のアリはフェロモンをたどって餌を発見するが、最初はフェロモンが薄くまばらなために効率は悪いが、帰巣する個体が増すにつれ、フェロモンは濃くなり、明らかなアリの行列が形成される。道しるべフェロモンは、後腸、毒腺、パバン腺などから分泌される。女王物質は分離・同定されていないが、アリ類にも広く存在していると思われる。女王の存在は、クシケアリでは幼虫が女王に分化するのを抑制し、ムネボソアリやヤマアリ類では働きアリの産卵を抑制する。性フェロモンについては、北アメリカのフロリダにすんでいるキセノミルメックス・フロリダヌスXenomyrmex floridanusで明らかにされている。この種類の女王の毒腺分泌物は雄を誘引し、交尾行動を刺激する。
 多くの種類でそれぞれのコロニーは縄張り(テリトリー)をもち、ほかのコロニーの個体に対して排他性を示す。仲間と他のコロニーの個体の識別は体表に染み込んでいるコロニー臭の違いによると考えられている。[山内克典]

アリの巣は、地中につくられるものと地上部につくられるものとに大別できる。一般に、熱帯、亜熱帯では地上営巣性の種類の割合が高く、寒冷地では大部分の種は地中に営巣する。また、乾燥地では巣は地中深くつくられる傾向がある。
 アミメアリやアギトアリなどは、石下や倒木下などの空間をそのまま巣として利用し、しばしば巣を移転する。サスライアリはまったく巣をつくらず、宿営のときは働きアリ自身が外被となって、中に女王や幼虫を保護する。ムネボソアリやシベリアカタアリは枯れたススキ、タケ、樹木の小枝の中空部に営巣する。ヒラズオオアリも小枝の中空部に営巣し、兵アリは盾状に特殊化した頭部で出入口の小孔(こあな)をふさいでいて、仲間のアリが出入りするときだけ入口を開く。クロヤマアリやクロナガアリの巣は地中につくられ、その深さはそれぞれ3メートルと4メートルに及ぶ。ハヤシキイロケアリとミツバアリは、樹木やタケの根に沿って地中深く巣を広げ、ネアブラムシやカイガラムシを飼養して生活し、結婚飛行の時期以外は地表に現れない。トビイロケアリは倒木や切り株など湿った朽ち木に好んで営巣し、巣外のアリ道やアブラムシを飼養している樹幹部を土や木くずでトンネル状に覆う。クロクサアリは樹幹の空洞などに土や木くずを用いて、ボール紙状の壁で仕切られた多数の巣室からなる巣(カートン巣)をつくり、近くの樹木のアブラムシから蜜(みつ)を集める。クロクサアリの行列は日本のアリのなかでもっとも大規模なものである。カートン巣は熱帯ではシリアゲアリ類など多くの種によって樹上にもつくられる。アジアの熱帯に広く分布するツムギアリは、幼虫を大あごでくわえ、その吐き出す絹糸で木の葉をつづり合わせて樹上に巣をつくる。ジャワ島のトリデルリアリは、アリノストリデというアカネ科の植物の茎の中に営巣する。この植物の茎は太く膨れており、若いときは貯水器の役を果たすが、成長すると乾いて空洞となりアリに利用される。ボルネオ島のボルネオシリアゲアリとアリヤドリギ、メキシコのアカシアアリとアカシアなどの間にも密接な関係があり、このような植物をアリ植物という。
 アリの巣内には、さまざまな小動物が生活しているが、これらのうちアリとは無関係に生活できないものをアリ動物という。チョウ類のクロシジミの幼虫は3齢に達すると、クロオオアリの働きアリによってアリの巣に運ばれ、アリから口移しで食物を与えられて成長する。一方、アリはクロシジミ幼虫の背面にある腺から分泌される蜜をなめる。このようなチョウとアリの共生関係は、キマダラルリツバメとハリブトシリアゲアリ、ゴマシジミとシワクシケアリなどにもみられる。ヤマアリ類の巣にすむアリノスハネカクシ、トビイロケアリの巣にすむヒゲブトアリヅカムシは、腹部背面から蜜を分泌しアリから保護される。アリの巣にすみ、アリの死骸(しがい)や食物の残りを食べて生活するが、アリからとくに保護されないものに、アリスワラジムシ、アリヅカエンマムシ、アリヅカコオロギなどがある。ハキリアリの巣に生息するゴキブリ類のアッタフィラは、ハキリアリの道しるべフェロモンにアリと同じように反応することが明らかにされており、アリとアリ動物の共生機構を知るうえで興味深い現象である。[山内克典]

食性

アリの食性は多様に分化している。キバハリアリ亜科やハリアリ亜科などの下等なアリ類はほとんど肉食である。昆虫の幼虫、ミミズ、小動物の死骸など餌の範囲は広いが、なかには特殊な食物に限定されるものもある。ワタセハリアリやミゾカシラハリアリはムカデ類の卵を、ウロコアリはトビムシ類を、クビレハリアリはほかのアリ類をもっぱら主食とする。高等なアリでは植物食もみられるようになる。クロナガアリは秋に草の種子を集めて巣に蓄え、冬から夏の間は地中の巣の中で生活する。トビイロシワアリも肉食するほかに種子を集めて食物とする。中央アメリカから南アメリカにすむハキリアリの食性は特殊で、植物の葉を切り取って地中の巣に運び、その上にある種の菌糸を培養して食物とする。高等なアリの多くは雑食性で、動物性食物のほかに花や葉の蜜腺(みつせん)の分泌物、アブラムシやカイガラムシなどの分泌する甘露など多くのものが加わる。とくにアブラムシとの共生関係は安定して食物を獲得するうえで重要と考えられる。[山内克典]

分類

亜科の分類は研究者によって多少異なるが、やや細分的なものでは現生のアリは12亜科に分けられる。このうち、アカツキアリ亜科Nothomyrmiciinaeとハリルリアリ亜科Aneuretinaeは1属1種からなり、それぞれオーストラリアとスリランカにのみ産する。キバハリアリ亜科Myrmeciinaeも分布範囲は狭くオーストラリアとニューカレドニア島に産する。サスライアリ亜科Dorylinaeとグンタイアリ亜科Ecitoninaeは、熱帯、亜熱帯地方に生息するが、前者はアジア、アフリカに、後者は中央アメリカから南アメリカに分布している。ナガフシアリ亜科Pseudomyrmicinaeは全世界の熱帯、亜熱帯地方に分布するが、日本では未発見である。日本からは、次の7亜科を産する。
(1)ハリアリ亜科Ponerinae 腹柄は1節で、腹部は第1節と第2節の間で多少くびれ、毒針がある。日本産はノコギリハリアリ、ワタセハリアリ、アギトアリ、オオハリアリなど約20種が知られている。
(2)ムカシアリ亜科Leptanillinae 小形で細長いアリで、雌は無翅、雄ははねの翅脈を欠く。体の各部に退化現象がみられるが、サスライアリやグンタイアリと近いグループと考えられている。日本からはヤスマツムカシアリなど5種類が発見されている。
(3)サスライアリ亜科Dorylinae アジア、アフリカのグンタイアリで、巣は一定せず、毎日のようにコロニーを移動する放浪期と一時的に定住する停滞期が交互に現れる。採餌活動は大規模で、おびただしい個体群が密集して活動するので、黒いじゅうたんといわれて恐れられている。日本では、沖縄の西表(いりおもて)島からヒメサスライアリの1種が発見されている。
(4)クビレハリアリ亜科Cerapachyinae 他種のアリを集団的に襲撃しアリを主食とするグループで、コロニーの移動を頻繁に行う。日本から2種類が知られている。
(5)フタフシアリ亜科Myrmicinae 腹柄は2節で腹端に毒針がある。もっとも大きな亜科で、130属2000種以上を含む。日本産はアミメアリ、アシナガアリ、シワクシケアリ、クロナガアリ、ウロコアリなど約70種類。草の種子を集める収穫アリ、菌類を培養するハキリアリもこの亜科に含まれる。
(6)ルリアリ亜科Dolichoderinae 腹柄は1節で、腹端の毒針は痕跡(こんせき)的。幼虫は繭をつくらない。日本産はシベリアカタアリ、ルリアリなど6種類である。
(7)ヤマアリ亜科Formicinae 腹柄節は1節で、腹部末端に毒針はない。幼虫は普通繭をつくる。フタフシアリ亜科に次いで多くの種類を含む。日本産はクロヤマアリ、クロオオアリ、トビイロケアリ、サムライアリ、トゲアリ、アメイロアリなど約60種。ツムギアリやミツアリもこの亜科に含まれる。
 以上の現生の亜科のほかに、化石からアケボノアリ亜科が知られている。北アメリカのニュー・ジャージー州の白亜紀層の琥珀(こはく)から発見されたアケボノアリ1種からなる亜科である。アケボノアリはこれまで知られているアリのうちもっとも原始的な形態をもつが、カーストの分化があり、アリは1億年前にはすでに階級と役割が分化した社会性(真社会性)を獲得していたことを示している。[山内克典]

人間生活との関係

ハキリアリは木の葉を切り取って集めるため、ブラジルなどでは、コーヒー園の大害虫である。多くのアリはアブラムシを保護し、間接的に植物に害を与える。しかしこの点だけで、アリを害虫として簡単にかたづけることはできない。たとえば、ヨーロッパのエゾアカヤマアリの仲間は、アブラムシを保護する一方、マツ林の害虫やその幼虫を大量に捕食するので、森林害虫の天敵として保護されている。また、中国やインドでは、ツムギアリがミカン類の害虫駆除に古くから利用されてきた。
 オオハリアリやシワクシケアリに刺されると強い痛みを感じるが、日本ではこのような被害を受けることはまれである。熱帯にすむアリには、アカカミアリやキバハリアリのように、大あごが強くて鋭く、かまれたり刺されたりすると非常な痛みを感じ、また痛みやはれが持続するものがある。
 最近では、電気系統の配線やスイッチなどがアリの被害を受けることがある。日本では1969年(昭和44)から2年間に、ルリアリがリレー装置に入り込み、鉄道の信号機が22件も故障したといわれる。そのほか、ヒメアリが電話線のリレー装置に入り込んで故障させた例や、クロクサアリが自家発電のモーターに入り込んで故障させた例がある。[山内克典]

民俗

身近で社会的な生活を営むためか、アリには昆虫類では珍しく、人間との類同性を説いた伝承が多い。その顕著な例は、アリが最初の人間になったというもので、北アメリカの先住民、ポピ人では、最初の人間はアリであったと信じ、アパッチ人はナバホ人をアリ人間とよんでいる。また、インド洋のアンダマン島民は、タケの中から生まれた男がシロアリの巣からとった粘土でつくった女と結婚し、人間の先祖になったと伝えている。
 アリは物事を予知して行動するとして、その動きを何かの前兆とみる風習も多い。日本ではアリが闘うと雨が降るといい、アイヌでは大きな黒いアリが多くみられるのを凶年の前兆とする。類似の伝えはアメリカにもあり、ヨーロッパでもアリに関して縁起のよしあしがいわれる。南アメリカのインディオには、アリにかまれることに宗教的な意義を認めている部族があり、アパライ人では全身を大きな黒いアリにかませて病気などの悪いものを祓(はら)う。部族によっては、少年や少女が一人前になるための儀礼的試練として、アリにかませる習慣もあり、アリと人生が深くかかわっている。[小島瓔
『古川晴男著『蟻の結婚 増補新装版』(1971・法政大学出版局) ▽常木勝治著『アリの生活』第2版(1976・千代田書房) ▽森下正明著『生態学講座19 動物の社会』(1976・共立出版)』

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世界大百科事典内のアリ(蟻)の言及

【アリ植物(蟻植物)】より

…植物体の一部をアリの生活場所として提供し,アリと共生関係にあるといわれる植物で,熱帯地方に多い。アリに住居を提供する代償として植物体が外敵から保護されているといわれるが,具体的に共生関係が確かめられた例はない。…

【社会性昆虫】より

…語感から一般に〈集団生活をしている昆虫〉ととられがちだが,実際はおもにアリ,シロアリおよび一部の集団性ハチ類(カリバチ類waspsのアシナガバチ,スズメバチやハナバチ類beesのミツバチ,ハリナシバチ,マルハナバチ,一部のコハナバチなど)に対して用いられるもので,以下この意味で解説する。これらの昆虫の特性は,集団(コロニー)がカースト制によって維持されている点にある(ヒトにおけるカースト制とは,表面的類似はあっても無関係)。…

【ツチブタ(土豚)】より

…原始有蹄類の生きのこりと思われ,他に近縁種はなく,この1種だけで管歯目Tubulidentataをつくる。円盤状の鼻をもち,体型も全体にブタに似るが,アリとシロアリを主食とする特殊化した動物。胴が太く首は短い。…

※「アリ(蟻)」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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