生体膜にあって,イオン,とくに無機イオンを能動輸送するタンパク質.動物,植物を通じて細胞内には K+ が多く,Na+ は少ない.これに対して,細胞をとりまく細胞外液では,Na+ がおもな無機陽イオンなので,Na+ および K+ は濃度勾配に逆らってそれぞれ排出,および吸収されていることになる.このように,細胞膜は Na+ の排出と K+ のくみ入れを行うポンプ作用と,これらのイオンを自由には通さないという隔壁としての性質をもっているが,ポンプ作用は細胞膜中の酵素である Na+,K+-ATPaseによって,ATPの化学エネルギーを消費して行われることが知られている.このようにして生じた Na+ の膜内外の偏りは,膜電位を形成し,神経細胞においては神経電流発生の原因となる.また,動物の腸管吸収の場合や赤血球においても,Na+ による膜内外の濃度勾配(電気化学ポテンシャル)を利用して,糖やアミノ酸が共輸送される.このように濃度勾配に逆らって輸送される無機イオンとしては,Na+,K+ のほかに,H+,Ca2+,Mg2+,Mn2+,HPO42-,SO42-などが知られている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
生体膜を横切ってイオンを能動的に輸送する機構をいう。濃度と電位の勾配(こうばい)に逆らってナトリウムイオン(Na+)を細胞内より排出するナトリウムポンプは、同時に細胞外からカリウムイオン(K+)をNa+対K+が3対2の割合で取り入れるNa+‐K+交換ポンプである。そのエネルギーはアデノシン三リン酸(ATP)の分解によって得られる。このポンプは、Na+とK+により活性化されるATPアーゼで、異なる二つの部分、α(アルファ)‐およびβ(ベータ)‐サブユニットよりなる膜タンパク質分子である。生物界にはほかに、H+ポンプ、Ca2+ポンプ、Cl-ポンプなどが知られている。H+ポンプ(プロトンポンプ)は、ATP分解によるエネルギーを利用した 濃度勾配に逆らったH+の輸送のほかに、ミトコンドリアや葉緑体で、H+の濃度勾配を利用してATPを合成し、エネルギーの生産に働いている。
[村上 彰]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…これに対してナトリウムイオンNa+濃度の分布はカリウムの場合とまったく対照的で,細胞内にはきわめて少量しか含まれない。細胞内外におけるこのような著しいイオン濃度の違いは,細胞膜に存在するイオンポンプと呼ばれる機能によってエネルギー(ATP)を消費しながら積極的に維持されている。細胞内における高濃度のK+は,リボソームにおけるタンパク質合成や多くの酵素系の活性のために不可欠である(たとえば解糖系のピルビン酸キナーゼ)ほか,神経刺激伝達における活動電位の発生に重要な役割を果たしている。…
…スチームエゼクター,油拡散ポンプ,水銀拡散ポンプなどがこの型式に入る。最後の物理・化学作用ポンプは,気体分子を物理的または化学的作用により捕集して真空を作るもので,容器中の気体分子をイオン化して電極で集積するイオンポンプをはじめ,ゲッター・イオンポンプ,クライオポンプなどがある。真空ポンプは1基で1atm以下の全領域にわたる真空を作りだす機能はもたず,2基以上のものを組み合わせる必要がある。…
…この両イオンの濃度こう配は,両イオンの電気化学的ポテンシャル差に抗して,絶えず能動的にこれらイオンを輸送することによって維持されている(これを能動輸送という)。一般にATPの化学エネルギーを直接的に利用してイオンをくみ出したり,取り込む能動輸送の機構をイオンポンプion pumpと呼ぶ。動物細胞では細胞膜に,ATPをエネルギー源として能動的にNa+をくみ出しK+を取り込むカチオン輸送系が存在しており,これを特にナトリウムポンプと呼ぶ。…
…骨格筋の収縮は10-6mol以上のカルシウムイオンCa2+によってもたらされるが,これは筋小胞体膜に10-3mol程度に蓄積されたCa2+が放出されることによる。これらは,Na+,K+‐ATPアーゼ,H+‐ATPアーゼ,Ca2+‐ATPアーゼと呼ばれる酵素により,ATPの有する化学エネルギーを利用してイオンを運ぶ能動輸送過程(イオンポンプion pumpという)に依存している(ナトリウムポンプ)。このようにATPの加水分解などのエネルギー供与と完全に共役した輸送を第一次能動輸送と呼ぶ。…
※「イオンポンプ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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