イヌタデ(その他表記)Polygonum longisetum De Bruyn

改訂新版 世界大百科事典 「イヌタデ」の意味・わかりやすい解説

イヌタデ
Polygonum longisetum De Bruyn

紅紫色の粒状の花を,赤飯にたとえてままごと遊びに用いるので,アカマンマともいうタデ科一年草。茎は分枝をくり返し,斜上または直立し,高さ20~50cm。地表に接した節より根を出し,叢生(そうせい)する。葉鞘(ようしよう)は筒状で等長の縁毛がある。花は密な穂状につき,花被片は淡紅色で5枚,開花後は紅紫色から淡褐色に変化し,三稜形で,長さ2mmの堅果を包む。おしべは8本,花柱は3本。1花鞘より7~8花を連続してつけるので,花期は長く6~10月。日本,中国,台湾,朝鮮,タイ,ネパールの農耕地や路傍に普通にみられる。園芸品種に縮れた葉が密生するウズタデf.contractum Makinoが江戸時代からある。

 イヌタデに似た雑草性のタデ類は何種かある。ハルタデP.persicaria L.は直立し,高さ30~60cm,葉と葉鞘に軟毛があり,果実はレンズ形と三稜形の堅果が一つの花序に混在する。北半球温帯の農耕雑草である。ヨーロッパではアマを黄紅色に染めるのにこの葉を用いた。新石器時代には堅果を食用にした。オオイヌタデP.lapathifolium L.ssp.nodosum Kitam.とサナエタデP.lapathifolium L.は中間型もあり,種内変異は十分には整理されていない。前者は直立し,高さ50~150cm,葉鞘は無毛で赤い脈がある。花期は7~10月,堅果は扁平,円形で2mm。後者は,高さ30~60cm,葉の裏面に白綿毛がある。日本では主に水田に生え,田植のころに開花結実するので,この和名がある。ともに北半球温帯の水辺,路傍,農耕地に広く分布する雑草である。

 北欧では,鉄器時代の初めに一時期栽培化され,そのあとは19世紀末まで雑草として生じたものの種子を集め,かゆにして食べ,酒も造られた。ボントクタデP.pubescens Bl.も水辺に生じる。漢方薬では,オオケタデP.orientale L.とオオイヌタデの堅果をともに水生紅子と称し,瘰癧(るいれき),消渇に薬効がある。また開花前に刈り取って茎葉を染色に用い,クロム媒染で鶸茶(ひわちや)などに染める。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イヌタデ」の意味・わかりやすい解説

イヌタデ
いぬたで / 犬蓼
[学] Persicaria longiseta (Bruijn) Kitag.
Polygonum longisetum Bruijn

タデ科(APG分類:タデ科)の一年草。茎は直立または斜上し、高さ20~50センチメートル、円柱形で普通は紅紫色を帯びる。葉は互生し、広披針(こうひしん)形または披針形で先端がとがり、縁(へり)と裏面脈上に毛がある。葉鞘(ようしょう)は筒状で等長の縁毛がある。花期は6~10月で、枝の先に長さ2~5センチメートルの穂状花穂をつくり、紅紫色、まれに白色の小花をつける。花被(かひ)は5枚で倒卵形、長さ約1.5ミリメートル。雄しべは普通8本、花柱は3本、痩果(そうか)は暗褐色の三稜(さんりょう)形で長さ約1.5ミリメートル、光沢があり、宿存する花被に包まれる。北海道から九州にかけての原野の道端に普通にみられ、また、朝鮮、中国、東南アジアなどに広く分布する。別名のアカマンマは「赤の飯」のことで、粒状の紅花を赤飯に見立て、幼児のままごとに使われることからいう。

[小林純子 2020年12月11日]


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百科事典マイペディア 「イヌタデ」の意味・わかりやすい解説

イヌタデ

アカマンマ,アカノマンマともいう。タデ科の一年草。日本全土,アジアに広く分布。原野や路傍にはえる。茎は下部から枝分れして立ち,高さ30cm内外,広披針形の葉を互生する。托葉の縁には長毛がある。7〜11月,紅紫〜淡紅色の小さな花が穂状に密生してつく。近縁のオオイヌタデは茎が太く,高さ1m以上になり,葉は楕円状披針形で,托葉に毛がない。紅を帯びた白色の花が咲く。
→関連項目アイ(藍)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イヌタデ」の意味・わかりやすい解説

イヌタデ(犬蓼)
イヌタデ
Persicaria longiseta(Polygonum longisetum)

タデ科の一年草で,俗にアカノマンマと呼ばれる。日本各地のやや湿った路傍や田のあぜなどにごく普通に生じる。根もとから多くの茎を伸ばし,タデ科の特徴として葉のつけ根に膜質鞘状のオクレア (葉靴) をもつが,この鞘の上部に長さ 1cmほどの長い毛が多数並ぶ点がこの種類の特徴である。秋に,長い穂を出して紅紫色の小花を密生する。近似の種類が多く,林下の陰地などに生じるハナタデ P. yokusaianaなどがある。 (→タデ〈蓼〉 )  

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世界大百科事典(旧版)内のイヌタデの言及

【アカマンマ】より

…タデ科のイヌタデ(イラスト)やそれに似た雑草性のタデ類に対しての俗称。これらタデ属植物は開花後も赤い花被が残り,黒色の果実をおおっている。…

【タデ(蓼)】より

…狭義にはヤナギタデをさし,広義にはタデ科タデ属Polygonum(英名smartweed,knotgrass,knotweed)のヤナギタデに類似した植物(イヌタデサクラタデオンタデなど)を総称する。 〈蓼食う虫も好き好き〉の語源となった葉の辛いヤナギタデP.hydropiper L.(英名water pepper)(イラスト)はタデ科の一年草で,マタデ,ホンタデとも呼ばれ,葉の辛い真正のタデを意味する。…

※「イヌタデ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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